リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

インスリン分泌促進薬もろもろ-1(SU剤まとめ)

私の勤める病院では、年に数例の低血糖による入院を経験する。そして、その多くでSU剤を内服している。先日も同様の入院が…。

2013-2014年のアメリカの外来患者の薬剤有害事象(ADE)による救急部門受診についての報告では、1年に1000人当たり4.0人(95% CI, 3.1-5.0)のADEによる救急部門受診が発生し、そのうち27.3%(95% CI, 22.2%-32.4%)が結果として入院した。65歳以上の高齢者は、34.5% (95% CI, 30.3%-38.8%)を占め、3つの薬効群(抗凝固薬、糖尿病薬(インスリンや4つの経口薬)、オピオイド鎮痛剤)が59.9% (95% CI, 56.8%-62.9%)のADEによる救急部門受診と関連した。2005-2006年と比べて、抗凝固薬や糖尿病薬のADEによる救急部門受診割合は増加した。1)
少し古い報告ですが、2007-2009年のアメリカの高齢者のADEによる救急入院はワーファリンが33.3%、インスリン13.9%、経口抗凝固薬13.3%、経口抗糖尿病薬10.7%だった。2)
このように、救急部門受診および緊急入院における経口抗糖尿病薬の関与は大きく、その多くがSU剤によるものと推察される。

低血糖の予後については、重篤な低血糖が心血管イベントの高いリスクと強く関連している(相対リスク比2.05, 95% CI 1.74 - 2.42; P<0.001)(超過分:1.56%、95% CI1.32% - 1.81%; P<0.001) (I²=73.1%; P=0.002 )ことが示唆されている。3) さらに、低血糖と認知機能障害の双方向での関連も指摘されている。低血糖歴のある患者の認知症リスクが有意に増加し(統合オッズ比1.68 、95%CI 1.45 - 1.95)、認知症患者における低血糖の有意な増加 (5つの研究からの統合オッズ比1.61 、95% CI 1.25 - 2.06)が認められている。4)

SU剤に関してだが、SU剤による重篤な低血糖発生率は患者1人当たり年に0.045回(95%CI:0.023-0.115)、1回以上の重篤な低血糖の発生率は3.57%(95%CI:1.91-7.56)との報告がある。5) インスリンに比べるとリスクは低いようだが、十分な注意が必要である。
SU剤は腎機能の低下による低血糖リスクの増加が知られており、メトホルミン単独群と比べてSU剤全体ではハザード比2.50(95%CI:2.23-2.82)、CCr≧60では2.04(95%CI:1.73-2.41)なのに対し、30≦CCr<60では2.69(95%CI:2.25-3.20)、CCr<30では4.96(95%CI:3.76-6.55)と、腎機能の悪化とともに低血糖リスクが増加した。6)
この文献ではSU剤間でのリスクの比較もなされており、メトホルミン単剤と比べて、グリベンクラミドが他のSU剤より低血糖リスクが高い傾向にあることが分かった(ハザード比7.48、95%CI:4.89-11.44)。他剤間はほとんど差がなかった(グリメピリド(ハザード比1.97、95%CI:1.35-2.87)、グリクラジド(ハザード比2.50、95%CI:2.21-2.83)など)。またグリクラジドが他のSU剤と比べて低血糖リスクが低いと報告しているものもある。7)
性別でのSU剤の関連した低血糖リスクに関しても報告があり、女性の性別は低血糖症状と有意に関連していることが分かった(女性vs男性; OR 2.04; 95 % CI 1.22-3.41; p = 0.007)。8)しかし、こちらの文献はやや症例数が少ないかもしれない。

最後に長期投与による他の経口抗糖尿病との比較および死亡リスクについて見ていきたい。ソフトエンドポイントではあるが、メトホルミンに上乗せする薬剤としてのグリメピリドとDPP4阻害剤の比較における効果と安全性の報告がある。こちらの文献の結論では、SU剤群の98%以上の患者で低血糖が見られず、有効性も優れており、コスト面からもSU剤を推奨している。9) しかし、この結論には賛同しかねる。確かにコスト面は、明らかにSU剤の方が優れているが、この文献で明らかとなった有効性はHbA1cのわずかな違いだけで、安全性は低血糖が明らかにグリメピリド群で多かったようであり、他の有害事象に関してはこの解析からの判断は難しいように思う。確かに重篤な低血糖が起こる可能性は低いが、重篤な低血糖は重篤な転帰の引き金になる可能性もあり、今回の結果からそう判断するのはやや安易ではないかと考える。
SU剤間の死亡リスクについての報告では、総死亡や死亡に関連したリスクはグリクラジドvsグリベンクラミドで、0.65(95%CI:0.53-0.79)、グリメピリドvsグリベンクラミド0.83(0.68-1.00)、心血管死ではそれぞれ0.60(0.45-0.84)、0.79(0.57-1.11)だった。10)
他の経口抗糖尿病薬との比較では、SU剤の総死亡や心血管死が多いことが示されているものや (それぞれ、ハザード比 1.26, 95% CI 1.10-1.44,HR 1.46, 95% CI 1.21-1.77)11) 、他の治療(プラセボ、食事、他の経口糖尿病薬)との比較で、総死亡(オッズ比 1.12 [95% CI 0.96 to 1.30]、I²=0%)、心血管死(OR 1.12 [95% CI 0.87 to 1.42]、 I²=0%)と有意差はなかったが高い傾向が見受けられた、と報告されているものがある。12)

2016年5月20日に、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会で血糖コントロール目標(HbA1c)が発表された(下表)。この血糖コントロール目標は、患者の特徴や健康状態、とくに認知機能やADLの評価に基づいて、個別に設定することが目標である。13) 高齢者におけるSU剤の使用については、こちらも参考にしていきたい。

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【考察】
いくつかの文献を読んだが、高齢者には積極的には使いにくい印象を受けた。特にグリベンクラミドは避けた方が良さそうである。今回の文献を読む限りではSU剤を使うのであればグリピジドがよい印象で、SU剤の中ではグリピジドが第一選択と書いてある文献もあったが、具体的なガイドライン等は把握していない。ただ実臨床では、グリメピリドが圧倒的に多い印象である。長期予後に関しては、他の糖尿病薬よりもやや悪い印象を受けた。腎機能低下患者に対しても注意が必要である。
有害事象として、抗凝固薬の出血はある程度仕方のないこととは思うが、SU剤の低血糖はどうだろうか?果たしてそのリスクを背負う必要があるのか、未然に防ぐことはできなかったのか、ということを考える必要があると考える。
特に高齢者において今後SU剤に関しては、使わざるを得ない患者を見極めていく必要があると考える。

【おわりに】
見よう見まねでまとめてみましたが、文献の検索はまだまだですし、選択もしっかりとはできてないと思います。アウトカムはプライマリとセカンダリとごちゃごちゃですし。とりあえず第一歩ということで多めに見ましょう。
SU剤については、遷延性の低血糖や二次無効についてもまた調べたいと思います。
DMは今年の私にとっての大きなテーマの一つなので、様々な角度から捉えていきたいと思います。


1) JAMA. 2016 Nov 22;316(20):2115-2125. PMID:27893129
2) N Engl J Med. 2011 Nov 24;365(21):2002-12. PMID:22111719
3) BMJ. 2013 Jul 29;347:f4533. PMID:23900314
4) Diabetes Obes Metab. 2016 Feb;18(2):135-41. PMID:26446922
5) BMC Endocr Disord. 2015 Oct 12;15:57. PMID:26458540
6) BMJ. 2016 Jul 13;354:i3625. PMID:27413017
7) Diabetes Metab Res Rev. 2014 Jan;30(1):11-22. PMID:24030920
8) Clin Drug Investig. 2015 Sep;35(9):593-600. PMID:26293520
9) Int J Clin Pract. 2015 Mar;69(3):292-304. PMID: 25683794
10) Lancet Diabetes Endocrinol. 2015 Jan;3(1):43-51. PMID:25466239
11) Diabetes Obes Metab. 2016 Nov 14. PMID:27862902
12) PLoS Med. 2016 Apr 12;13(4):e1001992. PMID:27071029
13) 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」(日本糖尿病学会)( http://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?page=article&storyid=66)