リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

認知症のBPSDの治療薬もろもろ-7【バルプロ酸って効果あるの??】

たまに出てますよね、バルプロ酸。効いてるの??って思いながら、調剤してますが。

てことで、調べてみました。が、試験がほとんど行われておらず、しかも小規模なものばかり…

でも仕方ないので、それをみていきました。ちなみにバルプロ酸は海外では、「divalproex sodium」としても発売されているようです。

 

まずは、認知症の不穏に対してのバルプロ酸の効果についてのコクランレビューから。

Valproate preparations for agitation in dementia.

Cochrane Database Syst Rev. 2009 Jul 8;(3):CD003945.

PMID:19588348

 

アブストラクトしか読めていないので詳しいことは分かりませんが。

アブストラクトの【著者の結論】のみ紹介しておきます。

「この最新のレビューは、バルプロ酸製剤が認知症患者の不穏の治療に効果的ではなく、容認できない割合の有意外事象と関連しているという以前の報告を裏付けている。認知症患者の不穏へのバルプロ酸の使用に関する更なる調査が必要である。現在のエビデンスの基礎として、バルプロ酸による治療は認知症の不穏に推奨することはできない。」

と。

なんともまあ残念な結果。

 

ということで、このレビューに組み込まれている文献から使えそうなものを2つピックアップして読んでみました。どちらもアブストラクトしか読めませんでした。

Placebo-controlled study of divalproex sodium for agitation in dementia.

(認知症の不穏へのバルプロ酸のRCT)

Am J Geriatr Psychiatry. 2001 Winter;9(1):58-66.

PMID:11156753

 

P:不穏と認知症のあるナーシングホーム入所の患者56人

E:バルプロ酸(用量に関しては個別化されたとの記載のみ)

C:プラセボ

O:種々のスコア

 

デザイン:プラセボ対象ランダム化比較試験(盲検について→「Participants were blinded to treatment except for a physician-monitor and a pharmacist.」と記載あり。意味が分からず…)

期間:6週間

2次アウトカム:有害事象

 

結果

・Brief Psychiatric Rating Scale Agitation scoresにおける薬剤とプラセボの差は統計学的に有意だった(P=0.05)

バルプロ酸群の68%の患者はClinical Global Impression scaleにおいて不穏の減少を示した。バルプロ酸は52%だった(調節後P=0.06)

・有害事象はバルプロ酸群で68%、プラセボ群で33%発生し(P=0.03)、一般的に軽症と評価された。

 

考察

アブストラクトのみでは分からないことが多すぎますね。スコアについての詳細は調べてませんが、スコアとしての効果はみられたようですね。実際どこまで意味のあるものなのかは分かりませんが。有害事象は圧倒的にバルプロ酸群で多いです。どんな症状だったのか気になります。最初に紹介したコクランレビューには、鎮静や尿路感染が多かったと書かれているようです。

 

次。

Divalproex sodium in nursing home residents with possible or probable Alzheimer Disease complicated by agitation: a randomized, controlled trial.

(不穏により複雑なアルツハイマー病の可能性のある、または可能性の高いナーシングホーム入居者へのバルプロ酸)

Am J Geriatr Psychiatry. 2005 Nov;13(11):942-9.

PMID:16286437

 

P:不穏を合併しておりAD可能性のあるまたは可能性の高いナーシングホーム入所者153人

E:6週間後の目標用量750mg/日のバルプロ酸治療群(n=75)→最終的には800mg/日となった。

C:プラセボ群(n=78)

O:簡易精神医学的評価尺度(BPRS)の不穏の因子のベースラインからの変化

 

デザイン:ランダム化二重盲検プラセボ対象比較試験

2次アウトカム:合計BPRS、臨床の全般的な印象の変化、Cohen-Mansfieldの不穏項目のスコア、安全性、忍容性の尺度

脱落:28%

コンプライアンス:平均88%

 

結果

・平均BPRS不穏因子のスコアの変化は、バルプロ酸で治療された患者およびプラセボ間で相違はなかった。

・副次的な行動尺度も相違なかった。

・安全性や忍容性の尺度は、バルプロ酸プラセボの差を明らかにしなかった。

 

考察

本試験では効果はなかったようです。逆に有害事象も差がなかったようですが。800mgっていうのは多めに投与されている印象です。よく遭遇するのは、眠前に200mgとか400mgとかなので。

 

全体を通しての感想

規模の小さい試験しかなく、最近新しい試験が出ていないというのは、その程度なのかなという印象です。効果も安全性も正直よく分からないです。鎮静の有害事象が多かったというのであれば、不眠時に眠前に使用することは可能かもしれませんが。ただ、あえてバルプロ酸を使用するケースがあるのかな…と。もう少し規模の大きな試験の結果を見たいですが、出てこないでしょうね。。。