リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ポリファーマシーもろもろ-6【ポリファーマシーとフレイル・サルコペニアの関連】

今回は、ポリファーマシーとフレイル・サルコペニアとの関連についての論文を。3つの論文を取り上げますが、うち2つは先日の居酒屋抄読会で取り上げたものです。

 

まずはポリファーマシーとフレイルの関連についての論文を2つ。

 

Is Polypharmacy Associated with Frailty in Older People? Results From the ESTHER Cohort Study.

(ポリファーマシーは高齢者のフレイルと関連しますか?ESTHERコホート研究からの結果)

J Am Geriatr Soc. 2017 Feb;65(2):e27-e32.

PMID: 28024089

 

P:57歳から84歳の3,058人のSaarland(ドイツ)の地域住民(平均年齢:69.6±6.3、女性:52.4%)

E:ポリファーマシー(5-9剤)またはハイパーポリファーマシー(10剤以上)

C:非ポリファーマシー(0-4剤)

O:フレイルの有病率、3年追跡によるフレイル発症率

 

デザイン:観察研究

2次アウトカム:プレフレイルの有病率・発症率、年齢別・教育期間別・喫煙歴別のフレイルリスク

追跡期間:3年(n=1,998)

調節因子:年齢、性別、教育期間・喫煙歴・ベースラインのフレイルの状況、TMIスコア(Total Morbidity Index)、CIRS-G(Cumulative Illness Rating Scale for Geriatrics)(14 領域について 5 段階で各領域の重症度を評価するもので、総得点 を問題が存在していた領域の数で除した値を重症度指数)

Limitation:より健康な集団だった可能性。薬剤数の評価がベースラインのみだったこと。フォローアップ中のイベントが考慮されていないこと。残存交絡因子の可能性。

フレイルの基準:Friedの修正バージョンを使用(歩行速度≦0.8m/s、握力:男性≦30kg、女性≦20kg; 身体活動の合計スコア≤9.4)。このうち3つに該当でフレイル、1-2つでプレフレイル、0で非フレイル。

 

【結果】

1次アウトカム(ポリファーマシーにおけるプレフレイル・フレイルの有病率)

2次アウトカム(年齢、BMI、性別、教育期間、喫煙状況によるフレイル有病率)

 

   

プレフレイル(OR)

フレイル(OR)

ポリファーマシー

(0-4剤が基準)

5-9剤

1.20(1.0-1.44)

2.30(1.60-3.31)

10剤以上

1.48(1.03-2.14)

4.97(2.97-8.32)

性別(女性が基準)

男性

0.55(0.46-0.65)

0.24(0.17-0.34)

教育期間

(9年以下が基準)

10,11年

0.79(0.63-0.97)

0.60(0.39-0.92)

12年以上

0.62(0.50-0.78)

0.65(0.41-1.02)

喫煙状況

(非喫煙者が基準)

過去の喫煙者

0.90(0.75-1.07)

1.09(0.78-1.52)

喫煙者

1.68(1.21-2.33)

3.07(1.71-5.50)

 

1次アウトカム(ポリファーマシーにおけるプレフレイル・フレイルの発病リスク)

2次アウトカム(年齢、BMI、教育期間、喫煙状況とプレフレイル、フレイルの発病リスク)

   

プレフレイル(OR)

フレイル(OR)

ポリファーマシー

(0-4剤が基準)

5-9剤

1.33(1.05-1.67)

1.85(1.24-2.76)

10剤以上

1.86(1.11-3.10)

3.08(1.55-6.12)

性別(女性が基準)

男性

0.64(0.51-0.80)

0.46(0.31-0.68)

教育期間

(9年以下が基準)

10,11年

1.16(0.88-1.52)

0.70(0.42-1.18)

12年以上

1.04(0.80-1.37)

0.48(0.26-0.87)

喫煙状況

(非喫煙者が基準)

過去の喫煙者

0.90(0.72-1.13)

0.99(0.66-1.48)

喫煙者

0.89(0.60-1.33)

2.15(1.14-4.06)

フレイルの状態

(非フレイルが基準)

プレフレイル

2.39 (1.94–2.94)

5.06 (3.17–8.07)

 

【考察】

現在のポリファーマシーはフレイルの有病率、将来のフレイルの発生率のどちらとも関連しているという結果。交絡因子がどこまで調整できているのか…

もう一つ読んで考えてみます。

 

 

Polypharmacy and frailty: prevalence, relationship, and impact on mortality in a French sample of 2350 old people.

(ポリファーマシーとフレイル:フランスの2,350人の高齢者サンプルにおける有病率、関連、死亡への影響)

Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2015 Jun;24(6):637-46.

PMID: 25858336

 

P:フランスの2,350人の70歳以上の高齢者(平均年齢は83.3±7.5歳、59.4%が女性)(フレイル:17.0%、ポリファーマシー(5-9剤):53.6%、過度のポリファーマシー(10剤以上):13.8%)

E:ポリファーマシー、過度のポリファーマシー

C:非ポリファーマシー

O:フレイルの有病率の差

 

デザイン:観察研究

2次アウトカム:性別、年齢、社会的孤立、健康の自己評価、併存疾患、気分の自己評価、認知機能障害、聴覚障害、ADLの困難さとフレイルとの関連

サブ解析:ポリファーマシー、フレイルと死亡率の関連

Limitation:握力や歩行速度を1/4の参加者しか計測できなかった(しかも自己報告)。健康状態は比較的良いかもしれない。年金受給者210万人のうち2,305人のみのため、少ないかも。

フレイルの定義:以下の5つの構成要素のうち3つ以上を有する場合をフレイル、1-2つはプレフレイル

・栄養:意図しない体重減少またはBMI≦18.5 kg / m2

・エネルギー:「あなたは今弱いと感じていますか?」という質問に対する肯定的な答え、または「あなたはたくさんのエネルギーを持っていますか?」という質問に消極的な答え。

身体活動:国際身体活動質問票に基づく活動レベルが低い。

・体力:5kgの袋を持ち上げにくい。

・移動性:階段を上ったり下ったりするのが難しい。

 

【結果】

1次アウトカム(ポリファーマシー、過度なポリファーマシーとフレイルとの関連)

2次アウトカム(その他の項目とフレイルとの関連)

 

基準

比較

プレフレイル(OR)

フレイル(OR)

要介護(OR)

性別

女性

男性

0.61(0.48–0.77)

0.24(0.17–0.35)

0.28(0.18–0.42)

年齢

70-79歳

80-89歳

1.64(1.27–2.11)

2.55(1.73–3.77)

2.40(1.44–4.00)

90歳以上

2.68(1.80–4.01)

6.49(3.83–10.97)

7.78(4.19–14.47)

社会的孤立

なし

あり

1.34(1.01–1.78)

1.70(1.17–2.47)

0.97(0.62–1.52)

健康の自己評価

よい

まずまず

2.11(1.63–2.73)

4.55(3.11–6.65)

3.97(2.51–6.29)

悪い

5.13(2.43–10.81)

16.58(7.28–37.74)

19.53(8.16–46.71)

併存疾患

0-1

2-3

1.18(0.88–1.58)

1.47(0.97–2.22)

1.36(0.83–2.24)

4以上

1.47(1.06–2.02)

1.36(0.88–2.10)

1.38(0.83–2.29)

気分の自己評価

よい

まずまず

1.90(1.43–2.53)

2.07(1.42–3.01)

2.76(1.80–4.26)

悪い

2.23(0.97–5.15)

4.51(1.80–11.3)

4.67(1.72–12.7)

認知機能障害

なし

あり

1.31(0.87–1.98)

1.88(1.13–3.12)

2.59(1.50–4.47)

聴覚障害

なし

あり

1.44(1.12–1.84)

1.61(1.13–2.27)

2.34(1.57–3.49)

IADLの困難さ

なし

あり

2.45(1.67–3.57)

11.2(7.26–17.14)

115(59–226)

ポリファーマシー

0-4剤

5-9剤

1.82(1.44–2.37)

1.77(1.20–2.61)

1.64(1.01–2.65)

10剤以上

2.51(1.49–4.23)

4.47(2.37–8.42)

6.26(3.08–12.74)

 

2次アウトカム(薬剤数と死亡との関連)

非ポリファーマシーvsポリファーマシー:HR 1.25 (0.94–1.67)

非ポリファーマシーvs過度のポリファーマシー:1.83 (1.28–2.62)

※調節因子:年齢、性別、併存疾患、認知機能、IADLの困難さ

 

2次アウトカム(フレイルと死亡との関連)

フレイルなしvsプレフレイル:HR 1.36 (0.91–2.03)

フレイルなしvsフレイル:2.56 (1.63–4.04)

フレイルなしvs要介護:3.45 (2.15–5.53)

 

【感想】

今回もフレイルとポリファーマシーは関連しているという結果。やはり交絡因子が気になります。先ほどの論文よりも社会的因子が多く調整されているようです。それと、フレイルの基準ですね。少し前の2015年の論文なので、今の基準とは違うのでしょうか。

次のサルコペニアの論文も読んで、まとめて考えていきます。

 

 

Polypharmacy as a Risk Factor for Clinically Relevant Sarcopenia: Results From the Berlin Aging Study II.

(臨床的に関連したサルコペニアの危険因子としてのポリファーマシー: Berlin Aging Study IIの結果。)

J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2017 Dec 12;73(1):117-122.

PMID: 28481965

 

P: Berlin Aging Study IIからの1,502人の参加者(平均年齢は68.7±3.7歳、50.7%が女性)

E:5剤以上の内服(n=317)

C:5剤未満の内服(n=1,185)

O:サルコペニアのリスク

 

デザイン:観察研究

その他のアウトカム:年齢、低身体活動、高血圧、糖尿病、関節痛/腫脹、eGFRによるサルコペニアリスク、性別ごとでの条件別のサルコペニアリスク、ポリ・非ポリにおける歩行速度の減退、疲労、プレフレイル、フレイルの割合

調節因子:年齢、性別、低身体活動、高血圧、糖尿病、ビタミンD欠乏、胃炎/食道逆流、甲状腺機能低下症、肝疾患(肝硬変を除く)、心房細動/深部静脈血栓症/塞栓症、関節痛/腫脹、骨粗鬆症、冠状動脈疾患、慢性肺疾患、現在の喫煙、高尿酸血症、eGFR、LDL-コレステロールCRP、悪性腫瘍。

サルコペニアの定義:低ALM/BMI(男性:<0.789、女性:<0.512)

 

【結果】

1次アウトカム(ポリファーマシーとサルコペニアの関連)

E群 vs C群:16.3% vs 6.9%;調節OR 2.24(95%CI:1.33–3.75)

性別:男性-調節OR 2.09(1.04–4.21)、女性-調節OR 2.66(1.20–5.91)

 

サブ解析(ポリ・非ポリにおける歩行速度の減退、疲労、プレフレイル、フレイルの割合)

歩行速度の減退:15.5% vs 9.9%(p=.005)

疲労:12.6% vs 8.0%(p=.011)

プレフレイル:40.7% vs 28.5% (p<.001)

フレイル:1.3% vs 0.8%(p<.001)

 

【考察】

最近までフリーで全文読めたのですが、突然読めなくなっておりました。私はPDFを落としていたので読めましたが…

ポリファーマシーとサルコペニアとの関連が示唆される結果となりました。調節因子に関しては、疾患は多く調節されているように思いますが、栄養状態が調節されていないのが気になります。他にも漏れている因子はあるかもしれませんが、あまり詳しく知らないので…

それと、サルコペニアの定義はこれでいいのでしょうか?一般的なのですかね? BMIの大きな集団(海外はこのくらいが普通なのかもしれません…)なので、この基準だとサルコペニアに該当する人が多くなりそうです。

サルコペニアとの関連を調査した論文はほとんどヒットしなかったので、これから出てくるのかな?と期待しているところです。

 

【全体を通して】

フレイルもサルコペニアも、今回取り上げた論文ではポリファーマシーとの関連が示唆されました。いずれの文献でも調節因子が気になりました。もっとたくさんのことが複雑に絡んでいるような気がしますので。あとは定義ですね。他の文献も読みましたが、やはり定義がバラバラですね。その辺はしっかり合わせてほしいなと思いました。そう考えると、ポリファーマシーの定義は、「5剤以上」でまとまってきたのかなという印象です。

これらの文献を読んで考えてみたのですが、薬剤数がサルコペニアやフレイルに直接関連する可能性はそれほど大きくないのではないかと思いました。薬剤の中に、誘発させやすい薬剤がある可能性は十分に考えられますが、それを数で捉えてしまうとミスリードを招きかねないと思います。しっかりと処方内容を見ていかないといけないと思いますし、薬剤以外に関連因子が多くあると思いますので、そういったところも見ていければと思います。

論文を検索してもあまりヒットしなかった(特にサルコペニア)ので、今後疾患の認識が高まるとともに報告が増えてくることを期待したいです。