リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

4/7(土) 第△回 居酒屋抄読会ツイキャス配信のご案内と開催報告【尿酸値と薬とネットワークメタ解析】

4/7(土)の21:00頃から、第△回の居酒屋抄読会を開催し、リアルタイムでツイキャス配信致します。

今回は、大阪の梅田の居酒屋よりこちら【zuratomo@AHEADMAP 柴 (@zuratomo4) 's Live - TwitCasting)】のツイキャスから配信予定です。

 

 

以下、仮想症例シナリオです。

 

あなたは、とある薬局の薬剤師です。

先日、患者さんよりこんな相談を受けました。

「ここ2年くらい痛風の発作は起こってないけど、この尿酸を下げる薬は飲み続けた方がいいのですか?先生にも聞いてみたんですけど、念のために飲み続けた方がいいんじゃないかって。新しい薬だけどそれほど高くもないし、副作用も少ないからってね。でも、できるだけ薬は減らしたいですし、お金もかかりますからねぇ。もっと安い薬もあるんですか?」

あなたは、「そうですね、たしかに副作用の少ない薬ですし、薬を飲んでいるから落ち着いているだけかもしれませんので、続けた方がいいかもしれませんね。他の安い薬もあることはありますけどね。」と、少しモヤモヤしていながら答えました。

ふとあなたは、先日ちらっと見かけた論文を思い出しました。

 

Cardiovascular Safety of Febuxostat or Allopurinol in Patients with Gout. 

(痛風患者におけるフェブキソスタットまたはアロプリノールの心血管への安全性)

N Engl J Med. 2018 Mar 29;378(13):1200-1210.

PMID: 29527974

 

手っ取り早く内容を把握したく、こちらのブログを参考にしました。

 

「なるほど、フェブキソスタットで死亡が増えるかもしれないのか。副作用は少ないと思っていたから意外だな…。せっかくなので他の論文も読んでみよう。」

と思い論文を検索していると、高尿酸血症に対しての尿酸降下薬の効果と安全性についてのネットワークメタ解析を見つけました。ネットワークメタ解析って何だろう?と思いながら読んでみることにしました。

 

【お題論文】

Comparative efficacy and safety of urate-lowering therapy for the treatment of hyperuricemia: a systematic review and network meta-analysis.

(高尿酸血症治療における尿酸低下療法の有効性と安全性の比較:SR&ネットワークメタ解析)

Sci Rep. 2016 Sep 8;6:33082.

PMID: 27605442

PDF:https://www.nature.com/articles/srep33082.pdf

Supplementary Appendix:https://media.nature.com/original/nature-assets/srep/2016/160908/srep33082/extref/srep33082-s1.pdf

 

【患者背景】

65歳男性。初発の痛風発作は60歳の時。ここ2年は痛風発作が起こっていない。

併存疾患として高血圧あり。特に心血管イベント歴や入院歴はなし。

 

【処方】

フェブキソスタット錠40mg 1T/朝

テルミサルタン40mg・ヒドロクロロチアジド12.5mg配合錠 1T/朝

 

【検査値】

血圧 130/75

UA 6.3mg/dL

Cre 0.8mg/dL

eGFR 75mL/min/1.73m²

 

【使用するワークシート】

www.dropbox.com

 

 

いつもと同じく、居酒屋でお酒を飲みながらゆるーくやっていきます。よろしければご参加ください!

今回はzuratomo教授がネットワークメタ解析を詳しく解説してくださる予定ですので、疑問点などがありましたら是非コメントをお願いします♪

 

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2018.4.14 追記

てことで、4/7に第△回居酒屋抄読会を実施してきました。

途中で乱入者があり、若干荒れた展開となりましたが、、、

録音はこちら(第△会居酒屋抄読会in梅田 - TwitCasting)に残してありますので、よろしければお聴きくださいませ。

zuratomo先生が先に開催報告を書かれておりましたので、こちらもご参考に。

4/7第△回、居酒屋抄読会in梅田 開催報告 - 窓際さんのお勉強な日々

 

では、私の開催報告を。

 

1つ目の論文は、こちら(Cardiovascular Safety of Febuxostat or Allopurinol in Patients with Gout.)

PECO等はこちらのzuratomo先生のブログをご参照ください。

【結果】

1次アウトカム(主要有害心血管イベント(MACE):心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症の再灌流術)

フェブキソスタット群335人(10.8%) vsアロプリノール群321人(10.4%)

ハザード比(HR):1.03 、upper limit of the one-sided 98.5% CI,1.23(←98.5%って何ですかね??)

 

2次アウトカム(有意差のついたものだけ)

心血管死:4.3%vs3.2%;HR1.34(95%CI:1.03-1.73)(NNH:242人/年)

全死亡:7.8%vs6.4%;HR1.22(95%CI:1.01-1.47)(NNH:190人/年)

 

気になったのは、脱落率の多さ。フェブキソスタット群で57.3%、アロプリノール群で55.9%、トータルとして56.6%に脱落がありました。その理由は分かりませんでしたが、さすがにここまで脱落があると“変”ですね。

また患者背景が、平均年齢は64,5歳、男性約84%、平均痛風罹病期間約12年、平均体重97,8kg、平均BMI約33%というのも理解しておいた方がいいかもしれません。

投与量に関しても注意が必要で、フェブキソスタット群61%が40mg、39%が80mg(日本の上限は60mg)、アロプリノール群21.8%が200mg、44.6%が300mg、25.2%が400mg、4.3%が500mg、4.1%が600mg(日本の承認用量は200~300mg、適宜増減)となっており、日本の実臨床よりは多めになっているように思います。

脱落率が多いこと、患者背景や投与量が日本の実臨床とやや異なることは気になりますが、結果としてフェブキソスタット群で死亡率の増加が認められたことは、今後憂慮すべきことなのではないかと思います。

 

 では次に、メインの2つ目の論文を。こちら(Comparative efficacy and safety of urate-lowering therapy for the treatment of hyperuricemia: a systematic review and network meta-analysis.

P:痛風の有無に関わらず高尿酸血症を有する18歳以上の成人(15試験、7,246人)

E/C:アロプリノール、ベンズブロマロン、フェブキソスタット、pegloticase、プロベネシドおよびプラセボ

O:血清尿酸値≦6mg / dl(または360μmol/L)の達成率および有害事象(肝障害、腎障害、高脂血症、下痢、胃腸障害、関節関連徴候及び症状)

 

【批判的吟味】

・使用したデータベース:PubMed, Medline, Embase, Cochrane Library databases,  ClinicalTrials.gov

・元論文バイアス:RCT(15研究)のメタ解析。Risk of biasによる評価はされている(Supplementary Appendixに記載あり)

・評価者バイアス:3人で独立して行っている。意見対立時は3人で議論。

・出版バイアス:言語は英語のみ。参考文献を検索したかどうかは不明。研究者に連絡をしたかどうかは不明。ファンネルプロットの記載はなし。

・異質性バイアス:PICOの事前の設定は不明。各研究の対象集団は近しい(年齢はややばらつきあり)。統合可能なアウトカムである。

・ネットワーク図:あり。閉じた環もある。比較ごとの研究数は少ないものもある。

・直接比較、間接比較の記載:直接比較のみ記載あり。

・一致性は?:本文中に「There was no clear evidence suggesting inconsistency between the direct and indirect network effect values in the results of the traditional pairwise meta-analysis and the network meta-analysis (see Supplementary Table 1).」との記載があり、問題ないか。

・資金源の開示:あり

・COIの開示:あり

 

【結果】(ネットワーク図からは、アロプリノール(ALLO)、フェブキソスタット(FEBU)40mg、80mg(、120mg)、プラセボ(PLA)の症例数が多く信頼できそうなので、その5つのまとめ。)

ALLO

1.02 (0.87,1.19)

1.15 (0.99,1.32)

1.39 (1.10,1.78)

1.08 (0.78,1.50)

1.52 (1.15,1.99)

FEBU40mg

1.12 (0.96,1.31)

1.37 (1.05,1.78)

1.06 (0.76,1.48)

3.54 (2.80,4.47)

2.33 (1.79,3.03)

FEBU80mg

1.22 (0.96,1.54)

0.94 (0.68,1.30)

5.95 (4.15,8.52)

3.92 (2.62,5.88)

1.68 (1.18,2.40)

FEBU120mg

0.77 (0.54,1.10)

0.01 (0.00,0.03)

0.01 (0.00,0.02)

0.00 (0.00,0.01)

0.00 (0.00,0.01)

PLA

※オッズ比(95%CI)  赤字:有効性  青字:安全性
 

ランキング(Supplementary Table 2)(上記の5つより)

有効性:FEBU120mg>FEBU80mg>FEBU40mg>ALLO>PLA

安全性:FEBU120mg>FEBU80mg>PLA>FEBU40mg>ALLO

 

【考察】

有効性はフェブキソスタットが圧倒的という感じで。安全性もフェブキソスタットが優位でした。安全性に関しては、種々の有害事象の複合になりますので、それが意味のあるものなのかどうかは分かりませんが…文献の質はまずまずなのかな?と。集まった文献が15件というのはやや少ないような気がしますが。

 

【全体を通して】

メインの論文がソフトエンドポイントだったので、症例の患者へ適応できるかどうかはよく分かりませんでした。今回はネットワークメタ解析を読むために、若干強引にシナリオを作りましたので。なんとなーく読み方は分かったので、また読んでいきたいと思います。

 

以下に、今回の抄読会用に準備した情報をせっかくなのでまとめておきました。よろしければご覧ください。

 

☆補足その1

今回のネットワークメタ解析では文献数が少なく、妥当な評価ができなかったプロベネシドですが、先日、痛風患者におけるアロプリノールとの心血管リスクの比較に関するコホート研究が発表されていました。しかもプロベネシドの方が、複合CVイベントが少なかったという衝撃の結果で…(アブストラクトのみしか読めませんでした。)

Cardiovascular Risks of Probenecid Versus Allopurinol in Older Patients With Gout. - PubMed 

(高齢痛風患者におけるプロベネシドvsアロプリノールの心血管リスク)

2018 Mar 6;71(9):994-1004.

PMID: 29496000

 

☆補足その2

今回の症例では、降圧剤として「テルミサルタン40mg・ヒドロクロロチアジド12.5mg配合錠」を使用していたわけですが、ここにはポイントがありまして。ヒドロクロロチアジドは尿酸値を上昇させる可能性があります。もう一つテルミサルタンについては他のARBへ変更することで尿酸値を低下させることができる可能性があります。

そのことについては、今回の抄読会の途中で乱入してきたソクラテス先生のブログに記載がありますので、そちらをご参考にされてください。↓

ARBによる尿酸排泄作用: 薬歴公開 byひのくにノ薬局薬剤師。

 

☆補足その3

アロプリノールの群の成績が良かったといっても、やはりアロプリノールは重篤な副作用が気になります。てことで、こちらの研究を。についての台湾の研究を紹介します。

Allopurinol Use and Risk of Fatal Hypersensitivity Reactions: A Nationwide Population-Based Study in Taiwan.

(アロプリノールの使用と致死的な過敏反応のリスク:台湾の人口ベースの研究)

JAMA Intern Med. 2015 Sep;175(9):1550-7.

PMID: 26193384

 

ざっとまとめると…

・アロプリノール新規使用者1000人当たり、アロプリノール過敏症が4.68人、関連入院患者が2.02人、関連死亡者が0.39人。

・アロプリノール過敏症の危険因子は、女性の性別(男性と比べて)(オッズ比(OR) 1.45;95%CI:1.35-1.56))、60歳以上(0-39歳と比べて)(60-79歳→1.43 (1.27-1.61)、80歳以上→2.27 (1.97-2.60))、アロプリノールの初期投与量が100mg/日を超える(100mg以下と比べて)(1.27 (1.18-1.37) )、腎臓(1.49 (1.38-1.61))または心血管(1.13 (1.04-1.22))合併症、および無症候性高尿酸血症の治療(2.08 (1.94-2.24))。※過敏症による死亡も同様の傾向があった。

 

このリスクをどのように捉えるのかは難しいところかと思いますが、特にリスクの高い方については注意していきたいものです。

 

 

最後に、抄読会でも紹介しましたが、書籍の紹介を。

・「短期集中!オオサンショウウオ先生の医療統計セミナー 論文読解レベルアップ30」

以前購入していたので我が家にあったわけですが、Ⅵ章がネットワークメタ解析の項になっており、大変分かりやすく記載されておりました。