リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ソーシャルキャピタルと健康もろもろー4(笑うことは健康につながりますか?)

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今回は、「笑い」と健康に関する論文の紹介を2つ紹介します。

 

Laughter and Subjective Health Among Community-Dwelling Older People in Japan: Cross-Sectional Analysis of the Japan Gerontological Evaluation Study Cohort Data.

(日本の高齢地域住民間での笑いと主観的健康感:日本の老年性評価研究(JAGES)コホートデータ横断的解析)

J Nerv Ment Dis. 2015 Dec;203(12):934-942.

PMID:26649930

 

【PECO】

P: JAGESに参加した65歳以上の26,368人(男性;12,174人、女性;14,194人)

E:「週に1~3回笑う」(男性:37.6%、女性:37.2%)、「月に1~5回笑う」(14.7%、9.0%)、「全くまたはほとんど笑わない」(10.0%、5.2%)

C:「ほとんど毎日笑う」(37.7%、48.6%)

O:「乏しい主観的健康感」の有病率

※主観的健康の評価:「非常に良い」「良い」「悪い」「非常に悪い」から自己にて選択→「悪い」「非常に悪い」を「乏しい主観的健康感」と評価(男性:19.0%、女性:15.6%)

 

デザイン:横断研究

共変数:年齢、性別、婚姻状態、教育、職業、世帯所得、うつ症状、社会参加、笑いの機会

Limitation:横断研究のため因果関係が不明。うつなどを共変量としたが、逆の原因になっているかもしれない。アンケートが自己による回答であること。笑いの種類が考慮されていない。笑いが病気の発症を抑制できるかどうかは不明。

 

【結果】

主要アウトカム(「乏しい主観的健康感」の有病率のそれぞれの項目におけるRefとの比率)とその他のアウトカム

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※笑いの機会:友人との会話の機会、パートナーとの会話の機会、子供・孫との会話の機会、テレビやビデオの視聴、ラジオの視聴、 落語や演劇の視聴、漫画や雑誌の読書、その他

※対人相互作用の笑いの機会:友人、パートナー、子供・孫との会話の機会

 

【考察】

すごく評価が難しいのですが…Limitationに書かれていることがすごく気になるところです。

ただ、とても興味深い結果となっております。笑いの頻度が少ないほど主観的健康感が乏しくなる傾向がみられました。またそれは、笑いの機会にも繋がっているような結果となっております。さらに、社会参加の回数と主観的健康感が関連していることも示唆されております。年収とはあまり関連がなかったのは意外でした。年収が多くても、主観的健康感が高いというわけではないんですね。。。

あと気になったのはベースラインです。男性の方が「乏しい主観的健康感」が多く、笑いの頻度は低かったようです。この辺りは介護関連の取り組みに何か活かしていけないかと考えております。

それと今回の評価方法としては、「笑いの機会が少ないほど主観的健康感が乏しい」という評価でしたが、どうして「笑いの機会が多いほど主観的健康感が豊か」としなかったのかがすごく不思議です。前者の方がインパクトがありますかね??

 

ちなみに、プレスリリースはこんな感じでした。

「笑わない人では健康感が悪い人が 1.5 倍以上多い」

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2つ目を。

Laughter is the Best Medicine? A Cross-Sectional Study of Cardiovascular Disease Among Older Japanese Adults.

(笑いは癒しになるか? 日本の高齢者の循環器疾患に関する横断研究)

 2016 Oct 5;26(10):546-552.

PMID: 26972732

日本語アブストラクト→

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5037252/bin/je-26-546-s006.pdf

【PECO】

P:日本老年学的評価研究(JAGES)の2013年度の調査の対象者のうち65才以上の20,934人(男性10,206人、女性10,728)

E:「週に1~5回笑う」(男性:37.7%、女性:37.2%)、「月に1~3回笑う」(14.8%、9.0%)、「全くorほとんど笑わない」(10.0%、5.3%)

C:「ほとんど毎日笑う」(37.5%、48.5%)

O:心疾患および脳卒中有病

 

デザイン:横断研究

調節された因子:高血圧、脂質異常症、うつ、年齢、性別、BMI、飲酒習慣、喫煙習慣、社会活動、社会参加

Limitation: 横断研究のため、逆因果関係の可能性が排除できない。笑いは身体的、精神的に肯定的であり、健康行動に意欲的かもしれない。自己申告された情報であること。笑いの種類が考慮されていない。

 

【結果】

主要アウトカム(笑う頻度による心疾患および脳卒中有病率の比率)とその他のアウトカム

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【考察】

 笑う頻度が少ないほど心疾患および脳卒中有病率が高く、それは女性でより顕著であったという結果となりました。男女差がみられるのはおもしろいなと思いましたね。ベースラインからは女性の方が男性よりも笑う頻度が高いことがうかがえますし、そういったあたりも影響しているのかもしれません。リスク因子として高血圧に有意差がつかず、脂質異常症のみに有意差がついたのも少し不思議な感じがします。自己申告ということが関連しているのでしょうか?その他、limitationに書いてあることも確かに気になります。

本文中には、笑いがストレスを低減させること、笑いが血管内皮機能を改善し、血管拡張のダウンレギュレーションに関与する神経内分泌ホルモンを減弱させることが報告されているとの記載もあります。そんなところにも影響するかもしれないんですね。。。

 

【全体を通して】

笑うことができるということは、それなりに身体的・精神的・社会的に恵まれている環境にあるのかなと思いますし、どこかに問題があることで笑うことができないという状況が生まれるのかなと思います。生きていたら笑えない境遇になることも度々あると思います。簡単なことではないとは思いますが、何とかそれを乗り越えて、みんなで笑いながら生活ができればいいなと思いました。

また薬剤師としては、降圧剤やスタチンによる治療も大切ですが、もしかしたらそれ以上にこうやって笑える環境が重要かもしれないことを心に留めておかなければならないと思いました。

 

最後に…

「一人一人の人生、笑っていきましょう!」

それでは聴いてください、HOTSQUALLで『Laugh at life』

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