これから2回はポリファーマシーに関する指標について取り上げていきたいと思う。まず今回は、転倒を増加させる可能性のある薬剤であるFRIDs(fall risk-increasing drugs)について、次回は、投与レジメンの複雑性を定量化するツールであるMRCI(Medication regimen complexity Index)について取り上げていく。
FRIDsはSwedish National Board of Health and Welfare (NBHW)が作成した、75歳以上の転倒リスク増加薬のリストである。原文はこちら。http://www.socialstyrelsen.se/publikationer2010/2010-6-29# (http://www.socialstyrelsen.se/Lists/Artikelkatalog/Attachments/18085/2010-6-29.pdf)訳せないので…様々な文献を参考にすると、精神神経用薬として、抗うつ薬、催眠鎮静薬、抗うつ薬、リチウム以外の抗精神病薬、オピオイド、ドパミン作動薬、心血管用薬として、各種降圧剤、心血管疾患用の血管拡張剤等が含まれているようだ。
まず、姿勢制御へのFRIDsの影響を検討した文献レビューについてであるが、こちらの文献では、FRIDsはメタ解析にて抗うつ薬、神経遮断薬(neuroleptics)、BZ系、抗てんかん薬、ジゴキシン、 ⅠA型抗不整脈薬、利尿剤と定義された。姿勢制御は、静かに立っている間の身体の揺れの様相を主に評価する様々な手段を用いて評価された。概ね、精神神経性FRIDsを使用した場合、身体の揺れを定量化するパラメータの増加によって示されるように、姿勢制御が損なわれた。この影響は、より高齢で1日の用量が多く、半減期が長く、長期間投与された場合に顕著であった。現在の文献レビューの所見は、高齢者集団において、有効投薬量が最も低く、限られた期間のみ、精神神経用薬を使用することの重要性を強調している、と結論付けている。1)
アブストラクトしか読めなかったため詳細は不明だが、この最後の1文がとても重要なのではないかと思う。特に高齢者の精神神経用薬については、常に減量や中止を考慮していきたいものである。
FRIDsと転倒との関連について、アイルランドの50歳以上6,666人に対する前向きコホート研究では、2年間のフォローアップ期間中に1,000人当たり231人の転倒が報告された。抗うつ薬を含むポリファーマシー(今回は4剤以上と定義されている。)は、転倒(調節相対リスク(aRR) 1.28, 95% CI 1.06-1.54)、医療を必要とする程度の転倒(aRR 1.51, 95% CI 1.10-2.07)の有意なリスクと関連し、転倒回数の多さとも関連していた(調節罹患率比(aIRR) 1.60, 95% CI 1.19-2.15)が、ポリファーマシーでない抗うつ薬使用や、抗うつ薬未使用のポリファーマシーは関連しなかった。BZ系の使用はポリファーマシーと組み合わさった時に、医療を必要とする程度の転倒の増加と関連した(aRR 1.40, 95% CI 1.04-1.87)が、転倒回数の多さはポリファーマシーとは独立して関連していた(aIRR 1.32, 95% CI 1.05-1.65)。降圧剤、利尿剤、精神神経薬を含む他の薬剤の評価では、アウトカムと関連しなかった。2)
ポリの抗うつ薬はやや関連しそうな印象ですが、BZ系に関しては関連が薄そうな結果です。年齢が50歳以上でしたので、もっと高い年齢層でみれば違った結果が見られたかもしれないが。
次は、FRIDsとめまいとの関連について。
オランダの46人の一般開業医(GPs)による65歳以上の2,812人のめまい患者のケアに関する報告では、患者の87.2%は最低1つのFRIDsを服用していた。頻繁なされた治療には、経過観察(28.4%)、教育や助言(28.0%)が含まれ、11.7%の患者で1つ以上のFRIDsの使用が調節された(減量or中止)。制吐剤の処方は3%、抗めまい薬の処方は5%だった。3)
87.2%が1つ以上のFRIDsを服用していたというのはかなり高率なように思う。何かしらの関与があってもおかしくない。Table.3 に内服薬剤と調節薬剤の詳細が記載されていますが、これを見る限りではもう少し薬剤の調整をしてもいいのではないかと思いますが。制吐剤、抗めまい薬の処方は日本よりも少ないような気がする。
シドニーの3次教育病院に転倒で入院した60歳以上の、患者の健全とフレイルの転倒患者におけるFRIDs、ポリファーマシー、薬物間相互作用(DDI)の有病率と影響の関する前向きコホート研究についてでは、健全101人、フレイル103人の合計204人が募集された(平均年齢80.5歳±8.3歳)。入院時、健全と比べてフレイル患者は、FRIDs数(平均±SD) (フレイル3.4±2.2vs健全1.6±1.5, P<0.0001)、薬剤数(9.8±4.3vs4.4±3.3,P<0.0001)、DDI暴露(35vs5%,P=0.001)が有意に高かった。退院時のFRIDの数は、再転倒[オッズ比(OR) 1.7 (95 %信頼区間[CI] 1.3-2.1)]と有意に関連しており、フレイルのFRIDsでは1.5剤、健全のFRIDsでは2.5剤にて最も起こりやすかった。退院時の薬剤数も再転倒[OR 1.2 (1.0-1.3)]と関連していたが、DDIは関連しなかった。4)
フレイルに至るには様々な理由があると思いますが、フレイル状態における薬物治療のあり方というのを考えないといけないような気がする。どこまで許容するか。フレイルと骨折リスクはおそらく報告があるはず…
高齢者におけるFRIDsの使用と大腿骨骨折リスクの関連をみた研究では、スウェーデンの75歳以上の38,407人の2.07%が2007年の間に大腿骨骨折をした。オピオイド使用患者(OR 1.56, 95% CI 1.34-1.82)、ドパミン作動薬(OR 1.78, 95% CI 1.24-2.55)、抗不安薬(OR 1.31, 95% CI 1.11-1.54)、抗うつ薬(OR 1.66, 95% CI 1.42-1.95)、催眠鎮静薬(OR 1.31, 95% CI 1.13-1.52)は、年齢、性別、多併存疾患のレベルの調整後の大腿骨骨折のオッズ比を増加させた。心血管疾患の血管拡張薬、降圧剤、利尿剤、βブロッカー、CCB、RAS系阻害剤は、年齢、性別、多併存疾患のレベルの調整後の大腿骨骨折のオッズ比の増加と関連しなかった。5)
他の研究よりも対象年齢が高齢なのが理由かもしれませんが、比較的明確な差が出ているように思う。
最後に、大腿骨骨折とFRIDsと死亡リスクについて。
スウェーデンの60歳以上の大腿骨骨折患者2,043人の中で、最初の1年での総死亡率は24.6%(n=503)(170人の男性(33.8%)、333人の女性(66.2%)を含む)だった。4剤以上のFRIDs、5剤以上の薬剤(ポリファーマシー)、精神神経薬、心血管疾患薬を処方された患者は、最初の1年での死亡が有意に増加したことが示された。4剤以上のFRIDs (518人, 25.4%)は死亡率の増加と関連しており、30日のオッズ比(ORs) 2.01 (95%信頼区間[CI] 1.44-2.79), 90日のOR 1.56 (95% CI 1.19-2.04), 180日のOR 1.54 (95% CI 1.20-1.97), 365日のOR 1.43 (95% CI 1.13-1.80)だった。年齢、性別、4剤以上の薬剤の使用を調節したcox回帰分析は、4剤以上のFRIDsによる治療群が3剤以下と比べてわずかに死亡率が高いことを示した(90日(P=0.015)、180日(P=0.012))。6)
結論として、「高齢者における薬物治療の安全性と有益性の両方の最適化を目的とした介入ではFRIDsの使用を制限すべきである。」と記載してある。私の解釈としては、心血管疾患等のハイリスク患者へのFRIDsの処方により転倒リスクが増加し、それが大腿骨骨折につながると死亡リスクが高い。そのためにもFRIDsの使用を制限した方がよさそう、ということを示唆した文献なのではないかと。
全体を通して、スウェーデンで生まれた指標なので、スウェーデンの報告が多かった。世界的に広がれば、さらに信ぴょう性が高まりそうだが、どうだろうか。FRIDsのうち精神神経用薬は転倒との関連がありそう。一方、心血管病薬との関連は否定的か。ただ、降圧剤に関してはそれぞれの血圧のコントロール状況で異なるような気がする。低めでコントロールしていれば、転倒リスクとの関連はあるような気も…
つづく
1) Drugs Aging. 2013 Nov;30(11):901-20.PMID:24005984
2) Age Ageing. 2015 Jan;44(1):90-6.PMID:25313240
3) Scand J Prim Health Care. 2016 Jun;34(2):165-71.PMID:27049170
4) Drugs Aging. 2014 Mar;31(3):225-32.PMID:24452921
5) BMC Geriatr. 2014 Dec 4;14:131 PMID:25475854
6) Clin Interv Aging. 2016 Apr 29;11:489-96.PMID:27199553