リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ポリファーマシーもろもろ-4【MRCIについて】

今回は、投与レジメンの複雑性を定量化するツールであるMRCI(Medication regimen complexity Index)についてと、それを使った研究についてみていきたいと思う。

まずMRCIについてであるが、合計65項目からなり、セクションA:剤型、セクションB:投与頻度、セクションC:追加の指示(粉砕、用量調整、服用時点等)の3つのセクションに分けられ、それぞれの合計の点数で投与レジメンの複雑性が表される。1)

このMRCIを用いた研究がいくつか行われており、今回は高齢者やポリファーマシーと関連したものを中心に取り上げる。
まずは、65歳以上で1日1つ以上の薬剤を使用しているポルトガルのナーシングホーム入所高齢者(n=415)の記述的な横断研究によるMRCIの評価について。平均年齢は83.9歳(±6.6歳)で、60.2%は女性であり、76.6%は1日に5剤以上の薬を使用していた。平均MRCIは18.2(±SD=9.6)で、女性で高かった(p<0.001)。複雑性に寄与する最も重大な因子は薬剤数と投薬頻度であった。同じ数の薬剤のレジメンにおいて、最終スコアに最も関連した因子はスケジュールであり(r = 0.922)、次が薬剤の剤型(r = 0.768)、追加の指示(r = 0.742)だった。2)

次からは、MRCIと予期せぬ入院および再入院関連についての関係をみたものをいくつか。
この研究は、スウェーデンの60歳以上の3,348人を対象に行われた、予期せぬ入院とMRCIや薬剤数の関連を調査した3年間の人口ベースのコホート研究であり、3年間にわたる予期せぬ入院におけるレジメンの複雑性と薬剤数の関連性の未調整および調整ハザード比の95%信頼区間(CI)を算出するためにCox比例ハザードモデルが使用された。ROC曲線下面積を有するROC曲線は、MRCIや薬剤数と予期せぬ入院との関連を算出した。予期せぬ入院患者の人口寄与割合はMRCIと薬剤数について計算された。
合計1,125人 (33.6%)は1回以上の予期せぬ入院をした。MRCI (ハザード比 1.22; 95% CI 1.14-1.34)、薬剤数(ハザード比 1.07; 95% CI 1.04-1.09)は両方予期せぬ入院と関連しており、同様の感受性および特異性(曲線下面積(レジメンの複雑性)0.641 、曲線下面積(薬剤数) 0.644)だった。人口寄与割合はMRCIで14.08% (95% CI 9.62-18.33)、薬剤数で17.61% (95% CI 12.59-22.35)だった。3)
MRCIも薬剤数も両方予期せぬ入院と関連していた。私のROC曲線や人口寄与割合についての理解が不十分ではあるが、「結論」によるとMRCIが薬剤数を上回る予期せぬ入院を予測する指標とはなり得なかったようである。

70歳以上の退院患者163人の退院時のMRCIと予期せぬ再入院(1年間のフォローアップ中)の関連の調査(未調整および調整されたハザード比(HR)を計算するためにCox比例ハザード回帰が使用された)では、163人のうち99人が1回以上の再入院をした。年齢、性別、ADL、うつ病、併存疾患、認知状態、退院薬の数を調整したところ、 MRCI (HR = 1.01; 95% CI = 0.81-1.26), 退院薬の数 (HR = 1.01; 95% CI = 0.94-1.08), ポリファーマシー(9剤以上; HR = 1.12; 95% CI = 0.69-1.80) で、予期せぬ再入院とは関連しなかった。4)
この調査ではMRCI、退院薬の数、ポリファーマシーと予期せぬ再入院は関連せず。nが少ないこと、ポリファーマシーの基準が9剤というのが気になるが。

続いては、疾患別のMRCIと再入院の関連について調査したものを。(少し英語の訳に自信がないが…)
入院した心不全のアメリカ退役軍人174人を対象に、入院間の投与レジメンの複雑性(MRC)の変更と再入院または90日以内の救急部門受診のリスクの関連を決定するために行われた後ろ向きコホート研究である。62人(36%)が入院後90日以内に再入院又は救急部門の受診をした。MRCIの平均の変化(SD)は4.7 (8.3)だった。多変量ロジスティック回帰分析後、MRCIスコア1単位の増加は、90日後の再入院またはED受診の4%の低下と関連していたが、統計的に有意ではなかった(OR 0.955; 95%CI 0.911-1.001)。5)
n数は少ないが、今回はMRCIの増加が再入院、ED受診の低下と関連する傾向があった。これは疾患特有のものかもしれない。心不全ということは何らかの追加の治療が必要になる可能性が高く、薬剤が減ることよりも増えることの方が多いのではないだろうか。そのため、MRCIが増加しても、再入院やED受診は減る傾向にあるのかもしれない。再入院率が比較的高いのも心不全特有のように思う。

心不全、急性心筋梗塞、肺炎、COPDによる30日以内の再入院と投与レジメンの複雑性を評価した他施設症例対象研究では、757人中101人(13.4%)が30日以内に再入院した。再入院群は、再入院なし群より高いMRCIスコアだった(30.8vs26.3,p<0.01)。しかし、人口統計、病状、入院期間、居住地、投薬回数を調整した後では、MRCIは再入院(オッズ比0.99,95%信頼区間0.97-1.01)、再受診(オッズ比0.99、95%信頼区間0.98-1.02)の有意な予測因子ではなかった。6)
今回の条件では差が出なかったようで。この4つの疾患をまとめたこと、交絡因子が適切だったのかはやや疑問だが。

MRCIと薬剤有害事象(ADEs)による再入院についての研究では、対象者のうち再受診は92人、再受診なし群は228人だった。再受診群は再受診なし群よりも入院および退院のMRCIスコアが有意に高かった(入院:27.38vs16.21,退院:30.11vs20.42,いずれもP < .001)。ROC曲線はADEのリスクの潜在的なMRCIのカットオフスコアを算出するために使われ、ADEが原因となる入院のリスクを増加させ得る最適な予測としてMRCIスコア8以上(OR = 2.57, 95% CI = 1.40-4.70)と関連した。7)
MRCIスコア8以上というと、高齢者では多くの患者が該当するであまり参考にならない。。。
薬剤数に関しては、(入院:10.64vs 6.78,退院:11.21vs 7.78,いずれもP < .001)だった。セクション別の差もTable.1 に記載してあり、セクションBの差異が大きく、投薬頻度の改善がリスクの軽減につながる可能性もあるかもしれない。フリーで読める文献でそれぞれのセクションのスコアまで記載された文献は少なく、大いに参考にしたい。

次は死亡との関連について。高齢者の死亡の因子としてのMRCIとポリファーマシー(5剤以上)の関連を調べた調査が、3,348人の60歳以上の地域住民及び施設入所者の間の集団ベースのコホート研究にて行われた。cox比例ハザードモデルは、3年に及ぶ総死亡とレジメンの複雑性やポリファーマシーとの関連における未調整または調整ハザード比(HRs)や95%信頼区間を算出するために使用された。
フォローアップ期間中、参加者の14%(470人)が亡くなった。年齢、性別、合併症、教育水準、ADL、MMSE、住居状況を調節した後では、より高いMRCIは死亡率と関連していた(調節ハザード比: 1.12; 95% CI = 1.01-1.25)。ポリファーマシー死亡とは関連していなかった(調節HR = 1.03; 95% CI = 0.99-1.06)。8)
MRCIと死亡の関連では有意差が付いていますが、ギリギリである。ただ、ポリファーマシーで有意差が付いておらず、これは重要な示唆かもしれない。

最後に、個人的にかなり興味を引かれたMRCI関連の文献を。
(a)「病院スタッフへの薬学的なカウンセリング」(b)「退院薬剤の単純化についてのプライマリケア提供者(PCP)への退院報告書への情報の付加」 による薬剤の複雑性の減少を通して間接的に患者のアドヒアランスを良化させることができるかどうかを調べることを目的とした。高血圧、糖尿病、脂質異常症による240人の入院患者が前向き、セミランダム化試験に登録された。
介入群では、医師は薬剤の実行可能な単純化を薬剤師に相談した。1つのランダム化サブグループにて、PCPは退院報告書にて付加された説明的な情報を受け取った。アドヒアランス(self-reporting using the Medication Adherence Rating Scale [MARS-D])や薬剤の複雑性(MRCI)は病院の入院時、退院時、退院6週間後に登録された。QOLや薬剤情報についての満足度は入院時や退院後に評価された。
結果として退院時、介入群の投与レジメンは比較群より優位に複雑性が低かった(比較群:7.55 (6.82-8.28)vs 介入群:5.47 (4.84-6.09),p<0.001)。プロペンシティで調整された退院時の完全なアドヒアランスの割合は、比較群と比べて介入群でわずかに高かったが有意差はなかった(比較群:62.4% (52.1-72.7)vs 介入群:74.6% (66.1-83.1),p=0.151)。また退院6週間後のMRCIは、PCPが退院報告書の付加情報を受け取っていなければ、比較群と同様の値に増加していた(比較群:7.28 (6.38-8.17)vs介入群:6.65 (5.61-7.69) ,p<0.368)。介入群では、退院6週間後の完全なアドヒアランスの割合は、PCPへの付加的な情報のサブグループでより高かったが、有意差はなかった(情報なし:34.4% (17.7-51.1)vs 情報あり:56.2% (38.1-74.3)p=0.164)。患者QOLや情報への満足度は両群で同等だった。9)
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薬剤師としては非常に勇気づけられる結果ではないかと。退院時のMRCIは、介入群で低くなっていたこと、アドヒアランスが若干よかったこと。今回は比較的MRCIが低い群で薬剤数は少なかったので、それほどの介入ができなかったかもしれない。今まで紹介してきたポリファーマシーの集団ではMRCIも薬剤数もさらに多いので、もっと差が生まれるかもしれない。特にMRCIの改善は薬剤師の得意分野だと思うので、積極的に関与していきたい、と。
また、退院報告書への説明的な情報の付加の重要性も示唆された。情報提供書にその処方変更の詳細を書いていないと、以前のような状態に戻ってしまい、アドヒアランスが低下するかもしれないようだ。医師の書く情報提供書には、薬剤についての記載の内容が薄いことを度々目にしてきた。医師にしっかり書いてください、と伝えることもできるが、薬剤師が何かできないだろうか。すでにされている病院等もあるだろうが、退院時にお薬手帳に記載したり、退院カンファで伝えたり、薬剤師が別で情報提供書を書いたり。その必要性を強く感じた。


これらの文献を通じて、少しではあるがMRCIの有用性が見えてきた気がする。薬剤数(ポリファーマシー)とは別の指標としての役割がありそうである。薬剤自体に介入するよりは、薬剤の剤型や投与スケジュールに介入する方が容易と感じている薬剤師は多いと思う。この分野に関しては医師よりも薬剤師の方が得意だろう。
ただ、薬剤数もMRCIも数字が小さければいいというものではない。そこにはアンダーユーズの問題が存在する。そういったことも頭に入れておきたい。


これまでの4回を通じて、ポリファーマシーに関する種々の文献をみてきた。次回は、これを通じて考えたことや今までの私のポリファーマシーとの関わりから現在考えていることについて書いていきたい。

1) Ann Pharmacother. 2004 Sep;38(9):1369-76. Epub 2004 Jul 20.PMID:15266038
2) Int J Clin Pharm. 2014 Aug;36(4):750-6.PMID:24906719
3) J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016 Jun;71(6):831-7.PMID:26707381
4) Ann Pharmacother. 2014 Sep;48(9):1120-1128. Epub 2014 May 27.PMID:24867583
5) Res Social Adm Pharm. 2016 Sep-Oct;12(5):713-21.PMID:26621388
6) SAGE Open Med. 2016 Feb 19;4:2050312116632426.PMID:26985392
7) Ann Pharmacother. 2014 Jan;48(1):26-32.PMID:24259639
8) Ann Pharmacother. 2016 Feb;50(2):89-95.PMID:26681444
9) J Manag Care Pharm. 2013 Jun;19(5):396-407.PMID:23697477