リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

糖尿病の有名文献もろもろ-1【VADT、ACCORD、ADVANCE】

糖尿病の勉強の手始めに、VADT、ADVANCE、ACCORDの3つの糖尿病の標準療法と強化療法の比較について検討された有名文献を読んでみた。

 

Glucose control and vascular complications in veterans with type 2 diabetes. VADT試験

N Engl J Med. 2009 Jan 8;360(2):129-39. 

PMID:19092145

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19092145

Supplementary Appendix→http://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa0808431/suppl_file/nejm_duckworth_129sa1.pdf

 

 

P:経口糖尿病薬最大量またはインスリン治療にてコントロール不良の平均年齢60.4歳の退役軍人。平均罹病期間11.5年。40%が心血管イベントの既往。男性:97.7%。平均HbA1c9.4%。平均BMI:31.2。

I:強化療法(892人) (コントロール群よりHbA1c1.5%減少を目標。)

C:標準療法(899人)

 ※治療内容は、両群ともBMI≧27の患者ではメトホルミンとロシグリタゾンの併用,BMI<27の患者ではグリメピリドとロシグリタゾンの併用。厳格治療群ではいずれも最大用量,標準療法群では最大用量の半分量を投与。インスリンの併用は,厳格治療群ではHbA1c値<6%,標準療法群ではHbA1c値<9%が達成できない場合に実施。

O:1次アウトカム-複合的な心血管イベント(心筋梗塞脳卒中、心血管死、うっ血性心不全、血管性疾患の手術、手術不能な冠状動脈疾患、および虚血性壊疽の切断)の初回発生。

2次アウトカム-狭心症の新規発症または悪化、一過性虚血性発作・間欠性跛行・重大な四肢虚血の新規発症、総死亡、細小血管合併症(網膜症、腎症、および神経障害)。

 

その他

 ・平均追跡期間:中央値5.6年

 ・試験デザイン:無作為,多施設,オープンラベル,ITT解析。

 

結果

 ・平均HbA1c:強化療法群6.9%、標準療法群8.4%

・一次アウトカム(複合的な心血管イベント):強化療法群235例、標準療法群264例 (ハザード比0.88; 95%CI, 0.74 -1.05; P=0.14)。

・2次アウトカム(全死亡):強化療法群102例、標準療法群95例(ハザード比1.07; 95%CI, 0.81 -1.42; P=0.62)

・そのほかの2次アウトカムに関しても特に有意差なし。

・有害事象:強化療法24.1%、標準療法17.6%

・重篤な低血糖:強化療法8.5%/年、標準療法3.1%/年

 

感想

 ・薬剤使用の詳細が文献に載っておらず分からない…

 ・強化療法群のHbA1c6未満が達成できないときのインスリンという条件だと、かなり多くなるのでは?平均HbA1cが6.9%なので。

 ・1次アウトカムは複合過ぎて、あまり参考にならないか。

 ・1次・2次アウトカムへのインスリン、SU剤、ロシグリタゾンによる有害事象の影響もあったのでは?

 

 

Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. ACCORD試験】

 

P:HbA1c7.5%以上で、心血管疾患を有する40-79歳または動脈硬化アルブミン尿,左室肥大の解剖学的特徴を有し,かつCVリスク因子(脂質異常症,高血圧,喫煙,肥満)を2つ以上有する55-79歳の平均年齢62.2歳の10,251人。平均罹病期間10年。35%が心血管イベントの既往。男性:62%。HbA1cの中央値8.1%。平均BMI:32.2。

I:強化療法(5,128人)(目標HbA1c6.0%以下)

C:標準療法(5,123人)(目標HbA1c7.0-7.9%)

O:1次エンドポイント-非致死性心筋梗塞,非致死性脳卒中,心血管死の複合エンドポイント

  2次エンドポイント-総死亡、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、致死的または非致死的心不全

 

その他

 ・平均追跡期間:強化療法群の死亡率が高かったため3.5年で終了(5.6年の予定だった)

 ・試験デザイン:無作為、他施設、ITT解析

 

結果

 ・1年後のHbA1c値(中央値):強化療法群6.4%、標準療法群7.5%(その後もほとんど変わらず)

 ・1次アウトカム(複合エンドポイント):強化療法群352人、標準療法群371人(ハザード比, 0.90; 95%CI, 0.78 - 1.04; P=0.16)

 ・2次アウトカム(全死亡):強化療法群257人、標準療法群203人 (ハザード比, 1.22; 95% CI, 1.01 - 1.46; P=0.04)

 ・医療の介助を要する低血糖の発生:強化療法群3.1%/年、標準療法群1.0%/年

 ・厳格療法群の方が、薬がよく変更されていた(4.4回/年vs2回/年)。

 ・体重増加>10kg:強化療法群27.8%、標準療法群14.1%

 

感想

 ・やりすぎ感が…

 ・強化療法群で薬が多く、特に発売中止になっているロシグリタゾンの使用率が強化療法群で高いのが気になる。薬剤による有害事象が1次・2次アウトカムと関連しているかもしれない。

 ・多種の血糖降下剤を追加したところで、血糖値は下げ止まりがあるかもしれない。

 ・有意差はギリギリついているが、中間解析で中止する必要があったのか??Fig2を見る限り、両群の差は広がったり縮まったりしているが。

 

 

Intensive blood glucose control and vascular outcomes in patients with type 2 diabetes. ADVANCE試験】

N Engl J Med. 2008 Jun 12;358(24):2560-72.

PMID:18539916

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18539916

Supplementary Appendix→http://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa0802987/suppl_file/nejm_advance_2560sa1.pdf

 

P:30歳以上で2型糖尿病と診断された55歳以上の、大血管および細小血管疾患の既往または少なくとも一つの血管疾患のリスクを有する、平均66歳の11,140人。平均罹病期間8年。32%が大血管イベントの既往。男性58%。平均HbA1c7.5%。平均BMI28。

I:強化療法(5,571人)(目標HbA1c:6.5%)

C:標準療法(5,569人) (目標HbA1c:従来のガイドライン(7.0%))

 ※強化療法群ではグリクラジド錠30~120mg/日を投与し、他のSU薬は中止。標準療法群ではグリクラジド錠使用例は他のSU薬に変更。

O:1次アウトカム-主要大血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)および主要細小血管イベント(腎症または網膜症の新規発症または悪化)の複合および単独

  2次アウトカム-総死亡、主要冠動脈イベント、全冠動脈イベント、主要脳血管イベント、全脳血管イベント、心不全、末梢血管イベント、全心血管イベント、新規発症アルブミン尿、視力低下、神経障害の新規発症または悪化、認知機能低下、認知症、入院等

 

その他

 ・平均追跡期間:5年

 ・試験デザイン:無作為、他施設、ITT解析

 

結果

 ・平均HbA1c:強化療法6.5%、標準療法7.3%

 ・1次アウトカム(複合):強化療法群1,009人(18.1%)、標準療法群1,116人(20.0%)(ハザード比0.90;95%CI 0.82-0.98;P=0.01)

 ・1次アウトカム(主要大血管イベント単独):強化療法群557人(10.0%)、標準療法群590人(10.6%)(ハザード比0.94;95%CI 0.84-1.06;P=0.32)

 ・1次アウトカム(主要細小血管イベント単独):強化療法群526人(9.4%)、標準療法群605人(10.9%)(ハザード比0.86;95%CI 0.77-0.97;P=0.01)

 ・2次アウトカム(全死亡):強化療法群498人(8.9%)、標準療法群533人(9.6%)(ハザード比0.93;95%CI 0.83-1.06;P=0.28)

 ・重篤な低血糖:強化療法群(2.7%)、標準療法群(1.5%)(ハザード比1.86;95%CI 1.42-2.40;p<0.001)

 

感想

 ・3つの中で、これが1番参考になりそうな印象。個人的に引っかかる点が少ないという意味で。

 ・インスリン使用は強化療法群で多い。低血糖に関してはグリクラジドの方が他のSU剤に比べると有利なはずだが、それでも低血糖は強化療法群で多い。

 

 

全体を通して

 ・罹病期間が10年くらいの、BMI30前後の肥満の患者(特に心血管イベントの既往歴およびそのリスク因子がある人)の血糖値をHbA1c6.5%前後に下げても、7.5%前後くらいに下げるのとでは、今後5年くらいの死亡や大血管・細小血管イベントのリスクは変わらないかもしれない。

 ・強化療法群は、低血糖が総じて多い傾向にある。

⇒・以上をまとめると、このような条件下では血糖値は7.5%前後で維持するのが無難かもしれない。

 ・ただ、強化療法群ではSU剤、ロシグリタゾン、インスリンが多く使われている印象で、それによる有害事象がイベントに関連しているかもしれず、DPP4阻害剤、α-GI、GLP-1などの薬剤であれば結果が変わるかもしれない、と現時点では思う。またそれに関してはおいおい。

 

ちなみに文献の解釈については、「糖尿病トライアルデータベース」を参考にしています。ただ誤訳が多い印象なので、使用される際はご注意ください。

 

 

次回はUKPDS試験をいくつか読んでいく予定。