リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

日本における2型糖尿病患者の低血糖による救急受診や入院もろもろ-1

今回は少し趣向を変えて。

低血糖による救急受診に関する報告を3報読み、考察をした。まだ他にも報告はあったが、少し古かったため今回はこの3報をピックアップした。

 

① 糖尿病治療薬による重症低血糖を発症した2 型糖尿病患者135 人の解析(糖尿病5511):8578652012)

( https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/55/11/55_857/_article/-char/ja/)

② 1 年間に救急搬送された低血糖症例の臨床的背景についての検討(糖尿病555):3163212012)

( https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/55/5/55_316/_article/-char/ja/)

③ 薬物治療中に低血糖をきたし緊急入院となった2 型糖尿病患者についての検討(糖尿病574):2352412014)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/57/4/57_235/_article/-char/ja/)

 

まず、共通して報告されている項目を表にまとめた。

 

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※それぞれの標準時偏差は省略

HbA1cはNGSP値で統一。(文献報告がJDS値の場合は、それぞれ0.4%を加えた。)

※透析患者3人(おそらくインスリン群)を含む。SU剤とインスリンを併用した4人は除外されている。

※対象患者と定義:①重症薬剤性低血糖にて救急搬送された、1型糖尿病7人、インスリン打ち間違え4人、医療側の誤処方2人、自殺未遂4人等と除いた135人が対象。血糖値60mg/dl以下で低血糖による歩行困難や意識障害があり、第3者の介助を受けて当院に救急搬送され治療が必要になった患者を重症低血糖と定義した。②低血糖による意識障害のため救急車,あるいは救急隊によって搬送された2型糖尿病患者33人が対象。救急外来にて経静脈的グルコース投与で低血糖に対する加療を概ね1 時間程度行った後も,血糖値が70 mg/dl 以上に上昇しなかった、あるいは意識障害が持続した例を入院の適応とした。③低血糖で入院となった2型糖尿病患者。来院時の血糖値が60 mg/dl 以下を低血糖と定義し,入院は不要と判断され帰宅となった症例は除外した。

※回復時間の定義:①治療開始から血糖値が100 mg/dl 以上で安定しブドウ糖投与が必要なくなるまでの時間とした。③当院到着時から、血糖値が100 mg/dl 以上となり,ブドウ糖投与なしで,以後低血糖の再発がみられなかった時点までを、血糖回復までの時間と定義した。

 

その他、それぞれの文献で報告されていること、考察されていること。

・対照群が設定されており、年齢、腎機能、HbA1c値に有意な差があった。

・対象患者の中で低血糖の知識を持つ人は、SU 群16.9 %でInsulin 群81.5 %に比較して有意に少なかった。また低血糖の経験はSU 群16.2 %でInsulin 群71.4 %に比較して有意に少なかった。

・食欲の低下が確認された例を全症例の14.1 %で認めた。

低血糖遷延時間が8 時間以上経過した症例はSU 群29 人、Insulin群1 人であった。SU 群の約4 割が8 時間以上の低血糖遷延を認めた。

・33名中19人が入院となった。帰宅患者と入院患者のそれぞれのパラメーターの比較は以下を参考に。

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低血糖の原因については,普段と比較して食事量が少なかった症例が21 例で,インスリン皮下注後に食事を摂らなかった症例が6 例、食事時間が遅れた症例が5 例、普段より運動量が多かった症例が1 例であった。

・SU 薬治療群はインスリン治療群に比べて、入院となった割合(90.9vs 33.3 %)が有意に高値であった。

・入院となった患者では糖尿病専門医によって治療されていた患者の割合(10.5 vs 50.0 %)が有意に低値であった。

低血糖発症から当院到着までの時間は、有意差はなかったものの入院となった患者で長い傾向にあった。入院例で発症から当院到着までの時間が長い傾向を示したことから、低血糖発症時の対処に問題があったのではとの疑いがもたれた。

・受診時の主訴は意識レベル低下が最多(36 名;67.9 %)で、不穏(4 名;7.5 %)や呂律困難(4 名;7.5 %)が続いた。

・推測される低血糖の誘因は,食事量低下(19 名;35.8 %)、嘔吐・下痢(10 名;18.9 %)といったシックデイに伴うものが大半であった。その他の誘因は、腎機能障害の進行(3 名)、食事時間の遅れ(3 名)等。

・年齢分布は80 歳以上が35 名(66.0 %)と高齢者の占める割合が多かった。また、22 名(41.5 %)の患者が、認知症を有していた。

・インスリン群は、大半が6 時間以内に回復するのに対し、SU 薬群では24 時間以上頻回のブドウ糖投与を要する症例が34 %も存在した。

 

①、③については、SU剤各々の使用量についての報告があったので、それを表にまとめた。

 

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考察

年齢はかなり高齢な傾向の印象である。SU剤の方が高齢な理由は種々あると思うが、年齢が若い方が上手く対処できるというのが1つの理由だと考える。インスリンは急激に血糖値を下げるので、若くても対処できないことがあり、比較的HbA1cが高くても低血糖になることがあるということが、SU群をインスリン群のHbA1cの違いから推察される。また遷延時間がSU剤で長い傾向にあるのは考えれば分かることだが、想像以上に遷延していることに驚いた。また、②の報告によると、それはSU剤で入院率が高いことにも繋がっていると考える。

①で報告されている低血糖の知識については、低血糖の経験と関連しているようにも思うし、また医療者側がSU剤服用者にあまり低血糖について伝えられてないのではないかとも考えた。②では、低血糖の対処方法の拙さが病院到着までの時間の延長やその後の入院に繋がった可能性も指摘されているため、低血糖に対する十分な指導が必要なことが改めて分かった。

②では専門医、非専門医との関連も指摘されているが、非専門医は専門医ほど細かく投与量を調節してコントロールするのは難しいと考える。そのため、非専門医からの処方患者に関しては、より注意深い処方監査や指導が必要であろう。

低血糖の原因については、食事との関連が全ての文献で指摘されており、低血糖の指導時にはこれらの文献で報告されたことを参考にして、食事との関連も合わせて伝えていくべきと考える。

また、比較的低用量のSU剤でも重篤な低血糖が発現しており、用量には関係なく注意が必要であることが分かった。

ただ、こういった重篤な低血糖の報告がある一方で、ほとんどの方にはこういった症状が発現しないということも理解しておかなければならない。