リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

糖尿病の有名文献もろもろ-2【UKPDS33,34,35,80】

今回は、かの有名なUKDPSを読んでいく。恥ずかしながら、薬剤師10年目にして初めて読むという…

UKPDSの中でも今回は、糖尿病に関連していて、内容に興味を持った33,34,35,80を読んだ。

 

Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS 33).

Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):837-53.

PMID:9742976

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9742976

 

P:3か月の食事療法の後、2回の空腹時血糖(FPG)の平均が6.1-15.0mmol/Lの中央値54歳(範囲:48-60歳)の3,867人の2型糖尿病と新たに診断された患者

I:SU剤(クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリピジド)またはインスリンによる強化療法(目標:FPG6mmol/L未満)(2,729人)

C:従来の食事療法(目標:食事療法のみで達成可能なFPG)(1,128人)

O:1次アウトカム-3つの総合的なエンドポイント‐①糖尿病関連エンドポイント(突然死、高血糖または低血糖の死亡、致命的または非致死的心筋梗塞狭心症心不全脳卒中、腎不全、切断、硝子体出血、光凝固を必要とする網膜症、片眼の失明、または白内障の抽出)、②糖尿病関連死(心筋梗塞脳卒中、末梢血管疾患、腎臓疾患、高血糖または低血糖、および突然死による死)、③総死亡

2次アウトカム‐1次アウトカムそれぞれの個別、代理サブ臨床エンドポイント(網膜症の2段階進行、バイオメトリー閾値(←よく分からない…)、微小アルブミン尿、タンパク尿、血漿クレアチニンの2倍の増加)

 

その他

・追跡期間:10年

・ランダム化,多施設,ITT解析

 

結果

・平均HbA1c:強化療法群で11%低い(強化療法群7.0%(範囲:6.2-8.2)、従来療法群7.9% (範囲:6.9-8.8)。

・1次アウトカム(糖尿病関連エンドポイント):強化療法群の方が12%低い(95% CI 1-21)→このリスク減少の大部分は、網膜光凝固の必要性を含む細小血管のエンドポイントの25%のリスク低減によるものだった(95%CI 7-40)

・1次アウトカム(糖尿病関連死):強化療法群の方が10%低い(95% CI -11 to 27)

・1次アウトカム(総死亡):強化療法群の方が6%低い(95% CI -10 to 20)

・1年あたりの主な低血糖エピソードの割合:従来治療群0.7%、クロルプロパミド1.0%、グリベンクラミド1.4%、インスリン1.8%。

・体重の増加:強化療法群(平均2.9kg)で、従来治療群より有意に多かった(p<0.001)。インスリン群(4.0 kg)はクロルプロパミド群(2.6 kg)、グリベンクラミド群(1.7 kg)より著しく多かった。

 

考察

・古い文献だからか表が見づらくて…

・1次エンドポイントの糖尿病関連エンドポイントが複合になっていて、個別の項目としてはかなり数が多いのが気になる。対照群と差が付いたが、細小血管のエンドポイントの改善のためであり、大血管等は差がなかったよう。

・糖尿病関連死や総死亡に関しては、減少傾向ではあったが有意差なし。薬剤が代わればその傾向は変わるか??

・2次エンドポイントはほとんど差が出ておらず、特に取り上げるべきものはなさそう。

・両群で徐々にFPGおよびHbA1cが上昇している。強化療法群はFPG6.0未満を目標としていたがかなり逸脱しており、SU剤やインスリンだけでは限界があったか?低血糖発現率は両群で差はあるものの比較的低く、血糖値が十分にコントロールできていなかったことが原因かもしれない。

 

 

Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34).

Lancet. 1998 Sep 12;352(9131):854-65.

PMID:9742977

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9742977

 

P:3か月の食事療法後、FPG 6.1-15.0 mmol/Lだった平均年齢53歳の新たに2型糖尿病と診断された1,704人の過体重患者(理想体重の120%以上)。

I:①メトホルミンによる強化療法(目標:FPG6mmol/L未満)(342人)

  ②スルホニル尿素(SU)及びインスリンによる強化療法群(計951人)(クロルプロパミド(16%:265例),グリベンクラミド(16%:277例),インスリン(24%:409例))。

C:従来の食事療法(411人)

O:1次アウトカム:UKPDS33と同じ。

  2次アウトカム:心筋梗塞脳卒中,末梢血管疾患,細小血管合併症

 

その他

・追跡期間:平均10.7年

・ランダム化,多施設,ITT解析

 

結果

HbA1cの中央値:メトホルミン群7.4%,従来療法群8.0%他剤による厳格な血糖コントロール群のHbA1cはメトホルミン群と同様

・1次アウトカムおよび2次アウトカム

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・重大な低血糖症エピソード:食事療法(0.7%)、クロパンプラミド(1.2%)、グリベンクラミド(1.0%)、インスリン(2.0%)、メトホルミン(0.6%)・メトホルミンvs他の強化療法群(すべてp値の記載しかなし):糖尿病関連エンドポイント(p=0.0034)、糖尿病関連死(p=0.11)、総死亡(p=0.021)、心筋梗塞(p=0.12)、脳卒中(p=0.032)、末梢血管疾患(p=0.62)、細小血管合併症(p=0.39)

低血糖エピソード:食事療法(7.9%)、クロパンプラミド(15.2%)、グリベンクラミド(20.5%)、インスリン(25.5%)、メトホルミン(8.3%)グリベンクラミド、インスリン、およびメトホルミンの群、および低血糖のエピソードはそれぞれ7,9%、15.2%、20.5%、25.5%および8.3%であった。

・Figure.3 HbA1cは食事療法群で最も高いが、体重の増加は一番少ない。逆に、インスリンはHbA1cを下げるが、体重は増える。メトホルミンはどちらもほどほど。強化療法におけるFPGやHbA1cは目標には届いていない。

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※本試験中にはもう一つ、「平均年齢59歳の非過体重または過体重患者で、すでにSU剤の最大量を投与されているにも関わらずFPG 6.1-15.0 mmol/Lだった537人を、SU剤単独治療の継続(n=269)とメトホルミンの追加(n=268)とに分け同様のアウトカムを調査した。」試験も組み込まれていたが、偶然の結果が出た可能性が高いようなので、ここでは省略する。

 

考察

・①メトホルミン群にて全ての1次エンドポイントで有意差が出ており、この患者層でのメトホルミンの有効性が証明されたといってもいいかもしれない。用量が2,550mgであるので、日本では投与できない量であり、そもそも高用量投与をあまりみかけないが。

・②SU剤、インスリン群と食事療法では、アウトカムが減少傾向ではあったが有意差はなかった。UKPDS33同様、あまり期待できない結果に。

・メトホルミンと他の強化療法群では、いくつかのアウトカムで有意差がみられた。メトホルミンが優れているのか、SU剤・インスリンがイマイチなのかよく分からないが。この患者層であれば、まずはメトホルミンを使うのが妥当であろう。

 

Association of glycaemia with macrovascular and microvascular complications of type 2 diabetes (UKPDS 35): prospective observational study.

BMJ. 2000 Aug 12;321(7258):405-12.

PMID:10938048

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10938048

 

P: UKPDSの登録患者(25~65歳,新規2型糖尿病患者)5102人のうち,糖尿病の診断後3ヵ月にHbA1c測定が実施された白人,アジア系インド人,アフリカ系カリブ人4,585人の中で、空腹時血漿ブドウ糖(FPG)値110~270mg/dLかつ高血糖症状のない3,867人が解析の対象となった。

I:強化療法群(2,729人)( SUまたはインスリンを投与。目標FPG<108mg/dL)

C:従来の食事療法群(1,138人)

O:HbA1c値をベースライン時,その後1年ごとに測定し,最新のHbA1cの1%の減少と大血管および細小血管合併症との関連のリスク減少にて評価した。

1次アウトカム:糖尿病合併症(切断(末梢血管疾患による死亡を含む)、細小血管疾患(主に網膜光凝固))、糖尿病関連死、総死亡

2次アウトカム:心筋梗塞脳卒中、切断(末梢血管疾患による死亡を含む)、細小血管疾患(主に網膜光凝固)、非致死的心不全白内障摘出術。

 

その他

・ランダム化、他施設、前向き観察研究

・平均追跡期間:10.4年

 

結果

・1次アウトカム(糖尿病合併症):最新のHbA1cの1%の減少にて、21%減 (95%CI

17% - 24%)

・1次アウトカム(糖尿病関連死):21%減(95%CI 15% - 27%)

・1次アウトカム(総死亡):14%減(95%CI 9%-19%)

・2次アウトカム:心筋梗塞‐14%減(95%CI 8-21)、脳卒中‐12%減(95%CI 1-21)、切断‐43%減(95%CI 31-53)、細小血管疾患‐37%減(95%CI 33-41)、非致死的心不全‐16%減(95%CI 3-26)、白内障摘出術‐19%減(95%CI 11-26)

HbA1cの減少は合併症のリスクを減少させる可能性があり、標準の範囲の(<6.0%)HbA1c値が最もリスクが低い。

・リスクの閾値はいずれのエンドポイントにおいても観察されなかった。

・Table.3 右側はUKPDS33の結果。UKPDS33では強化療法群と標準療法群とを比較してHbA1cに0.9%の差があったが、アウトカムはさほど減っていなかった。

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考察

・特に1次アウトカム(Fig3)においては、かなりきれいなグラフになっている。そうとは思ってなかったから、かなりの驚きが。そんなにうまくいくことなのか??2次アウトカム(Fig4)でも一部はきれいな直線的になっている。

・ベースラインのHbA1cよりも、直近のHbA1cの方が合併症の減少と関連が強かったことが示唆されたのは大変興味深い。

・Table3にあるように、UKPDS33ではHbA1cが7.9vs7.0だったのに、このような差は出なかった。これが何を意味するのか…

 

 

10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes.(UKPDS80)

N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1577-89. doi

PMID:18784090

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18784090

 

P:UKPDSにて従来の治療(食事療法)または強化療法(SU剤又はインスリン、過体重患者はメトホルミン)に割り付けられた4,209人(試験後のモニタリングで5年間UKPDSの診療所に年に1回通うよう言われたのはそのうち3,277人)。

I:強化療法に割り付けられていた群(SU剤またはインスリン群‐2,729人、メトホルミン群‐342人)

C:食事療法に割り付けられていた群1,138人

O:7つのあらかじめ設定されていたアウトカム(①糖尿病関連エンドポイント(突然死,高血糖または低血糖による死亡,致死性または非致死性心筋梗塞狭心症心不全,致死性または非致死性脳卒中,腎不全,下肢切断,硝子体出血,網膜光凝固術,片眼の失明,水晶体摘出)、②糖尿病関連死(突然死または心筋梗塞死,脳卒中,末梢血管疾患,腎疾患,高血糖低血糖)、③全死亡、④心筋梗塞(突然死,致死性または非致死性心筋梗塞)、⑤脳卒中(致死性または非致死性)、⑥末梢血管疾患(1指以上の切断,末梢血管疾患死)、⑦細小血管疾患(硝子帯出血,網膜光凝固術,腎不全))

 

その他

・ランダム化,多施設,ITT解析

・平均追跡期間:SU・インスリン群8.5年、メトホルミン群8.8年

 

結果

・群間のHbA1cの差は、最初の1年に無くなった。

・7つのアウトカム

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 ・Fig4. 20年・25年たつと、かなりの割合で何かしらのイベントが発現している。

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考察

・かなり衝撃的な結果。20年の治療のうち最初の10年の治療が異なるだけで、こんなにも差が出てしまうとは。

・両群で有意差が付いていないものもあるが、全てが減少傾向にあるというのはかなり大きなことのように思う。

・Fig4を見ると、糖尿病歴20年ともなるとかなりの数のイベントが起こっていることがわかる。ないがしろにできない疾患であることが改めて分かった。

・SU剤やインスリンでこれだけの差がつくのだから、他の薬剤だときっともっと良い結果が出るのでは…

・メトホルミンの対象は肥満患者限定だったので、他の患者群ではどうなのだろうか?

・前回読んだACCORD、ADVANCE、VADT試験の患者群は全て罹病歴が10年ほどの患者を対象としていて、強化療法におけるアウトカムはあまり改善していなかった。そういったことから考えると、初期治療がいかに重要であるかということをこの文献が示唆していると考える。

 

 

全体を通して

・UKPDSについては、メトホルミンの有用性が示された研究、というイメージしかなかったから、そうではない研究もたくさんあり驚いた。

・SU剤やインスリンはそれ自体がリスクになるようなこともあるようなので、やはり他の作用機序のDM薬との比較をみてみたい。

・UKPDS80は、今回の4つの中で最も興味深く、衝撃を受けた論文であった。初期治療の重要性というのは今後念頭においておく必要がある。

・一方で、UKPDS35には違和感がある。HbA1cの1%の減少で、種々のアウトカムが減少していたが、UKPDS33の0.9%の違いではそのような結果にはならなかった。観察研究だからか?あまり納得がいかない…

 

 

しばらくDM薬は休憩の予定。次回は他の作用機序のDM薬の有名な文献を。