今回は薬を離れて、日本人を対象とした糖尿病の予後のリスクについてみていきます。どの文献をみればよいか分からなかったので、「おさえておきたい大規模トライアル | 糖尿病トライアルデータベース」から選びました。
Diabetes Care. 2013 Nov;36(11):3759-65.
PMID:23877989
P:無作為に抽出された、30歳以上の心血管疾患(CVD)歴のない7,120人 (男性:2,962人、女性:4,158人、平均52.3歳)
E:糖尿病治療を行っている患者(191人)および糖尿病治療を行っていない患者(HbA1c5.0-5.4%:3,505人、5.5-5.9%:964人、6.0-6.4%:191人、6.5%以上:126人)
C:糖尿病治療を行っていない患者(HbA1c5.0未満:2,143人)
O:全死亡、CVD死、冠動脈心疾患(CHD)死、脳卒中死、脳梗塞死、脳出血死
研究デザイン:前向き観察研究
追跡期間:15年
アウトカム:全死亡、CVD死、冠動脈心疾患(CHD)死、脳卒中死、脳梗塞死、脳出血死
傾向スコアマッチング:されていない
交絡因子の調整:されている(年齢、性別、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、収縮期血圧、総コレステロール、HDLコレステロール、高血圧および脂質異常症の治療)
結果
・糖尿病治療なし患者の5.0%未満の参加者を基準とした、多変量調整後HR(95%CI)
感想
・糖尿病治療患者のサンプルサイズが小さい印象。そのため、CVD死等の死因のハザード比は参考程度にしたほうがよさそうです。総死亡に関しては、ある程度の死亡数があるので、それなりに信頼できそうです。CVDは他の死因に比べるとある程度イベント数がありますが。
・糖尿病治療群といっても様々あるので、そのあたりの影響も少なからずあると思いますが、今回は考慮されておらず。今後の課題ですかね。
・非糖尿病患者ではなく、HbA1c5.0未満を基準としていることが疑問でしたが、海外の先行研究がそれを基準としていたことが理由かなと思います。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11141143、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17204684)
Associations between diabetes, leanness, and the risk of death in the Japanese general population: the Jichi Medical School Cohort Study.【JMS Cohort Study】
Diabetes Care. 2013 May;36(5):1186-92.
PMID:23250802
P:日本人の一般集団3,641人(平均年齢53.7歳、男性33.5%)
E:①糖尿病患者
②痩せ又は肥満
③65歳以上の痩せ又は肥満の非糖尿病患者、又は痩せ又は肥満又は正常BMIの非糖尿病患者
④65歳未満の痩せ又は肥満の非糖尿病患者、又は痩せ又は肥満又は正常BMIの非糖尿病患者
C:①非糖尿病患者
②正常なBMI患者
③65歳以上の正常なBMIかつ非糖尿病患者
④65歳未満の正常なBMIかつ非糖尿病患者
O:総死亡、CVD死、癌死
※痩せ:BMIの4分位数の最下位(BMI 14.2-21.1、平均19.5)
正常:BMIの4分位数の下位2番目からBMI25まで(平均22.7)
肥満:BMI25以上(平均27.0)
研究デザイン:前向き観察研究
追跡期間:10.2年
アウトカム:総死亡、CVD死、癌死
傾向スコアマッチング:されていない
交絡因子の調整:されている(性別、現在の喫煙状況、収縮期血圧、心筋梗塞・脳卒中・癌の既往、身体活動性、教育水準、配偶者の有無)
結果
・①および②
・③および④
感想
・死亡に関するサンプルサイズが小さいようで、95%信頼区間が広いものがちらほらあります。
・総死亡と癌死亡は糖尿病と関連しそうです。CVD死亡はイベント数の不足が原因か。
・DM患者の痩せと肥満では、痩せの方が死亡と関連がありそうです。
・痩せに関しては、65歳以上の方の死亡リスクが高く、逆に65歳以上の肥満はそれほどリスクを増やさない傾向にあるかもしれないです(有意差付いてないだけで、ハザード比1.89なので、注意は必要そうですが)。この痩せに関しては、高齢者ですし、いわゆるフレイルと近いのかなという印象です。
Arch Intern Med. 2006 Sep 25;166(17):1871-7.
PMID:17000944
P:40-69歳の一般的な日本人97,771人(男性:46,548人、女性:51,223人)(男性の6.7%、女性の3.1%に糖尿病の既往歴あり)
E:糖尿病の既往あり
C:糖尿病の既往なし
O:癌の発症
研究デザイン:前向き観察研究
追跡期間:10.7年
アウトカム:全癌および部位別の癌の発症
傾向スコアマッチング:されていない
交絡因子の調整:されている(ベースラインの年齢、研究の地域、脳血管疾患の既往歴、虚血性心疾患の既往歴、喫煙状況、飲酒量、BMI、余暇時の身体活動、緑色野菜摂取量、コーヒー摂取)
結果
・全癌:男性-調節HR 1.27; 95%CI, 1.14-1.42、女性-調節HR, 1.21; 95% CI, 0.99-1.47
・部位別
男性-肝臓癌:調節HR, 2.24; 95% CI, 1.64-3.04
膵臓癌:調節HR, 1.85; 95% CI, 1.07-3.20
腎臓癌:調節HR, 1.92; 95% CI, 1.06-3.46
女性-胃癌:調節HR, 1.61; 95% CI, 1.02-2.54
上記以外は有意差なし。
感想
・全体としての糖尿病患者における癌リスクの増加が示唆されました。女性で有意差が付いていないのはサンプル不足が原因かもしれません。
・部位別ではイベントの発生数が少ないものが多く、それについては信頼度が低そうです。その中でも男性の肝癌の調節ハザード比は大きく、これは強い関連があるように思います。
糖尿病と癌との関連について、もう少し大規模なデータが見たいと思って探したところ、その文献が見つかりましたので紹介します。
Diabetes mellitus and cancer risk: pooled analysis of eight cohort studies in Japan.
Cancer Sci. 2013 Nov;104(11):1499-507.
PMID:23889822
P:日本の8つのコホート研究に参加した33万人以上
E:糖尿病の既往あり
C:糖尿病の既往なし
O:癌発症
研究デザイン:(8つのコホート研究の)合計33万人以上(男性155,345人、女性180,792人)のプール解析。(研究の目的と合致するように、1980年代半ばから1990年代半ばにかけて日本で実施された集団ベースコホート研究であり、30,000人を超える参加者が含んだ研究が組み込まれた。)
追跡期間:9.9年
アウトカム:全癌および部位別の癌の発症(男女別と合計)
交絡因子の調整:されている(心血管疾患・冠動脈疾患の既往、喫煙状況、飲酒量、BMI、余暇時のスポーツや身体活動、緑色野菜摂取量、コーヒー摂取)
評価者バイアス:2人以上で評価したとの記載は見つけられず。
異質性バイアス:検討されており、異質性は比較的小さい印象。
結果
感想
・プール解析の読み方がよく分かりませんでしたが、メタ解析と同じような読み方でやってみました。
・この文献は参加者がかなり多く、結果は先ほどの文献よりは信頼度が高そうです。ただ、部位別の癌の種類によってはイベント数が少ないものもありました。
・全癌は糖尿病によるリスクの上昇の可能性がありそうです。また、部位別では膵臓癌と肝臓癌で関連がありそうです。
・有意差はついていないものでも、全体的に調節HRが1を超えているものが多いのも気になるところです。
・未知の交絡因子がある可能性があること、糖尿病患者は検査頻度が高く、それによって癌の発見率が上がっている可能性があること等が本文にて指摘されており、そこは割り引いて考える必要があるかもしれません。
なお糖尿病と癌との関連については、「糖尿病と癌に関する委員会報告」および「糖尿病と癌に関する委員会報告 第2報」にまとまっております。今回紹介した文献も出てきています。糖尿病罹患による癌のリスク上昇との関連は強く疑われているようですが、糖尿病の治療のコントロールとの関連はまだはっきりとは分かってないようです。
また、「糖尿病診療ガイドライン2016」の付録に「糖尿病と癌」という項目がありましたので、ついでに紹介しておきます。
まとめ
・糖尿病は様々な予後のリスクと関連しているようです。今回は取り上げていませんが3大合併症等のリスクももちろんあるでしょう。罹患しなければいいのかもしれませんが、なかなかそれも難しいですし。悩ましいところです。いい勉強になりました。