今回は風邪等への抗菌薬の投与について考えていきます。
平成28年4月に、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が策定され、様々な目標と戦略が打ち出されました。この中には医療機関における抗菌薬の適正使用の推進も盛り込まれておりました。その一つとして現在、「抗微生物薬適正使用の手引き」を作成中であり、まもなく出来上がろうとしています。
出来上がりを待ちきれず、その案の段階で読んでみました。
気になる文献がいくつかあったので、引用文献として取り上げられていた文献を、本文中での紹介とともにいくつか取り上げていきます。
まずは「感冒」、「急性副鼻腔炎」の中で気になった3つについて取り上げていきます。
文献73
Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis.
(一般的な風邪や副鼻腔炎に対する抗菌薬)
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jun 4;(6):CD000247.
PMID:23733381
手引き中の紹介↓
「感冒に抗菌薬を処方しても治癒が早くなることはなく、成人では抗菌薬による副作用(嘔吐、下痢、皮疹など)が偽薬群(プラセボ群)と比べて2.62 倍 (95%信頼区間 1.32 倍~5.18 倍)多く発生することが報告されている。」
「鼻炎症状が10 日間未満の急性鼻炎では、鼻汁が膿性であるか否かに関わらず、抗菌薬の効果は偽薬群(プラセボ群)よりも優れているとは言えず、副作用の発生は1.46 倍(95%信頼区間 1.10 倍~1.94 倍)多くなると報告されている。」
P:7日以内の急性上気道感染症や10日以内の急性化膿性副鼻腔炎の症状のある患者
E:抗菌薬投与
C:プラセボ投与
O:①急性上気道感染の鼻咽頭症状の抗菌薬の効果。
②抗菌薬が介入前10日以内の持続する急性副鼻腔炎のアウトカムに影響を与えるかどうか。
③急性上気道感染症や急性副鼻腔炎の臨床診断を受けた患者への抗菌薬治療に関連する重篤な有害事象があるかどうか。
デザイン:RCTのメタ解析(11試験、1838人)
1次アウトカム
・一般的な風邪:症状の持続
・急性化膿性副鼻腔炎:膿性鼻炎の持続
2次アウトカム
・一般的な風邪、急性化膿性副鼻腔炎の両方:有害事象
・一般的な風邪:のどの痛み、仕事における時間のロス、食欲不振、くしゃみ
・急性化膿性副鼻腔炎:現在使用可能な薬剤による副鼻腔炎の持続
評価者バイアス:2人の査読者により試験の質の評価やデータの抽出が行われている。
出版バイアス:全ての言語を調査しており、2013年のアップデートでは以下を検索している。CENTRAL, MEDLINE, EMBASE, CINAHL, LILACS, Biosis Previews
元論文バイアス:RCTのメタ解析である。含まれた文献のうち1つのみがITT解析、その他はper protocol解析
異質性バイアス:I²はやや高いものが多い印象
結果
・1次アウトカム(一般的な風邪:症状持続)
リスク比 (RR) 0.95,95%CI:0.59-1.51,I²=76%(6試験、1047人)
・1次アウトカム(急性化膿性副鼻腔炎:膿性鼻炎の持続)
RR 0.73,95%CI:0.47-1.13,I²=78%(4試験、723人)
・2次アウトカム(一般的な風邪:有害事象)
成人+子供:RR 1.8,95%CI:1.01-3.21,I²=66%(6試験、1495人)
成人のみ:RR 2.62,95%CI:1.32-5.18,I²=64%(4試験、1267人)
子供のみ:RR 0.91, 95%CI :0.51-1.63,I²=35%(2試験、228人)
・2次アウトカム(一般的な風邪:のどの痛み、仕事における時間のロス、食欲不振、くしゃみ)
のどの痛み(7日目):RR 0.47,95%CI:0.12-1.82,I²=47%(2試験、234人)
仕事における時間のロス:RR 0.88,95%CI:0.69-1.13(1試験、836人)
食欲不振(8日目):RR 0.97,95%CI:0.44-2.12(1試験、188人)
くしゃみ:調査した文献なし
・2次アウトカム(急性化膿性副鼻腔炎:有害事象)
RR 1.46,95%CI:1.10-1.94, I²=74%(4試験、658人)
・2次アウトカム(急性化膿性副鼻腔炎:現在使用可能な薬剤による副鼻腔炎の持続)
RR 0.74,95%CI:0.49-1.18, I²=44%(4試験、1174人)
感想
全体的に異質性が高いのが気になります。研究のデザインがあまり一致していないことが原因でしょうか?文献にて結果もややばらついている印象もあります。
今回の手引きでは、風邪における成人の副作用発現率増加について記載されていますが、子供を除いて成人だけを切り取ったのは許容されることなのでしょうか?合わせた方がよいのか、別の方がよいのか…
あと、このメタ解析に組み込まれている文献は古いものが多く、それはマイナス材料かなと思います。ただ、そのくらい昔からこの抗菌薬についての問題が議論されていたということは、とても重要なことのように思います。
文献77
Antibiotics for clinically diagnosed acute rhinosinusitis in adults.
(臨床的に急性副鼻腔炎と診断された成人への抗菌薬)
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Oct 17;10:CD006089.
PMID:23076918
手引き中の紹介↓
「急性鼻副鼻腔炎に関しては、細菌性鼻副鼻腔炎が疑わしい場合でも、抗菌薬投与の有無に関わらず、1 週間後には約半数が、2 週間後には約7 割の患者が治癒することが報告されている。また、抗菌薬投与群では偽薬群(プラセボ群)に比べて7~14 日目に治癒する割合は高くなるものの、副作用(嘔吐、下痢、腹痛)の発生割合も高く、抗菌薬投与は欠点が利点を上回る可能性があることが報告されている。」
P:副鼻腔炎の兆候や症状のある患者
E:抗菌薬投与
C:プラセボ投与
O:特定の時間時点での治癒した参加者の割合
デザイン:RCTのメタ解析(10試験、2450人)
1次アウトカム:特定の時間時点での治癒した参加者の割合
2次アウトカム
・全体的な幸福の尺度の評価
・異なる臨床症状における重症度と期間
・他剤の使用
・有害事象
・臨床的な失敗と重篤な有害事象
評価者バイアス:2人の査読者が独立してデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。
出版バイアス:「We imposed no language or publication restrictions.」との記載あり。the Cochrane Central Register of Controlled Trials, MEDLINE, EMBASEを検索している。
元論文バイアス:RCTのメタ解析である。10試験中7つはITT解析、残りの3つは「only participants with complete outcome data」(=per protocol?)。
異質性バイアス:それぞれの解析のI²は低めである。
結果
1次アウトカム
特定の時間時点での治癒した参加者の割合
1週間後:合計47.1%,抗菌薬群48.0%vsプラセボ群46.2%(オッズ比(OR) 1.07,95%CI:0.81-1.41,I²=0%)(4試験、856人)
10日後:合計51.4%, 抗菌薬群53.7%vsプラセボ群49.5%(オッズ比(OR) 1.18,95%CI:0.92-1.52,I²=0%)(4試験、1048人)
2週間後:合計68.7%, 抗菌薬群77.3%vsプラセボ群64.0%(オッズ比(OR)1.48,95%CI:0.99-2.43,I²=26%)(3試験、467人)
2次アウトカム(多いので、気になったところだけ)
・全体的な幸福の尺度の評価:有意差なし(2.1. Ratings of measures of overall well-being参照)
・異なる臨床症状における重症度と期間
膿性分泌物の分解能:1.58 (95% CI 1.13 to 2.22), 恩恵を受けるのに必要な治療数(NNTB) 10.8 ,95%CI:6.1-50.8,I²=0%)など
・有害事象
全体:抗菌薬群27.3%vsプラセボ群15.0%(OR 2.10,95%CI:1.60-2.77, 害を受けるのに必要な治療数(NNTH):8.1(95%CI:6.0-12.5),I²=13%)(7試験、1371人)
下痢:抗菌薬群15.9%vsプラセボ群10.4%(OR 1.18,95%CI:1.81-2.78, NNTH:18.1(95%CI:9.9-108.7),I²=0%)(4試験、816人)
・臨床的な失敗と重篤な有害事象
治療の失敗:抗菌薬群5.5%vsプラセボ群10.7%(OR 0.49,95%CI:0.36-0.66, NNTH:19.5(95%CI:13.5-35.3),I²=0%)(8試験、2175人)
重篤な有害事象:1例のみ発現。
感想
効果については、1週間後は両群にほとんど差がないですが、2週間後では抗菌薬群の方の治癒率が高い傾向にあります。ただ、統合している文献が異なるため、比較する際は注意が必要です。副作用や耐性菌の可能性を考慮して、途中で悪化した場合や、症状が改善しない場合に使えばいいような気もします。
文献80
Effectiveness and safety of short vs. long duration of antibiotic therapy for acute bacterial sinusitis: a meta-analysis of randomized trials.
(急性細菌性副鼻腔炎の抗菌薬治療の短期間vs長期間の有効性および安全性)
Br J Clin Pharmacol. 2009 Feb;67(2):161-71.
PMID:19154447
本文中での紹介↓
「抗菌薬を用いる治療期間については、従来は10~14 日間が推奨されてきたが、近年の研究では、短期間(3~7 日間)の治療は長期間(6~10 日間)の治療に対して有効性は劣らず、更に、5 日間治療と10 日間治療を比較した場合、有効性は同等で、副作用は5 日間治療の方が少ないことが報告されている。」
P:急性副鼻腔炎の患者
E:短期間の抗菌薬投与(7日以内)
C:長期間(短期間より2日以上)の抗菌薬投与(E群と抗菌薬、投与量は同じ)
O:有効性と安全性
デザイン:RCTのメタ解析(12RCT、4430人。うち10が二重盲検)
1次アウトカム:per protocol 解析集団における、完全治癒や急性副鼻腔炎の兆候や症状の改善度
2次アウトカム:
・微生物学的有効性
・有害事象
・有害事象による脱落
・5日間の治療vs10日間の治療(感度分析)
・βラクタム単剤による短期間vs長期間
評価者バイアス:「Two reviewers independently performed the literature search, the evaluation of potentially eligible for inclusion studies and the extraction of data. Any discordance observed between the findings of the two reviewers was resolved in meetings of all authors.」との記載あり。
出版バイアス:言語は英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語、ギリシャ語のみ。
元論文バイアス:RCTのメタ解析である。ITT解析されている(が、1次アウトカムはper protocolを使用)。
異質性バイアス:異質性は高くない印象。E群、O群で同じ抗菌薬、投与量のものを抽出しているので、ばらつきは少なそう。
結果
1次アウトカム(完全治癒や急性副鼻腔炎の兆候や症状の改善(Clinical Successとしてまとまっている?)):
オッズ比(OR) 0.95, 95%CI:0.81-1.12,I²=0%(12試験、4430人)
2次アウトカム
・微生物学的有効性:OR 1.30,95%CI:0.62-2.74,I²=0%(3試験、511の細菌分離株)
・有害事象:OR 0.88, 95%CI:0.71-1.09,I²=44.1%(10試験、4172人)
・有害事象による脱落:OR 0.88,95%CI:0.61-1.29,I²不明(10試験、4562人)
・再発:OR 0.95, 95%CI:0.63-1.42,I²不明(5試験、1396人)
・5日間の治療vs10日間の治療の臨床的成功(感度分析):OR 0.98, 95%CI:0.79-1.22,I²不明(7試験、2715人)
・同有害事象:OR 0.79, 95%CI:0.63-0.98,I²不明(5試験、2151人)
・同有害事象による脱落:OR 1.02, 95%CI:0.63-1.64,I²不明(6試験、2541人)
・同再発:OR 0.91,95%CI:0.60-1.37,I²不明(4試験、1344人)
・βラクタム単剤による短期間vs長期間:OR 0.95, 95%CI:0.76-1.20,I²不明(6試験、2649人)
感想
差はほとんど見られず。有効性は同等のようですので、短期間でよさそうです。一応手引きでの紹介のように、5日vs10日での有害事象は5日の方が有意に少なかったですが、これは偶然な気もしますし、それほど取り上げなくてもいいのではないかな…とは思います。
てことで、今回はこれまで。次回はこの続きとして「急性咽頭炎」、「急性気管支炎」についての文献を取り上げます。