前回の続きとして、「抗微生物薬適正使用の手引き (案)」の中から、今回は「急性咽頭炎」、「急性気管支炎」の文献3つを取り上げていきます。
文献82
Different antibiotic treatments for group A streptococcal pharyngitis.(全文フリーではありません)
(A群連鎖球菌による咽頭炎における異なる抗菌薬の治療)
Cochrane Database Syst Rev. 2016 Sep 11;9:CD004406.
PMID:27614728
本文中での紹介↓
「成人のGAS による急性咽頭炎に対する治療として、セファロスポリン系抗菌薬投与群とペニシリン系抗菌薬投与群とを比較した研究では、症状軽快について統計学的有意差はないこと(オッズ比 0.78 95%信頼区間 0.60~1.01)が報告されている。また、臨床的に再度増悪する症例については、セファロスポリン系抗菌薬投与群の方が統計的に有意に少なかった(オッズ比0.42 95%信頼区間 0.20~0.88)ものの、治療必要数(NNT)は33 と絶対リスク差は大きくないことが報告されている。」
P:A群連鎖球菌感染患者
E:抗菌薬(試験によって異なる)
C:対称となる抗菌薬(試験によって異なる)
O:(a)症状の緩和(痛み、熱)、 (b)罹患期間の短縮、 (c)再発予防、 (d)合併症予防(化膿性合併症、急性リウマチ熱、連鎖球菌性糸球体腎炎)
デザイン:異なる抗菌薬を使用した、5839人を含む19のRCTのメタ解析(9つは小児のみ、9つは12歳以上)
1次アウトカム:(a)症状の緩和(痛み、熱)、 (b)罹患期間の短縮、 (c)再発予防、 (d)合併症予防(化膿性合併症、急性リウマチ熱、連鎖球菌性糸球体腎炎)
2次アウトカム:有害事象
※アブストラクトしか読めていないので、明確なことは不明。種々のバイアスのリスクについても不明だが、エビデンスの質はそれほどよくないよう。
結果
セファロスポリンvsペニシリン(7試験)
・発熱症状の消失(評価可能な患者の解析):OR 0.51, 95%CI:0.27-0.97; NNTB:20(5試験、1660人、非常に質の低いエビデンス)
・発熱症状の消失(ITT解析):OR 0.79, 95%CI:0.55-1.12(5試験、2018人、質の低いエビデンス)
・臨床的再発(成人+子供):OR 0.55, 95%CI:0.30-0.99; NNTB:50(4試験、1386人、質の低いエビデンス)
・臨床的再発(成人のみ):OR 0.42, 95%CI:0.20-0.88; NNTB:33(2試験、770人)
・いくつかのアウトカムにおいて差はなかった。
・子供における有害事象:OR 2.33, 95%CI:1.06-5.15(1試験、489人)
・いつの公開されていない子供への試験でのアモキシシリンvsアジスロマイシンにおける治癒割合(ITT解析):OR 0.76, 95%CI:0.55-1.05(1試験、673人)
・同有害事象:OR 2.67, 95%CI:1.78-3.99(1試験、673人)
カルバセフェムvsペニシリン(3試験)
・治療後の症状改善割合(成人+小児)(ITT解析):OR 0.70,95%CI:0.49-0.99; NNTB:14(3試験、795人)
・同小児:OR 0.57, 95%CI:0.33-0.99; NNTB:8(1試験、233人)
・同成人:OR 0.75, 95%CI:0.46-1.22(2試験、562人)
感想
全文を読めていないので、なんとも言えない部分もありますが。
ペニシリンとマクロライド、セフェムを比べたもののみ結果が載っており、ほとんど差はつかなかったが、効果としてペニシリンが有意に上回っているものはなかったです。マクロライドにおいては、特に子供の有害事象は多いかもしれないです。
溶連菌=AMPCというイメージがあったので、結果には少し驚きました。有意な差はなくとも、セフェムに有意な傾向がみられたため、今後第一選択薬が変わることがあるのかな、と。まあでも今のところはAMPCでよさそうです。
文献85
Antibiotics for acute bronchitis.
(急性気管支炎に対する抗菌薬)
Cochrane Database Syst Rev. 2014 Mar 1;(3):CD000245.
PMID:24585130
本文中での紹介↓
「急性気管支炎に関しては、一律の抗菌薬使用には利点が少なく、利点よりも副作用の危険性が上回ることが報告されており、」
P:基礎的な肺疾患のない、急性湿性咳嗽や急性気管支炎患者
E:抗菌薬投与
C:プラセボ又は無治療
O:抗菌薬によるアウトカムの改善と有害事象(詳細は下記のとおり)
デザイン:RCTのメタ解析(17試験、3936人)
1次アウトカム
1.咳関連のアウトカム
ⅰ)咳からの回復の時間
ⅱ)痰の産生(患者の割合)
ⅲ)咳、夜間の咳、湿性咳嗽患者の割合
2.フォローアップ時の医者による全体的な評価
3.一般的な臨床的なアウトカム
ⅰ)症状の重症度
ⅱ)活動の制限
ⅲ)指定されたフォローアップ受診時の肺検査異常
2次アウトカム
有害事象
評価者バイアス:問題ない(詳細は、「Selection of studies」に記載あり)
出版バイアス:今回のアップデートではCENTRAL, MEDLINE, EMBASE, LILACSを検索。「There were no language or publication restrictions.」との記載あり
元論文バイアス:RCTのメタ解析。ITT解析はされているような…(「Assessment of risk of bias in included studies」に記載あり?)
異質性バイアス:それぞれのプロボグラムを見る限りはまずまずか?
結果
1次アウトカム
1.咳関連のアウトカム
ⅰ)咳からの回復の時間(咳の日数として)
平均差(MD) -0.46日(95% CI(-0.87)-(-0.04),I²=32%)(7試験、2776人)
ⅱ)痰の産生(患者の割合)
痰の産生:リスク比(RR) 0.97(95%CI:0.82-1.16,I²=2%)(7試験、713人)
ⅲ)咳、夜間の咳、湿性咳嗽患者の割合
咳:RR 0.64(95%CI:0.49-0.85,I²=33%,追加の有益なアウトカムを得るのに必要な治療人(NNTB):6)(4試験、275人)
夜間の咳:RR 0.67(95%CI:0.54-0.83,I²=0%,NNTB:7)(4試験、538人)
湿性咳嗽患者:MD -0.43(95%CI:(-0.93)-0.07),I²=0%)(6試験、699人)
2.フォローアップ時の医者による全体的な評価
臨床的改善:RR 1.07(95%CI:0.99-1.15,I²=76%,NNTB:22(11試験、3841人)
改善していない人の割合:RR 0.61(95%CI:0.48-0.79,I²=0%,NNTB:25)(4試験、538人)
3.一般的な臨床的なアウトカム
ⅰ)症状の重症度:統合されておらず。。。
ⅱ)活動の制限:RR 0.75, 95%CI:0.46-1.22,I²=80% (6試験、891人)
ⅲ)指定されたフォローアップ受診時の肺検査異常:RR 0.54, 95%CI:0.41-0.70,I²=6% ,NNTB:6(5試験、613人)
2次アウトカム
有害事象:RR 1.20, 95%CI:1.05-1.36,I²=24% (12試験、3496人)
感想
多少効果はあるのかな…という感じですが。咳からの回復の時間は有意差こそ出ていますが、MD-0.46日ですから、半日ですね。これに意味があるとは思えないですね。有害事象は1.2倍ですか。有害事象の方が上回るかどうかは個人の判断になりますが、抗菌薬の必要性はあまり感じません。
文献99
Delayed antibiotic prescribing strategies for respiratory tract infections in primary care: pragmatic, factorial, randomised controlled trial.
(プライマリケアにおける呼吸器感染症への遅延抗菌薬処方戦略:実臨床での要因化ランダム化比較試験)
BMJ. 2014 Mar 6;348:g1606.
PMID:24603565
本文中での紹介↓
「近年、急性気道感染症における抗菌薬使用削減のための戦略として、Delayed Antibiotics Prescription (DAP:抗菌薬の延期処方)に関する科学的知見が集まってきている。初診時に抗菌薬投与の明らかな適応がない急性気道感染症の患者に対して、その場で抗菌薬を処方するのではなく、その後の経過が思わしくない場合にのみ抗菌薬を投与すると、合併症や副作用、予期しない受診などの好ましくない転帰を増やすことなく抗菌薬処方を減らすことができることが示されている。」
P:イギリスにて53人の医療関係者が25の診療所で2010年3月3日から2012年3月28日までに募集した、3歳以上の急性呼吸器感染症患者889人
E:抗菌薬処方なし及び遅延抗菌薬処方(①電話にて処方を要求するために診療所に再接触する(recontact)、②後日の日付を処方した処方箋を交付する(post-date)、③患者自身が処方を診療所から収集することを許可する(collection)、④患者に処方箋を与え、待つように求める(patient led))
C:抗菌薬即処方
O:2日目から4日目の症状の重症度の平均値(0~6、0=問題なし、6=最も悪い)
デザイン:オープンラベル、抗菌薬処方なし及び遅延抗菌薬処方群はランダム化、抗菌薬処方群は非ランダム化、ITT解析
1次アウトカム:2日目から4日目の症状の重症度の平均値
2次アウトカム
・14日以内の抗菌薬の使用
・有害事象(発疹、下痢、嘔吐、腹痛)
・朝夕の平均体温
・症状の持続期間(中等度から重度)
・満足度と抗菌薬の有効性への信念
結果(それぞれ抗菌薬即処方群については、Appendix2に記載あり。Appendixについては、こちらを参照ください。)
1次アウトカム(2日目から4日目の症状の重症度の平均値)
処方なし, 再受診, 後日の日付, 収集, 患者主導,抗菌薬即処方; 1.62, 1.60, 1.82, 1.68, 1.75,1.76
2次アウトカム
・14日以内の抗菌薬の使用:26%, 37%, 37%, 33%, 39%,97%
・有害事象(発疹、下痢、嘔吐、腹痛):Appendix3に記載あり。それほど差はなし。
・中等度に悪化した症状の持続期間の中央値:3日,4日 ,4日,4日,4日,4日
・満足度:79%, 74%, 80%, 88%, 89%,93%
・抗菌薬の有効性への信念:71%, 74%, 73%, 72%, 66%,93%
感想
今回はC群を抗菌約即処方群にするか、抗菌薬処方なし群にするか迷いました。どちらでもいいような気はしますが。あと、抗菌薬遅延処方の③の意味があまりわかってません。。。
結果は予想通りといいますか、有効性には差がなかったようです。遅延処方で良さそうです。4群はどれでも結果には変わりなさそうでしたので、まあ症状の改善がない時や増悪時の再診でいいでしょう。
満足度と抗菌薬の有効性への信念が抗菌薬即処方群で他よりも高いというのは興味深いですね。特に満足度に関しては、処方の際にしっかり説明しないといけないなと思いました。
手引きでの遅延処方の文献は、あと2つが参考文献として取り上げられていますが、「Delayed antibiotics for respiratory infections. 」(文献98)はうまく統合できず評価が中途半端になっており、「Prescription Strategies in Acute Uncomplicated Respiratory Infections: A Randomized Clinical Trial.」(文献100)はn数が少なく、そこが引っ掛かったので、今回はこの文献99を取り上げました。後者(文献100)に関してはこの文献99と類似したデザイン、結果になっておりました。
全体を通して
コクランが多くて疲れました。どうしても2次アウトカムが多くなってしまうので、それをどこまで拾うかってのは一つの課題かなと思います。
さて抗菌薬に関しては、私は素人に毛が生えたくらいの知識しかありませんので偉そうなことを言える立場ではありませんが、様々な研修に参加したり、講演を聞いたことをふまえ、薬剤師が引っ張っていかないといけないと感じております。今回取り上げた風邪等における経口抗菌薬に関しては、医療者、患者双方への啓発が非常に重要だと思っております。私も、様々な角度から啓発を行っていきたいと考えております。
あと、最後にもう一つだけ文献を。
J Glob Antimicrob Resist. 2016 Aug 6;7:19-23.
PMID:27973324
今回の「抗微生物薬適正使用の手引き (案)」にも出てきますが(文献5)、現在の日本の処方動向を示した文献です。ぜひお読みください。抗菌薬処方のうち92.4%が経口抗菌薬であり、そのうち77.1%がセフェム、キノロン、マクロライドという。。。手引き(案)での風邪関連の推奨処方薬はほとんどペニシリンですからね。。。