リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

COPD治療薬もろもろ-5【吸入薬のリスク(ICS編)】

今回は吸入薬にリスクについて考えていきます。

GOLDガイドラインを読むと、ICSのリスクは肺炎、骨折、糖尿病について記載されていました。また記載されておりませんでしたが、LAMAに関しては尿閉、LABAに関しては心血管イベントが気になります。

 

まずはICSから。肺炎に関しては、COPD治療薬もろもろ-1【LABA/LAMA vs LABA/ICS】にてある程度理解しましたので、残りの骨折、糖尿病のリスクについてみていきます。

 

文献137

Risk of fractures with inhaled corticosteroids in COPD: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials and observational studies.

(COPDにおけるICSの骨折リスク)

Thorax. 2011 Aug;66(8):699-708.

PMID:21602540

 

P:COPD患者

E:ICS投与

C:プラセボ投与またはICS非投与

O:骨折リスクの上昇

 

デザイン:RCTおよび観察研究のメタ解析

1次アウトカム:Oに記載

 

評価者バイアス:2人の査読者が独立して行っている。

出版バイアス:「Search strategy」に記載あり。言語については記載なし。Funnel plotによる検討も行われている。

元論文バイアス:元論文がITT解析かどうかは記載なし。

異質性バイアス:RCTのメタ解析のI²は非常に小さいが、観察研究のメタ解析のI²は中等度。いずれもプロボグラムはある程度のばらつきがある印象。

 

結果

【RCTのメタ解析】

・ICSの骨折リスク:Peto OR 1.27; 95%CI:1.01-1.58; I²=0%(16試験(フルチカゾン14件、ブデソニド2件)、17,513人)

・骨折率(平均追跡期間90週):ICS群 180/9143(2%)vsプラセボ又はICSなし群 141/8370(1.7%),有害必要治療数(NNH):333

【観察研究のメタ解析】

・ICSの骨折リスク:OR 1.21; 95%CI:1.12-1.32; I²=37%(7試験、69,000人)

・ベクロメタゾン500μgと同等量の増加ごとの骨折リスクの9%の増加と関連していた(OR 1.09 (95%CI:1.06-1.12) ※ICSの換算はよく分からなかったので、また勉強しておきます。

 

感想

骨折リスクはいずれの解析においても20%ほど上昇しておりました。ただ、RCTのメタ解析によるNNHは90週で333と、かなり大きな数字です。なので、それほど気にしなくてもいいのかもしれません。ただ、用量依存性も示唆されているので、その辺は注意が必要そうです。

RCTのメタ解析では、weightの高い試験における骨折率が、他の試験よりも比較的高いのが気になりましたが。

 

 

文献138

Inhaled corticosteroids and the risks of diabetes onset and progression.

(ICSの糖尿病発症および進展リスク)

Am J Med. 2010 Nov;123(11):1001-6.

PMID:20870201

 

P:1990年から2005年の間に呼吸器疾患の治療を受けた患者

E:ICS投与

C:ICS非投与

O:糖尿病発症および進展のリスク

 

デザイン:集団ベースのコホート研究388,584人

1次アウトカム:Oに記載

交絡因子の調節:スコアマッチングはされているようだが、項目は不明。Table1を見る限りでは年齢と追跡期間か。リスク比は年齢、性別、呼吸器疾患の重篤度、併存疾患にて調整されているが。

追跡期間:平均5.5年

 

結果

【糖尿病発症率】

・全体:14.2人/1000人/年(対照と比較して、RR 1.34; 95%CI:1.29-1.39)

・高用量(フルチカゾン換算1000μg以上):RR 1.64; 95%CI:1.52-1.76

【糖尿病進展率(経口DM薬→インスリン使用)】

・全体:19.8人/1000人/年(RR 1.34; 95%CI:1.17-1.53) (感度分析後:RR 1.28; 95%CI:1.22-1.34)

・高用量(フルチカゾン換算1000μg以上):RR1.54; 95%CI:1.18-2.02

・(ほぼ確実な)喘息患者(感度分析後):RR 1.39; 95%CI:1.31-1.49

COPD患者(感度分析後):RR 1.28; 95%CI:1.22-1.34

 

感想

マッチング等々、やや信頼性には欠ける気はしますが。

ICSによる糖尿病発症および進展のリスクはあるようです。しかし、発症率および進展率は非常に低いため、それほど心配はいらないのではないかと思います。こちらも用量依存性がみられますね。

進展率をインスリン導入で評価することは適切なのかどうか。。。

 

今回はこの辺で。次回はLAMAの尿閉リスクとLABAの心血管イベントのリスクを。