今回はDPP4阻害剤とSGLT2阻害剤の有名な論文についてみていきます。
一応、全部目を通したことのある論文だったので、結果は知っていましたが。。。
まずはDPP4阻害剤から。一つ目はサキサグリプチン(オングリザ®)について。
Saxagliptin and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus.(SAVOR-TIMI 53)
(2型糖尿病患者におけるサキサグリプチンと心血管アウトカム)
N Engl J Med. 2013 Oct 3;369(14):1317-26.
PMID:23992601
P:心血管イベントの既往歴およびリスクのある2型糖尿病患者(16,492人)
E:サキサグリプチン投与(8280人)(eGFR≦50mL/分/1.73m3は2.5mg/日)
C:プラセボ投与(8212)人
O:(1次アウトカム)心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性虚血性脳卒中の複合
デザイン:2重盲検、ランダム化、プラセボ対象比較試験
2次アウトカム:プライマリ複合アウトカムに加えて、心不全、冠動脈再建術、不安定狭心症による入院など
ITT解析されているか:されている。
脱落率:サキサグリプチン群18.4%、プラセボ群20.8%
患者背景(ベースライン等):心血管イベント(40歳以上で、冠状動脈、脳血管または末梢血管系を伴うアテローム性動脈硬化症)の既往歴およびリスク(男性55歳以上、女性60歳以上で高血圧、脂質異常症、喫煙のうち少なくとも一つ)がある、平均年齢:E群65.1±8.5,C群65.0±8.6(女性3割強)、平均体重:E群87.7±18.7,C群88.1±19.4、平均BMI:E群31.1±5.5,C群31.2±5.7、平均罹病期間:E群10.3,C群10.3、平均HbA1c:E群8.0±1.4,C群8.0±1.4、
追跡期間の中央値:2.1年
結果
E群7.3% vs C群7.2%(ハザード比 1.00; 95%CI:0.89-1.12)
2次アウトカム
・1次アウトカム+心不全、不安定狭心症による入院+冠動脈再建術
E群12.8% vs C群12.4%(ハザード比 1.02; 95%CI:0.94-1.11)
・総死亡
E群4.9% vs C群4.2%(ハザード比 1.11; 95%CI:0.96-1.27)
・心不全による入院
E群3.5% vs C群2.8%(ハザード比 1.27; 95%CI:1.07-1.51)→NNH143/2.1年(=300/年)
有害事象
・急性膵炎
E群0.3% vs C群0.2%(P=0.42)
・膵臓癌
E群0.1%(5例) vs C群0.1%(12例)(P=0.095)
感想
1次アウトカムは非劣性でしたが、心不全による入院が増えてしまったという衝撃の結果(知ってましたけど)。NNH自体はすごく数字が大きいので、そんなに気にしなくてもいいにかもしれませんが。追跡期間が短いような気もしますが。インスリンの開始は減るようですし、SU剤等に比べると低血糖も少ないでしょうし、そういった意味での意義はあるかもしれませんが。
次はシタグリプチン(ジャヌビア®、グラクティブ®)について
Effect of Sitagliptin on Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes.(TECOS)
(2型糖尿病患者への心血管アウトカムへのシタグリプチンの効果)
N Engl J Med. 2015 Jul 16;373(3):232-42.
PMID:26052984
P:2型糖尿病と心血管疾患(既往)のある患者(14,671人)
E:シタグリプチン投与(7,332人)(100mg/日、30≦eGFR <50 mL/分/1.73m2の場合は50mg/日)
C:プラセボ投与(7,339人)
O:(1次アウトカム)心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中または不安定狭心症による入院の複合
デザイン:2重盲検、ランダム化、プラセボ対象比較試験
2次アウトカム:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合、致死的および非致死的心筋梗塞、非致死的および致死的脳卒中、総死亡、心不全による入院、不安定狭心症による入院
ITT解析されているか:主にはper protcol解析がされている。
脱落率:シタグリプチン群(26.1%)、プラセボ群(27.5%)
患者背景(ベースライン等):50歳以上(平均年齢65.5 ± 8.0)、女性約3割、平均罹病期間11.6 ± 8.1、HbA1c6.5~8.0(平均7.2 ± 0.5)、平均BMI30.2 ± 5.6(平均体重は不明)、確立された心血管疾患を有する(定義:冠動脈疾患、虚血性脳血管疾患、またはアテローム性動脈硬化性末梢動脈疾患の病歴)
追跡期間の中央値:3年
結果
1次アウトカム(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中または不安定狭心症による入院の複合)
E群11.4% vs C群11.6%(ハザード比 0.98; 95%CI:0.88-1.09)
2次アウトカム
E群10.2% vs C群10.2%(ハザード比 0.99; 95%CI:0.89-1.10)
・総死亡
E群7.5% vs C群7.3%(ハザード比 1.01; 95%CI:0.90-1.14)
・心不全による入院
E群3.1% vs C群3.1%(ハザード比 1.00; 95%CI:0.83-1.20)
有害事象
・急性膵炎
E群0.3% vs C群0.2%(P=0.07)
・膵臓癌
E群0.1% vs C群0.2%(P=0.32)
感想
心血管アウトカムへの非劣性は示されましたが。。。サキサグリプチンとは異なり、心不全の増加はみられませんでした(なので、サキサグリプチンを使う価値は…)。非劣性の試験ですし、優越性をみるには追跡期間が短いのかもしれません。効果が他の薬剤を同等となると、使うかどうか迷います。まあだからといってメトホルミンの次に使う薬剤がこれといって存在するわけではないので、そういった位置づけなのかなと。(SGLTの心血管アウトカムへのエビデンスをまだ知らないという設定で…。)
近々、リナグリプチン(トラゼンタ®)の長期投与についての報告もあるようなので、それも楽しみにしながら。
続いてはSGLT2阻害剤について。
あまりにも有名になのであえて取り上げるのもどうかと思いますが、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)についての文献を。
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. (EMPA-REG OUTCOME)
(2型糖尿病患者におけるエンパグリフロジンと心血管アウトカムと死亡率)
N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2117-28.
PMID:26378978
P:心血管リスクの高い2型糖尿病患者(7028人)
E:エンパグリフロジン10mg(2345人)または25mg(2342人)投与(4867人)
C:プラセボ投与(2333人)
O:(1次アウトカム)心疾患死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合
デザイン:2重盲検、ランダム化、プラセボ対象比較試験
2次アウトカム:心疾患死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中+不安定狭心症による入院
ITT解析されているか:FAS
脱落率:E群(10mg)23.7%、E群(25mg)23.1%、C群29.3%
患者背景(ベースライン等):18歳以上(平均E群(10mg)63.0±8.6,E群(25mg)63.2±8.6, C群63.2±8.8)、BMI45以下(平均E群(10mg)30.6±5.2, E群(25mg)30.6±5.3 ,C群30.7±5.2)、平均体重E群(10mg)85.9±18.8, E群(25mg)86.5±19.0, C群86.6±19.1、eGFR30 mL/分/1.73m3以上、HbA1c:未治療では7.0-9.0、治療中は7.0-10.0 (平均E群(10mg)8.07±0.86,E群(25mg)8.06±0.84 ,C群8.08±0.84)、心血管リスクの詳細はかなり複雑で…、平均罹病期間は不明だが10年以上の罹病が約55%、5-10年が約25%、1-5年が約15%。
追跡期間の中央値:3.1年
結果
E群10.5% vs C群12.1%(ハザード比 0.86; 95%CI:0.74-0.99)→NNT 63/3.1年(=194/年)
2次アウトカム
・1次アウトカム+不安定狭心症による入院
E群12.8% vs C群14.3%(ハザード比 0.89; 95%CI:0.78-1.01)
・総死亡
E群5.7% vs C群8.3%(ハザード比 0.68; 95%CI:0.57-0.82)→NNT 38/3.1年(=119/年)
・心血管死
E群3.7% vs C群5.9%(ハザード比 0.62; 95%CI:0.49-0.77)→NNT 45/3.1年(=141/年)
・心不全による入院
E群2.7% vs C群4.1%(ハザード比 0.65; 95%CI:0.50-0.85)→NNT 71/3.1年(=238/年)
有害事象
・性器感染症
E群6.4% vs C群1.8%
・尿路感染症
E群18.0% vs C群18.1%
副次的効果
体重↓、LDL↑、収縮期血圧↓、尿酸値↓↓もみられた。
感想
DPP4の論文の次に読むと、1次アウトカムで有意差が付いているので、インパクトがありました。心不全の入院は利尿剤による効果かな、と思いながら。でも改めてみると、NNTが結構大きくて、イマイチな気もします。まああくまで非劣性試験ですので。。。罹病期間は比較的長そうなので、初期から使ったらもっと差がつくのかな、追跡期間を長くしたら差がつくのかな?とも思いますが、果たして。あとはクラスエフェクトなのかどうか。作用機序的に、使用する上で気を遣う事の多い薬剤ですが、ビビり過ぎず、かといって安心しすぎずに使用していきたい薬剤かなと。
読むたびに印象が少しずつ違う文献ですので、また読んでみたいなと。
次は、この文献のアジア人解析についての文献です。欧米人とは体格等が全然違いますから、その辺での差が気になっていたので。
Empagliflozin and Cardiovascular Outcomes in Asian Patients With Type 2 Diabetes and Established Cardiovascular Disease - Results From EMPA-REG OUTCOME®
(2型糖尿病および確立した心血管疾患のアジア人患者におけるエンパグリフロジンと心血管アウトカム)
Circ J. 2017 Jan 25;81(2):227-234.
PMID:28025462
P:心血管リスクの高い2型糖尿病患者(1517人)
E:エンパグリフロジン10mg(505人)または25mg(501人)投与(1006人)
C:プラセボ投与(511人)
O:(1次アウトカム)心疾患死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合
デザイン:2重盲検、ランダム化、プラセボ対象比較試験
2次アウトカム:心疾患死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中+不安定狭心症による入院
ITT解析されているか:FAS
脱落率:不明。有害事象による治療中断は、E群(10mg)13.3%,E群(25mg)13.4%,C群15.9%
患者背景(ベースライン等): 18歳以上(平均E群(10mg)61.1±8.8,E群(25mg) 61.1±9.4,C群60.7±9.4)、女性約25%、BMI45以下(平均E群(10mg) 26.8±4.2, E群(25mg) 26.5±4.0,C群26.6±3.9)、平均体重E群(10mg)71.1±13.6, E群(25mg) 70.5±13.2,C群70.7±13.2、eGFR30 mL/分/1.73m3以上、HbA1c:未治療では7.0-9.0、治療中は7.0-10.0 (平均E群(10mg) 8.06±0.85 群(25mg) 8.05±0.83,C群8.09±0.86)、心血管リスクの詳細はかなり複雑で…、平均罹病期間は不明だが10年以上の罹病が50%、5-10年が25%、1-5年が20%な感じ。アジア人9割、他1割ってどこ??
追跡期間の中央値:3.1年
結果
E群7.9% vs C群11.4%(ハザード比0.68;95%CI:0.48-0.95)→NNT 29/3.1年(=91/年)
2次アウトカム
・1次アウトカム+不安定狭心症による入院
E群10.0% vs C群13.5%(ハザード比 0.73; 95%CI:0.54-1.00)
・総死亡
E群4.1% vs C群6.3 %(ハザード比 0.64; 95%CI:0.40-1.01)
・心血管死
E群2.2% vs C群4.9%(ハザード比 0.44; 95%CI:0.25-0.78)→NNT 37/3.1年(=115/年)
・心不全による入院
E群2.2% vs C群3.1%(ハザード比 0.70; 95%CI:0.37-1.33)
有害事象
・性器感染症
E群3.3% vs C群1.0%
・尿路感染症
E群17.7% vs C群18.6%
感想
多少数字が異なりますが、概ね同じ傾向ですね。やはりベースラインの平均BMIは4、体重は15kgほど異なっていたようです。総死亡や心不全による入院で有意差がついていないのは、検出力不足のように思います。
あとは、性器感染症はこちらの対照群の方で少ないのが印象的です。
次回はGLP1製剤についてみていきます。