最近、認知症患者さんの眠前にトラゾドン(レスリン®、デジレル®)が処方されているのを時々目にします。色々調べてみると、不眠やせん妄の治療を目的に処方されることが多いようです。おそらくベンゾを避ける意味もあるのではないかと思います。
院内に採用がないこともあり、その効果のほどを調べたくて、文献を検索しました。
せん妄で検索してもあまりいい文献がヒットしなかったので、不眠で検索して文献を2つピックアップしました。ただ、不眠でもあまり参考になる文献が出てこなかったのですが…
Evaluation of trazodone and quetiapine for insomnia: an observational study in psychiatric inpatients.
Prim Care Companion CNS Disord. 2013;15(6). pii: PCC.13m01558.
PMID:24800124
P:18-65歳の精神疾患にて入院した患者(61人)
E:トラゾドン服用(30人)(132 study nights)
C:クエチアピン服用(31人)(180 study nights)
O:総睡眠時間(患者の主観および看護師の睡眠ログ)、睡眠効率(就床時間中の睡眠時間の割合)、睡眠潜時、中途覚醒(回数と持続時間。患者の主観および看護師の睡眠ログ)
デザイン:観察研究
2次エンドポイント:睡眠の質(リッカートスケールを使用)、副作用
交絡因子:特に調節されていない
ベースライン:年齢、人種、性別、入院回数、GAF(Global Assessment of Functioning)スコアについて記載されており、有意差はなし
内服していた睡眠時の鎮静剤の数:クエチアピン群2.79 vs トラゾドン群1.93 (p<0.01)
用量の中央値:いずれも100mg
【結果】
Parameter |
Trazodone |
Quetiapine |
P Value |
総睡眠時間(患者の主観), h |
7.80 ± 2.21 |
6.75 ± 2.84 |
< .01 |
総睡眠時間(看護師のログ), h |
9.13 ± 1.52 |
8.68 ± 2.03 |
.04 |
睡眠効率、% |
84.02 ± 12.81 |
82.09 ± 14.35 |
.24 |
睡眠潜時, min |
69.26 ± 68.27 |
67.59 ± 64.81 |
.83 |
中途覚醒回数(患者の主観) |
1.60 ± 1.91 |
1.32 ± 2.00 |
.26 |
中途覚醒回数(看護師のログ) |
0.52 ± 0.77 |
0.75 ± 1.04 |
.04 |
・副作用は便秘、下痢、吐気で有意にトラゾドン群の方が多いが、一過性のものが多かった。
・クエチアピン群は体重増加が認められ、また入院期間は長かった。
【感想】
残念ながら、認知症患者が対照ではありません。総睡眠時間に関しては、有意差があったようです。ただ、ベースラインが分からないので、実際にどのくらいの効果があったのかは不明です。中途覚醒回数(看護師のログ)でも同様ですね。
クエチアピン群の方がより重症の患者が多いような印象も受けるので、その辺も気になるところです。
しかしまあ、総睡眠時間の看護師ログでは8~9時間睡眠が摂れていることになりますので、寝過ぎのような気も、、、
Trazodone improves sleep parameters in Alzheimer disease patients: a randomized, double-blind, and placebo-controlled study.
(トラゾドンはアルツハイマー症患者の睡眠のパラメータを改善させる。)
Am J Geriatr Psychiatry. 2014 Dec;22(12):1565-74.
PMID:24495406
E:トラゾドン群(15人)
C:プラセボ群(15人)
O:(1次アウトカム)夜間の平均睡眠時間(NTST)
デザイン:ランダム化、2重盲検、プラセボ対象比較試験
2次アウトカム:夜間覚醒時間(WASO)、中途覚醒回数(Awakenings)、夜間睡眠割合(%Sleep)、日中総睡眠時間(DTST)、日中の睡眠回数(Naps)、認知(MMSE,FBDS等)および機能性(Katz Index)の諸数値
ITT解析はされているか?:Per Protocol解析
【結果】
【感想】
今回は認知症患者が対象で、それぞれの数値のベースラインの記載もありました。また、先ほどは患者や看護師による主観で総睡眠時間が調査されていましたが、今回はアンチグラフが使われています。
ただ、結果がベースラインとの差ではなく、治療後の数値の比較にて表されております。ベースラインとの差で表されるべきだと思いますし、結果を見る限りではもっと有意差がつく項目が増えるような気がします。
てことで、プラセボとの比較では睡眠の改善が期待できそうです。
【全体を通して】
認知症患者への不眠症に対してのトラゾドンは、それなりに効果が期待できそうですが、まだまだエビデンスが不足しているように思います。ベンゾジアゼピン系薬や抗精神病薬との効果、副作用の比較が今後研究されることを期待したいです。
結局採用に関しては持参された患者さんの残薬が無くなった際に代替薬として何が適当なのかよく分からなかったこと、(上記の文献を参考にして)それなりに効果は期待できそうなこと、今後処方されるケースが増えそうなこと、(ジェネリックの)薬価が安いことなどを理由として採用することにしました。
もしかしたら検索方法が悪く見落としているだけかもしれませんので、もっと適当な文献があれば教えてください。