貧血にてVB12が漫然投与されている方がいらっしゃって、検査値は改善しているけど漫然投与されていたので中止依頼をかけようかな、という症例がありまして。ついでに他の薬剤も漫然投与されてないかなと思いながら処方を眺めていたら、PPIがずーっと投与されていまして。処方意図は何だろうか…とカルテを遡っていると、あっそういえばPPIとVB12って何か関連あったような…という事で、今回の文献を検索しました。
私が参考になりそうと思ったのは今からみていく2つの文献です。私が行った検索なので、漏れがある可能性は大いにあるとは思いますが…
Association between vitamin B12 deficiency and long-term use of acid-lowering agents: a systematic review and meta-analysis.
(VB12欠乏と酸分泌抑制薬の長期間の使用の関連:SR&MA)
Intern Med J. 2015 Apr;45(4):409-16.
PMID:25583062
P: 4件の症例対照研究(4254例および19,228例の対照群)および1件の観察研究に組み込まれた患者
E:酸分泌抑制薬(ALA)の長期投与
C:ALAの非投与(短期投与も含まれるかも)
O:VB12欠乏症と関連するか
デザイン:メタ解析
結果
長期ALA使用は、VB12欠乏症の発症と有意に関連していた(ハザード比1.83,95%CI:1.36-2.46、P値0.00)。
感想
アブストラクトしか読めませんし、しかも情報が少なくて…
PECOは若干無理やり立てていますが。
なんとなく関連はありそうかな…という感じですかね。PPIとH2RAの区別もないですし。投与期間も不明です。
次の文献は全文読めますので、そちらを参考にした方がよさそうです。次の文献が、この文献のメタ解析に含まれている可能性も大いにありそうですが。
Proton pump inhibitor and histamine 2 receptor antagonist use and vitamin B12 deficiency.
(PPIおよびH2RAの使用とVB12欠乏症)
JAMA. 2013 Dec 11;310(22):2435-42.
PMID:24327038
P:北カリフォルニア・カイザーパーマネンテ(米国の保険プラン)の加入者で1997年1月~2011年6月までにVB12欠乏症の診断を受けた25,956人の患者とVB12欠乏のない184,199人
E:PPIやH2RAの2年以上の暴露あり
C:PPIやH2RAの暴露なし
O:VB12欠乏症は増加するか
デザイン:症例対象研究
サブ解析:PPIやH2RAの服用年齢別、服用量別、現在or過去の服用の比較
交絡因子:痴呆、糖尿病、甲状腺疾患、ヘリコバクターピロリ感染、アルコール乱用、喫煙、萎縮性胃炎、無酸症、甲状腺機能補助薬およびメトホルミンの服用等
(Confoundingの2段落目にもう少し書いてありそうな気はするのですが、うまく理解できていません。)(残存交絡因子はたくさんある気はしますが、、、)
マッチング: 性別、年齢、北カリフォルニア・カイザーパーマネンテmembership、地域、民族/人種性。
結果
1次アウトカム
・PPIの2年以上使用群vs PPI or H2RA未使用群 : OR 1.65 [95% CI, 1.58-1.73]
・H2RAの2年以上使用群vsPPI or H2RA未使用群 : OR 1.25 [95% CI, 1.17-1.34]
サブ解析
・使用量別:PPI or H2RA未使用群を1として、<0.75錠/日(OR 1.63[95% CI, 1.48-1.78])、0.75-1.49錠/日(OR 1.55[95% CI, 1.46-1.64]) 、≧1.5錠/日(OR 1.95[95% CI, 1.77-2.15])
・H2RAの使用量別:PPI or H2RA未使用群を1として、<0.75錠/日(OR 1.19[95% CI, 0.99-1.42]) 、0.75-1.49錠/日(OR 1.16[95% CI, 1.04-1.28]) 、≧1.5錠/日(OR 1.37[95% CI, 1.23-1.52])
・投与期間
PPIとH2RAのいずれも2-3.9年、4-5.9年、6-7.9年、8-9.9年、10年以上の比較では特に差はなかった。
・PPIの中止後、リスクは改善するか?(Figure参照)
現在のPPI使用&中止から1年以内(OR1.7くらい?)(詳細な数字なし)、中止から1-1.9年(OR, 1.80 [95% CI, 1.51-2.14]) 、中止から2-2.9年(OR, 1.43 [95% CI, 1.11-1.85])、中止から3年以上 (OR, 1.38 [95% CI, 1.14- 1.66])。
感想
それなりに関連していそうな印象です。観察研究であること、残存交絡因子がまだまだ存在しそうな気がするので、そのあたりをどう捉えるかという問題はありますが。服用期間によるリスクは2年以上では変わらず、投与量は多い方がリスクが高い傾向、中止後はリスクの軽減が見られるが3年以上でも未使用群と同じにはならずということで、当たり前ですが不用意な投与を避けるということが重要なのかと思います。
さて、どうやって処方提案しましょうか。PPIを中止するリスクもありますし。悩ましいです。もうちょっと考えます。