今回は、BPSDにおける抑肝散の効果をみていきます。
よく使われていますが、個人的には効果をあまり実感できていません。漫然投与も多い気がしますし、副作用の低K血症も時々みますし。。。
そんなこんなで、個人的にはあまり好きな薬剤ではないのですが、その効果を文献にて確認していきたいと思います。
まずはメタ解析から。
Yokukansan in the Treatment of Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia: An Updated Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials.
(抑肝散による認知症の行動および心理学的症状の治療(RCTのメタ解析のアップデート))
J Alzheimers Dis. 2016 Sep 6;54(2):635-43.
PMID:27497482
P:BPSDを有する認知症患者381人
E:抑肝散群
C:プラセボ群or通常ケア群
O:BPSDの合計スケール、全ての中止
デザイン:RCTのメタ解析(5試験、うち1つはプラセボ対照、4つは通常ケア対照)
2次アウトカム:BPSDのサブスケールスコアの差、ADLスコア、有害事象による中止、有害事象
評価者バイアス、出版バイアス、元論文バイアス、異質性バイアス:いずれも特に問題なし。
【結果】
1次アウトカム(BPSDの合計スケール)
E群vsC群
標準化平均差(SMD):-0.32(95%CI(-0.53)-(-0.11), I2 = 0%, 5試験、361人
※アルツハイマー型認知症患者(AD)のみの3試験の複合では、有意差はなかった。種々のタイプの認知症を含んだ試験は、それぞれ単独でも有意差が出ているし、複合でも有意差が出ている。
1次アウトカム(全ての中止)、2次アウトカム(有害事象による中止、有害事象)
E群vsC群にて、全て有意差なし
2次アウトカム(BPSDのサブスケールスコアの差)
妄想(SMD:-0.51;95% CI:(-0.98)-(-0.04))
幻覚(SMD:-0.54;95% CI(-0.96)-(-0.12))
興奮/攻撃性(SMD:-0.37;95% CI(-0.60)-(-0.15))
その他は、記載なし。
【感想】
(アブストラクトしか読めない文献ですが、個人的に全文読んでみました。基本的にはアブストラクトの情報のみ記載しておきます。)
標準化平均差(SMD)という指標がよく分からず。。。こちらの奥村先生のSlide Share「明日から読めるメタ・アナリシス」を参考にしました(結局、よく理解できてませんが…)。
慣例では、SMD=0.2は小さな差、0.5は中等度の差、0.8は大きな差、と解釈するようですので、それを用いて評価したいと思います。
1次アウトカムのBPSDの合計スケールはSMD=0.32という事で、小さな差があるようです。ただ、ADのみの試験とそうでない試験では結果が異なるという、解釈が難しい結果になっております。
2次アウトカムのBPSDのサブスケールスコアの差では、妄想、幻覚は中等度の差、興奮/攻撃性は小さい~中等度の差があったようです(こちらもADのみの試験か、そうでないかで若干差はあるようです。この3つ以外の指標は、Supplementaryに記載があるようですが、そこまでは読めていませんので…)。
あと、有害事象については有意差がなかったという事ですが…
全体として若干怪しさはありますが、BPSDの中の特に妄想、幻覚、興奮/攻撃性に関しては効果が期待できるかもしれません。
次に、このメタ解析にも含まれている比較的対象患者の多い文献を2つ。まずはAD患者のみの文献(アブストラクトのみ)から。
Randomized double-blind placebo-controlled multicenter trial of Yokukansan for neuropsychiatric symptoms in Alzheimer's disease.
(ADの精神神経症状における抑肝散のランダム化2重盲検プラセボ対象他施設試験)
Geriatr Gerontol Int. 2017 Feb;17(2):211-218.
PMID:26711658
P:診療所、病院、ナーシングホームからなる合計22の施設のアルツハイマー病患者145人。
E:抑肝散(7.5g/日)
C:プラセボ
O:BPSDを評価する手段である神経精神症状評価の簡易質問票(NPI-Q)の合計スコアの4週間の変化
デザイン:ランダム化、2重盲検、プラセボ対照、多施設試験
2次アウトカム:12週のNPI-Qスコアの変化、NPI-Qサブカテゴリースコアの変化、MMSEの合計スコア
【結果】
1次アウトカム(NPI-Qスコアの4週の変化)
E群vs C群:有意差なし
2次アウトカム( 12週のNPI-Qスコアの変化、NPI-Qサブカテゴリースコアの変化、MMSEの合計スコア)
E群vs C群:有意差なし
サブ解析(MMSEスコアが20点未満の患者群)
プラセボ群に比べて抑肝散群で「興奮/攻撃性」のスコアが著しく低下した(P = 0.007)
【感想】
アブストラクトしか読めなかったので、詳細は不明ですが。
今回の試験での効果は、かなり限定的だったようです。
NPIスコア、NPI-Qスコアにかんしては、こちらのPDFの9,10ページ目にまとまっております(信頼できる情報かどうかは分かりませんが…)
次は、種々の認知症が含まれる試験についての文献を。
A randomized cross-over study of a traditional Japanese medicine (kampo), yokukansan, in the treatment of the behavioural and psychological symptoms of dementia.
(BPSD治療における抑肝散のランダム化クロスオーバー研究)
Int J Neuropsychopharmacol. 2009 Mar;12(2):191-9.
PMID:19079814
P:AD (混合型認知症を含む)またはレビー小体型認知症と診断された106人の患者(外来57人、入院46人(解析に含まれなかった3人を除く))
E:抑肝散群
C:無治療群
O:BPSDや認知機能の変化
デザイン:ランダム化クロスオーバー試験(オープンラベル)
2次アウトカム:ADLの変化、有害事象
試験期間:それぞれ4週間
脱落率:14.6%(15/103)
ITT解析されているか?:されていない。FAS(103/106を解析)
【結果】
※グループA(ピリオド1:抑肝散治療、ピリオド2:無治療。各期間は4週継続)
グループB(ピリオド1:無治療、ピリオド2:抑肝散治療)
1次アウトカム(BPSD→NPIスコアにて評価)
・グループA ベースライン:24.0、ピリオド1:19.7(p=0.002)、ピリオド2:18.9(p=0.807)
・グループB ベースライン:27.9、ピリオド1:28.6(p=0.414)、ピリオド2:23.5(p=0.007)
1次アウトカム(認知機能→MMSEにて評価)
・グループA ベースライン:13.8、ピリオド1:13.7(p=0.821)、ピリオド2:13.4(p=0.671)
・グループB ベースライン:12.6、ピリオド1:13.2(p=0.112)、ピリオド2:14.5(p=0.056)
2次アウトカム(ADL→Barthel Index(入院患者)、IADL(外来患者))
全て有意差なし
2次アウトカム(NPIスコアの症状別変化)
興奮/攻撃性
・グループA ベースライン:5.3、ピリオド1:3.3(p<0.001)、ピリオド2:3.2(p=0.871)
・グループB ベースライン:5.6、ピリオド1:5.1(p=0.087)、ピリオド2:3.7(p=0.003)
易刺激性
・グループA ベースライン:5.6、ピリオド1:3.9(p=0.004)、ピリオド2:3.2(p=0.735)
・グループB ベースライン:5.8、ピリオド1:5.6(p=0.692)、ピリオド2:4.3(p=0.022)
その他、妄想、幻覚、うつ、不安は2つのうち1つのグループで有意差あり
多幸感、無関心(アパシー)、脱抑制、異常な運動行動は両群で有意差なし
2次アウトカム(有害事象)
抑肝散との関連を否定できないものが6件。3件は消化器症状、2件は低K血症、1例は脚浮腫。
※被験者のK値は平均0.2mEq/L減少したとの記載あり。
【感想】
今回は4週の試験およびオープンラベルという事で、その辺の評価が難しいですが。興奮/攻撃性、易刺激性に関しては、A,Bグループとも差があったようです。やはり有害事象は少なめですね。
【全体をとおして】
比較的規模の小さい試験ばかりで解釈が難しいですが、BPSDのなかでも陽性症状についてであれば少しは効果が期待できそうな気がします。ただ、現状はかなり多く使われているイメージがあるので、どうして大規模なRCTが存在しないのかが疑問です。もう何年も前から使われているのに。もしかして、ネガティブデータが出たら困るのかな…なんて考えたりもしますが。