前回は抑肝散の効果についての文献を読んでいきました。今回は、その抑肝散の有害事象についてみていきたいと思います。どうしても偽アルドステロン症による低K血症は気になります。
文献に入る前に、偽アルドステロン症に関する復習を。
・重篤副作用管理マニュアル 偽アルドステロン症
https://www.pmda.go.jp/files/000145004.pdf
・日病薬誌 プレアボイド広場「漢方製剤による低カリウム血症、偽アルドステロン症」
https://www.jshp.or.jp/banner/oldpdf/p43-9.pdf
当院でよく使用される甘草含有製剤の1日量当たりの甘草含有量
1g:六君子湯
1.5g:補中益気湯、抑肝散
2g:葛根湯、麦門冬湯、大黄甘草湯
3g:小青竜湯
6g:芍薬甘草湯
漢方以外にグリチルリチンが含まれる製剤
グリチロン錠®:25mg/錠
強力ネオミノファーゲンシー®:40mg/20mL
てことで本題へ。
まずはアブストラクトのみしか読めませんが、甘草の有害事象についてのメタ解析の文献を。
The association between consistent licorice ingestion, hypertension and hypokalaemia: a systematic review and meta-analysis.
(甘草の漫然投与と高血圧、低カリウム血症との関連)
J Hum Hypertens. 2017 Jun 29.
PMID:28660884
P:グリチルリチン酸100mg以上/日を含む製剤を摂取した治療群を含む合計18の試験、337人
E:グリチルリチン酸100mg以上/日を含む製剤の漫然投与後
C:投与前
O:血圧、血漿カリウム、血漿レニン活性、血漿アルドステロンへの影響
デザイン:メタ解析
【結果】
投与前と比べての変化
平均収縮期血圧:5.45 mm Hg, 95% CI 3.51-7.39
拡張期血圧:3.19 mm Hg, 95% CI 0.10-6.29
血漿K値:-0.33 mmol/l, 95% CI -0.42 to 0.23
血漿レニン活性:-0.82 ng/ml/hr, 95% CI -1.27 to -0.37
血漿アルドステロン:-173.24 pmol/l, 95% CI -231.65 to -114.83
※グリチルリチン酸の1日量と収縮期血圧(r2=0.55)および拡張期血圧(r2=0.65)との間に有意な相関が認められたが、他のアウトカムはそうではなかった。
【感想】
グリチルリチン100mg/日以上ということでしたが、甘草には約4%のグリチルリチンが含まれているようです(先の「プレアボイド広場」より)。なので、甘草2.5g/日以上という事です。抑肝散は7.5g中に1.5gなので、この文献の用量よりはやや少なくなっていますので、参考程度で。
ベースラインからの変化量という事で、やや評価は難しいですが。
血圧の上昇というのは一応意識していますが、今まで気づいたことがないです。やはり注意が必要なようですが、少しくらいの上昇なら気づかないでしょうね。
K値に関しては減少傾向ではあったものの、有意差はなかったようです。
次は、抑肝散製剤の低K血症についてのコホート研究を。
Liquorice-induced hypokalaemia in patients treated with Yokukansan preparations: identification of the risk factors in a retrospective cohort study.
(抑肝散製剤で治療した患者の甘草関連の低カリウム血症:後ろ向きコホート研究の危険因子の同定)
BMJ Open. 2017 Jun 15;7(6):e014218.
PMID:28619768
P:2007年3月から2016年1月まで、日本の筑波大学病院にて認知症又は他の精神障害にて抑肝散製剤(抑肝散又は抑肝散加半夏陳皮)(いずれも1日量7.5gに対して、甘草1.5g配合)を投与されている患者389人(男性/女性: 174/215, 68.6±16.1歳)
E:低K血症あり
C:低K血症なし
O:低K血症発症の割合、抑肝散製剤関連低K血症のリスク因子
デザイン:後ろ向きコホート研究
2次アウトカム:特に設定されておらず。
追跡(服用)期間:中央値(?)231日(6-2788日)
除外基準:血清K値3.6mEq/L未満、服薬コンプライアンス不良
【結果】
1次アウトカム(低カリウム血症発症率)
94人(24.2%)
製剤投与後34日(中央値?)(範囲1-1600日)
1次アウトカム(抑肝散製剤関連低カリウム血症のリスク因子)(多変量解析)
抑肝散(vs抑肝散加半夏陳皮):HR 3.09(95%CI:1.41-6.80)
低K血症誘発製剤(LPIDs;利尿剤、グルココルチロイド、ミネラルコルチコイド、グリチルリチン)併用:HR 2.74(95%CI:1.75-4.29)
低アルブミン血症(3.8g/dL未満?):HR 2.15(95%CI:1.26-3.38)
最高用量服用(7.5g vs 5.0g or 2.5g):HR 1.60(95%CI:1.01-2.55)
女性:HR 1.32(95%CI:0.85-2.03)
年齢(比較対象不明。平均?):HR 1.00(95%CI:0.99-1.02)
血清カリウム値4.1mEq/L以上:HR 0.45(95%CI:0.29-0.70)
その他(K値の変化について)
低K血症群:−0.7mEq/L(−95%CI:−3.0 to −0.1)
非低K血症群:−0.1 mEq/L(−95%CI:−1.3 to 1.1)
【結果】
今までの結果とは異なり、急に低K血症の割合が高くなりました。今までの試験とは違い、追跡期間が長いことが1つの要因と考えられます。Fig1やFig2を見れば分かりますが、比較的投与初期に好発はしていますが、投与開始500日後くらいまでは少しずつ増えている印象です。なので、投与初期以外も注意した方がよさそうです。
また、低K血症誘発製剤の併用にも注意が必要なようです。特に、利尿剤を使用しているケースは時々目にするので、気を付けた方がよさそうです。
用量についても相関がみられたようなので、特に高用量は注意していきたいです。
アルブミンに関しては、BPSDで抑肝散を内服している方はほとんどが低アルブミン血症のような気もしますが。
本文中には、リスク因子を持つ患者はK値を月1回フォローすべきと記載してありましたが、そこまでするのはやや煩雑すぎるような気がします。
あと、日本語の報告もいくつかあったので、そのうち一つを紹介しておきます。あまり文献の吟味はできていませんが。
こちらでは偽アルドステロン症として、浮腫・低カリウム血症・血圧上昇がまとめて報告されていますが、甘草1日1gで0.5~1.7%、2gで1.7%、4gで3.3%、6gで10.3%~11.8%(調査期間:2週~24週)となっており、用量による相関がみられたようです。なお、抑肝散は調査対象薬剤には含まれていませんでした。
それにしても、芍薬甘草湯の6gというのはやっぱり怖いですね。。。時々分3での処方を見ますが、できるだけやめてほしい…
【全体を通して】
抑肝散の甘草の含有量は比較的少ないとはいえ、特に低K血症や血圧上昇には十分な注意が必要という印象です。浮腫に関してはあまり記載がなかったですが、どうでしょうか?
これまでのことをふまえて、どういった患者になら安全に効果的に使えそうかということを考えてみます。まず、BPSDの陽性症状があり、低K血症誘発製剤を内服していない、K値が安定している患者であれば使用してもよいかなと。あとは、抑肝散による過鎮静やそれに伴う誤嚥というのは問題となってないようなので、抗精神病薬による過鎮静や誤嚥が問題となる時ですかね。まあ、漢方を内服するという行為自体が誤嚥を誘発するのではないかという懸念も個人的にはありますが…