バルプロ酸ナトリウム(以下、VPA)とカルバペネム系抗菌薬の併用は、VPAの血中濃度が低下することがあるので禁忌となっております。というのは知っていたのですが、実際使いたい症例がありまして。どの程度低下するのかが知りたくて、おもむろに添付文書を開いたのですが…
※「メロペン点滴用バイアル」添付文書より
まさかのざっくりでした。せめて参考文献くらい載せておいてくれてもいいのに…
逆にこの程度であれば意外と使えるのかな?と思いながら、文献を調べてみました。(調べて分かりましたが、全然使えなかったです…調べてよかったです。)
とりあえず、「バルプロ酸 メロペネム 併用」で日本語の文献やブログを読んで、Pubmedの検索ワード探しを実行。最終的には、「Valproic acid」「carbapenem」「interaction」を用いて検索しました(バルプロ酸は、海外ではdivalproexという呼び名もあるみたいですね。Valproateとvalproic acidの合剤のようですが、よく分かりません。)。
50件弱ヒットしましたが、その中から私の独断と偏見で3報選びました。2つは今年出た比較的新しいもの、あと一つは少し古いですが他の文献でもよく引用文献として挙がっていた文献です。この他にもいくつか読んでみましたが、それほど大差はなかったように思います。
今回は批判的吟味のやり方がよく分からなかったので、その辺は適当に。。。
考察は最後にまとめてやります。
まずはアブストラクトのみしか読めなかった2報から。
Valproic acid plasma concentration decreases in a dose-independent manner following administration of meropenem: a retrospective study.
(バルプロ酸の血中濃度はMEPMの投与後用量非依存的に減少する:後ろ向き研究)
J Clin Pharmacol. 2009 Nov;49(11):1363-9.
PMID:19773524
P:第三次医療センターに入院した患者36人
E:メロペネム(MEPM)の投与
C:(メロペネム投与前と比べて)
O:VPA血中濃度の減少、血中濃度回復までの期間、VPAの用量による違い、24時間以内にTDMを行った患者の血中濃度
結果
・VPA血中濃度の減少(平均±標準誤差):ベースライン50.8±4.5μg/mL→投与後 9.9±2.1μg/mL (p<0.001)
・血中濃度の減少率:82.1%±2.7%
・MEPM中止後の血中濃度回復までの期間:「After discontinuation of meropenem, VPA plasma concentrations remained low for 7 days and then gradually increased after 8 to 14 days, reaching values comparable to those before meropenem initiation. 」
・VPAの用量による違い:「Different daily VPA doses showed a similar pattern of decreased VPA concentrations.」
・24時間以内にTDMを行った患者の平均血中濃度:9.9±3.2μg/mL
Drug-drug interaction between valproic acid and meropenem: a retrospective analysis of electronic medical records from neurosurgery inpatients.
(バルプロ酸とメロペネムの薬物間相互作用:脳外科入院患者からの電子カルテ記録の後ろ向き解析)
J Clin Pharm Ther. 2017 Apr;42(2):221-227.
PMID:28145574
P:Xiangya病院脳神経外科の入院した患者(の381件のVPAのTDMの記録。人数は不明)
E:メロペネム(MEPM)の投与
C:(メロペネム投与前と比べて)
O:VPAおよびMEPMの用量別の血中濃度の変化、血中濃度回復までの期間
結果
・VPAの用量別の血中濃度変化
1.2g/日:67.3±4.6μg/mL(n=21) vs 15.3±1.9μg/mL(n=15),P < 0.001
1.6g/日:67.6±1.2μg/mL vs 18.1±2.6μg/mL(n= 38),P < 0.001
・VPAの用量別の投与後の血中濃度の差
1.2g/日 vs 1.6g/日 vs 2.0g/日:15.3±1.9μg/mL(n=15) vs 18.1±2.6μg/mL(n=38) vs 9.0±3.0μg/mL(n=7);P=0.252
・MEPMの用量別の投与後の血中濃度の違い
高用量群 vs 低用量群:14.0±5.1 μg/mL(n=4) vs 16.5±1.9 μg/mL(n=56);P = 0.729
・MEPM投与中止後の血中濃度の回復について:After discontinuation of MEPM for more than 7 days, VPA plasma concentration recovered to a value comparable to that before MPEM initiation (69.7±4.2μg/mL(n=21) vs 51.2±8.1μg/mL(n=9);P=0.48)←何と何を比べているのかがイマイチ分かりませんが…
最後に、フリーで全文読めた文献を。
Drug interaction between valproic acid and carbapenems in patients with epileptic seizures.
(てんかん発作患者におけるバルプロ酸とカルバペネムの併用による薬物間相互作用)
Kaohsiung J Med Sci. 2017 Mar;33(3):130-136.
PMID:28254115
P:てんかん発作のためのVPAを服用し、カルバペネムの併用にて治療された54人
E:カルバペネム系薬の投与
C:(カルバペネム系薬の投与前と比べて)
O:VPAの血中濃度の減少やカルバペネムとVPAの併用治療を受けた患者の臨床的なアウトカムと関連するリスク因子(←一応、これがメイン?)、VPAの血中濃度の減少、個々の薬剤でのVPA濃度減少、てんかん発作発生率、死亡率など
背景
平均VPA使用量:1,600mg(600-3200)
平均年齢:65.2歳±16.6
結果(本文中に書いてあったもので、気になったものをつらつらと…)
・VPAの血中濃度の減少や臨床的なアウトカムと関連するリスク因子
〇VPAの血中濃度の減少
肝代謝酵素を誘導する抗てんかん薬の併用:p=0.038,Effect size=0.08,95%CI(0.01-0.17)
腎疾患:p=0.036,Effect size=0.08,95%CI(0.20-0.01)
〇てんかん発作や死亡とは関連するものはなし
・VPAの血中濃度の減少率:73%(38-98%)(ベースラインの平均;63.10 mg/mL(21.00-110.84 mg/mL)、 最低血中濃度の平均;16.9 mg/mL(0.13-49.00 mg/mL))。
・カルバペネムの薬剤別でのVPA濃度減少率:メロペネム;80%(49-99%)、エルタペネム;68%(38-88%)、イミペネム;51%(31-73%)。(血中濃度の減少とカルバペネムの用量には関連はなかった。)
・治療域以下になるまでの日数:4.0日(1-16日)
・最低血中濃度になるまでの日数:5.8日(1-20日)
※8名は初日に治療血中濃度以下となり、3名は最低血中濃度となった。
・てんかん発作発生率:48.1%
・死亡率:25.9%
・発作あり群となし群での血中濃度の差:17.7±9.8 mg/mL vs 17.9±12.6 mg/mL(p=0.944)
Table2(本報告とその他報告がまとまっています。これすごくいいです!)
(ちなみに、1つ目で取り上げた文献がTable2の[16]です。)
考察
3報取り上げましたが、併用にてVPAの血中濃度が下がることは間違いなさそうです。しかもかなり下がりますね。1日目から下がるようですし。VPAやカルバペネムの用量には依存しないようです。カルバペネムの種類によっては少し差がありそうですが、個人的にはそれは考慮しない方がいいように思います。
また、最後のTable2を見る限りでは発作の頻度は3-4割くらいで、個人的にはかなり高いように思います。さらに、下がった血中濃度が戻るのには1~2週間かかりそうです。
特別な理由がない限り併用はしない方がよさそうですし、使うにしてもこういったことはしっかり頭に入れておかないといけないと思いました。
一応、今回の症例では他の抗生剤を使用しました。抗てんかん薬を変更(血中濃度の測定をしなくてもいいもの)するという選択肢もあったのかな、と思いながら。4世代セフェムの採用がないので、こういったときは困るなと。他の病院ではどうしているのかな?というのが気になるところです。まあ、内服できないケースも往々にしてありますからね。
ちなみに、主治医にVPAとカルバペネムとは禁忌ですよと伝えたら、「知らなかった」と言われたのでちょっと驚きました。しっかり情報提供していかないといけませんね。