リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

CDI治療もろもろ-3【酸分泌抑制薬のCDI発症リスク】

今回は治療のことではありませんで。酸分泌抑制薬とCDI(クロストリジウムディフィシル感染症)との関連は比較的有名なことかと思いますが、実際にどのくらいのリスク因子なのでしょうか、ということで文献をまとめておきます。まずはPPICDIリスクに関する新しいメタ解析から。アブストラクトのみしか読めていませんが。

 

An updated Meta-Analysis of controlled observational studies: proton-pump inhibitors and risk of Clostridium difficile infection.

(観察研究のメタ解析のアップデート:PPICDIのリスク)

J Hosp Infect. 2017 Aug 22.

PMID:28842261

 

P:CDIの発症

E:PPIの使用

C:PPIの非使用

O:CDIの発症リスク上昇は?

 

デザイン:メタ解析(50の観察研究)

サブ解析:院内発症または市中発症、ICU患者または一般病棟患者におけるPPI使用に依るCDI発症リスク

 

【結果】

1次アウトカム(CDIリスク)

E群 vs C群:オッズ比 1.26;95%CI:1.12-1.39

 

【考察】

PPIによるCDIリスクの上昇が示唆されています。本文を読んでないので、詳しいことは分かりませんが。サブ解析はあまり興味なくパスします。結果としても特に取り上げるほどでもなかったので。

 

もう一つ最近出ていたものがありましたが、オッズ比が他のメタ解析よりやや高く(オッズ比 2.34;95%CI:1.94-2.82)、何となく引っかかったのでパスします。小児についても解析されていたので、そこは参考になるかもしれません。以下の文献です。

Magnitude and direction of the association between Clostridium difficile infection and proton pump inhibitors in adults and pediatric patients: a systematic review and meta-analysis.

J Gastroenterol. 2017 Jul 25.

PMID:28744822

 

次は少し古いですが、同じような条件でのメタ解析を。こちらもアブストラクトのみです。

Risk of Clostridium difficile infection with acid suppressing drugs and antibiotics: meta-analysis.

(酸分泌抑制薬と抗菌薬のCDIリスク:メタ解析)

Am J Gastroenterol. 2012 Jul;107(7):1011-9.

PMID:22525304

 

P:CDI発症患者

E:PPI使用

C:PPI非使用

O:PPIによるCDIのリスク増加は?

 

デザイン:メタ解析(42の観察研究(30の症例対象研究、12のコホート)、計31,300人)

サブ解析:PPIのリスクとH2RAのリスクの比較、抗菌薬とPPIを併用したときのリスク

 

【結果】

1次アウトカム(PPIによるCDI発症リスク)

E群 vs C群:オッズ比(OR) 1.74,95%:1.47-2.85,I²=85%、39研究

(CDIの再発リスク- E群 vs C群:OR 2.51,95%CI:1.16-5.44,I²=78%、3研究)

 

サブ解析(調整された間接的な比較とのこと)

・H2RA群vs PPI群:OR 0.71,95%CI:0.53-0.97

PPI単独群 vs PPI+抗菌薬群:OR 1.96,95%CI 1.03-3.70

 

【考察】

異質性の高さが気になります。こちらでもPPICDIのリスクになる可能性が示唆されています。またPPIよりはH2RAの方がリスクの低い可能性も示唆されています。

 

ちなみに、同じ年に同じようなデザインの他の報告がありましたので紹介しておきます。こちらはフリーで全文が読めます。

Association between proton pump inhibitor therapy and Clostridium difficile infection in a meta-analysis.

(メタ解析によるCDIPPI治療との関連)

Clin Gastroenterol Hepatol. 2012 Mar;10(3):225-33.

PMID:22019794

【結果】

1次アウトカム(CDIにおけるPPIの影響)

E群 vs C群-OR 2.15;95%CI:1.81–2.55,I²=87%,30研究(25の症例対象、5つのコホート),202,965人

※おそらく先の報告と同じ文献が多く含まれると思いますが、こちらも参考にはなりそうです。

 

最後に、先ほどの文献でも少し出てきましたが、H2RAとPPIでのリスクの差を比較したものを。こちらはフリーで全文読めます。

Comparison of the Hospital-Acquired Clostridium difficile Infection Risk of Using Proton Pump Inhibitors versus Histamine-2 Receptor Antagonists for Prophylaxis and Treatment of Stress Ulcers: A Systematic Review and Meta-Analysis.

(ストレス性潰瘍治療および予防に対するPPI vs H2RAの使用による院内発症CDIの比較)

Gut Liver. 2017 May 17.

PMID:28506028

 

P:ストレス性潰瘍予防または治療にPPIまたはH2RAを使用していた患者(12研究、74,132人)
E:PPI使用者

C:H2RA使用者

O:CDIの発症リスクの上昇は?

 

デザイン:メタ解析(12の観察研究(3つはコホート、9つは症例対象研究))

評価者バイアス:2人の著者が独立して行っている。

出版バイアス:英語のみ。Funnel plotあり、問題なさそう。

元論文バイアス:観察研究のメタ解析(12の観察研究(3つはコホート、9つは症例対象研究))

異質性バイアス:異質性はやや高め。ブロボグラムは概ね一致。

 

【結果】

1次アウトカム(CDIの発症リスク)

E群 vs C群:オッズ比 1.386;95%CI:1.152-1.668; I2=42.81%

(12研究、n=74,132人(CDI ; n=2,235、非CDI ; n=71,897))

 

【考察】

メタ解析の質としては申し分ないように思います。Limitationとして本文中に記載されていましたが、CDIの診断基準が統一されていない、使用した抗菌薬の種類・期間が不明なものが多かったとのことで、そこは割り引く必要がありそうです。ただ、ブロボグラムは概ね一致していたので、リスクはこんなものなのかなとは思います。

 

※この文献のTable4.に、これまでの酸分泌抑制薬とCDIリスクを比較したメタ解析がまとまっておりますので、載せておきます。よろしければご参考に。

f:id:gacharinco:20171030005557p:plain

 

【全体を通して】

リスクの度合いについては研究間でややばらつきがありますが、少なくともPPIの服用とCDIの発症リスクには関連がありそうです。また、H2RAの方がPPIよりはリスクが低いということも言えそうです。