前々回はエスゾピクロン、前回はゾルピデムのリスクをみていきましたが、今回はZ-drug全般についてみていきます。
ピックアップした文献は3つ。
まずは、全文は読めませんが最新のメタ解析を。
Z-drugs and risk for falls and fractures in older adults-a systematic review and meta-analysis.
(Zドラッグと高齢者における転倒、骨折リスク)
Age Ageing. 2017 Oct 25:1-8.
PMID:29077902
P:Z-drugと関心のあるアウトカムとの関連を報告した14の研究
E:Z-drug服用患者
C:Z-drug非服用患者
O:転倒及び骨折のリスク
【結果】
1次アウトカム(骨折リスクおよび転倒リスク)
骨折リスク-E群 vs C群:オッズ比(OR) 1.63;95%CI:1.42-1.87;I²=90%; n = 830,877
転倒リスク- E群 vs C群:OR 2.40;95%CI:0.92-6.27;I²=95%; n = 19,505
【感想】
転倒リスクについては有意差こそつきませんでしたが、検出力不足の可能性が高そうです。異質性が大きいのは気になりますが、全文読めないのでなんとも…。
次は大腿骨近位部骨折に関する観察研究を。
Nonbenzodiazepine sleep medication use and hip fractures in nursing home residents.
(施設入所患者における非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用と骨折リスク)
JAMA Intern Med. 2013 May 13;173(9):754-61.
PMID:23460413
P: 大腿骨近位部骨折の記録のある50歳以上のアメリカの長期滞在型老人施設の入所者15,528人のうち
E:非ベンゾジアゼピン系薬(ゾルピデム、エスゾピクロン、ザレプロン:
Z-drug)の服用
C:Z-drugの非服用
O:大腿骨近位部骨折リスク
デザイン:ケースクロスオーバー研究(ハザード期間:骨折の0-29日前、コントロール期間:60-89日前、120-149日前)
2次アウトカム:新規使用によるリスク(新規使用の定義:過去60日の非使用)
サブ解析:認知的な状態(Congnitive status)、機能的な状態(Functional status)、移動能力(Ability to transfer)、尿失禁(Urinary Incontinence)、ベッドでの抑制の使用(Bed restraints used)によるリスクの違い
Limitation:投与量が考慮されていない。ベンゾジアゼピン系との相互作用が考慮されていない。Medicare Part Dに登録していない人が除外されている。不眠症または大腿骨骨折のリスクの悪化が考慮されていない。
【結果】
1次アウトカム(Z-drugの使用と非使用による大腿骨近位部骨折リスク)
E群 vs C群
・0-15日前:オッズ比(OR) 1.47;95%CI:1.24-1.47)
・0-30日前:OR 1.66;95%CI:1.45-1.90
2次アウトカム(Z-drugの新規使用と非使用による大腿骨近位部骨折リスク)
・0-15日前:OR 2.20;95%CI:1.76-2.74
・0-30日前:OR 1.90;95%CI:1.60-2.26
サブ解析
Congnitive status
・通常から軽度:OR 1.86(1.56-2.21)
・中等度から重度:OR 1.43(1.15-1.77)
※両群のリスク比のP値0.06
Functional status
※重症度による有意差なし
Ability to transfer
・独立:OR 1.46(1.06-2.01) P=0.09
・見守り又は限られた介助が必要:OR 2.02(1.65-2.48) Reference
・広域または全介助:OR 1.43(1.14-1.79) P=0.02
Urinary Incontinence、Bed restraints used はそれぞれの比較群と有意差なし
【感想】
Z-drugにより転倒リスクが増加されることが示唆されました。また、特に新規使用者でのリスクが高いことも分かりました。
また、サブ解析によると、認知機能は中等度から重度よりも軽度から中等度の方で転倒リスクが高く、移動能力では見守りの状態で一番リスクが高かったようです。少し意外な気がしますが、中途半端に(という表現は良くないかもしれませんが…)動ける状態が一番危険なのかなとも思いました。
最後は、ベンゾジアゼピン系薬およびZ-drugの大腿骨近位部骨折リスクを評価したメタ解析を。
Benzodiazepines, Z-drugs and the risk of hip fracture: A systematic review and meta-analysis.
(ベンゾジアゼピン、Zドラッグの大腿骨近位部骨折リスク)
PLoS One. 2017 Apr 27;12(4):e0174730.
PMID:28448593
P:対象研究に含まれた患者(50歳以上でかつ研究の平均年齢65歳以上)
E:BNZまたはZドラッグ服用患者
C:BNZまたはZドラッグ非服用患者
O:骨折リスク
デザイン:メタ解析(症例対象研究とコホート研究)
2次アウトカム:服用期間によるリスクの差
評価者バイアス:2人の独立した評価者により実施された。
出版バイアス:英語のみ。MEDLINE,SCOPUSのみでは不十分?Funnel plotはまずまず。
元論文バイアス:症例対象研究とコホート研究のメタ解析
異質性バイアス:ブロボグラムは概ね一致している。異質性は、服用期間別にすると少ないが、全投与期間にすると異質性は高くなる。
Limitation::RCTではないこと。BNZとZドラッグを直接比較していないこと。
対象となった薬剤↓
ベンゾジアゼピン系薬:diazepam, lorazepam, chlordiazepoxide, oxazepam, temazepam, nitrazepam, loprazolam, clobazam
Z-drug:zaleplon, zolpidem, zopiclone
【結果】
1次アウトカム(ベンゾまたはZドラッグ服用患者の骨折リスク)
ベンゾジアゼピン系薬:相対リスク(RR) 1.52, 95% CI 1.37–1.68;I²=67%
Z-drug:RR 1.90, 95% CI 1.68–2.13;I²=29%
2次アウトカム(投与期間別)(短期間:最初の処方から14日以内、中等度:15-30日、長期間:1か月以上)
・ベンゾジアゼピン系薬
短期間:RR 2.40(1.88-3.05)、I²=27%
中等度:RR 1.53(1.22-1.92)、I²=0%
長期間:RR 1.20(1.08-1.34)、I²=0%
・Z-drug
短期間:RR 2.34(1.74-3.29)、I²=26%(2研究のみ…)
【感想】
Z-drugは組み込まれた文献が少なめだったようで残念ですが。
ベンゾジアゼピン系薬とZ-drugの比較も知りたかったですけど、それは難しそうですね。今回のそれぞれのRRを数字だけで比較するのもナンセンスだとは思いますし。そもそもZ-drugは眠前に服用するものばかりですが、ベンゾジアゼピン系薬は抗不安薬として日中に服用する薬剤も多いですからね。今回の対象薬は日本で発売されていないものが多いですし、よく分かりませんが…
【全体を通して】
ゾルピデムのときもそうでしたが、Z-drugだからといって安全ではないようです。ベンゾジアゼピン系の睡眠薬との比較も知りたいところですが、それについての文献は見つからず…あとは、使用開始初期には十分にリスクのことを考慮しないといけないと思いました。