リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

睡眠薬のリスクもろもろ-4(ベンゾジアゼピン系薬と骨折)

今回はベンゾジアゼピン系薬の骨折リスクについて。

私の独断と偏見と拙い批判的吟味にて3つピックアップしています。

 

まずは、全文読めませんがメタ解析を。

Association between use of benzodiazepines and risk of fractures: a meta-analysis.

(ベンゾジアゼピン系薬使用と骨折リスクの関連)

Osteoporos Int. 2014 Jan;25(1):105-20.

PMID:24013517

 

P:19の症例対象研究と6つのコホート研究を含む25の研究の参加者

E:ベンゾジアゼピン系薬服用患者

C:ベンゾジアゼピン系薬非服用患者

O:骨折リスク

 

デザイン:メタ解析(19の症例対象研究と6つのコホート研究の計25研究)

 

【結果】

1次アウトカム(骨折リスク)

E群 vs C群:相対リスク(RR) 1.25;95%CI:1.17-1.34

 

その他のアウトカム(アブストラクトに書いてあるものをつらつらと)

・大腿骨近位部骨折のみのリスク:RR 1.35

・東部諸国におけるBZDと骨折リスクの関連:RR 1.27;95%CI:0.76-2.14 ←βエラーっぽい

・長時間型BZDの使用と骨折リスクの関連:RR 1.21;95%CI:0.95-1.54 ←βエラーかも…

・出版バイアス調整後の骨折リスク:RR 1.21;95%CI:1.13-1.30

 

【感想】

βエラーっぽい結果もありますが、本文を読んでみないとなんとも…

思ってたよりリスクは低い印象です。異質性は高そうですが。色んな解析がありそうなので、全文を読んでみたいですけどね。

 

 

次は、抗不安薬及び睡眠薬使用の大腿骨近位部骨折リスクについての前向きコホート研究を。

Risk of hip fracture among older people using anxiolytic and hypnotic drugs: a nationwide prospective cohort study.

(抗不安薬及び睡眠薬使用と高齢者間の大腿骨近位部骨折のリスク:全国規模の前向きコホート研究)

Eur J Clin Pharmacol. 2014 Jul;70(7):873-80.

PMID: 24810612

 

P:ノルウェーで1945年以前に生まれた人々(n=906,422)

E:2004-2010年に抗不安薬睡眠薬の暴露あり

C:2004-2010年に抗不安薬睡眠薬の暴露なし

O:2005-2010年の初発の大腿骨近位部骨折リスク

 

デザイン:前向きコホート研究

2次アウトカム:ベンゾジアゼピン抗不安薬の長時間型と短時間型それぞれのリスク

サブ解析:Z-drugの日中または夜間の転倒リスク

 

傾向スコアマッチング:されていない。

交絡因子の調整:されていない

 

Limitation:高齢者施設における投薬の情報が欠落している。

 

【結果】

1次アウトカム(抗不安薬及び睡眠薬の大腿骨近位部骨折リスク)

E群 vs C群

抗不安薬:標準化罹患比(SIR) 1.4;95%CI:1.4–1.5;attribute risk(寄与リスク)1.5%

睡眠薬:SIR 1.2;95%CI:1.1–1.2;寄与リスク2.3%

 

2次アウトカム(ベンゾジアゼピン抗不安薬の作用時間別)

短時間型ベンゾジアゼピン系:SIR 1.5 (1.4–1.6) ;寄与リスク0.7%

長時間型ベンゾジアゼピン系:SIR 1.2 (1.2–1.3) ;寄与リスク1.0%

 

サブ解析(Z-drugの日中と夜間のリスクの違い)

日中:SIR 1.1(1.1–1.2);寄与リスク1.7%

夜間:SIR 1.3(1.2–1.4);寄与リスク3.3%

 

【感想】

解析方法の理解が個人的には難しくて苦労しましたが、なんとか理解できた気がします。

DDDとかSIRとか、ちょっとややこしいですね。総量から平均を取る方法でいいのか?って気はしますが。。。

ここにでてきている抗不安薬というのはほとんどがベンゾジアゼピン系薬(うち7割が長時間型)で、睡眠薬というのはほとんどがZ-drugのようです。他の文献を読んでもそうですが、大部分がZ-drugになってるんですね。

全体的にリスクはそれほど増えないような気もします。寄与リスク(研究期間全体での寄与リスクのよう)も高くないですし。

睡眠薬より抗不安薬の方がSIRは高いけど寄与リスクは低いというのは、興味深い点ではあります。

 

 

最後に、ベンゾジアゼピンと大腿骨近位部骨折のリスクに関するネステッド症例対象研究を。

Impact of drug interactions, dosage, and duration of therapy on the risk of hip fracture associated with benzodiazepine use in older adults.

(高齢者のベンゾジアゼピンと関連した大腿骨近位部骨折のリスクへの薬物相互作用、用量、治療期間の影響)

Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2010 Dec;19(12):1248-55.

PMID:20931664

 

P: 1994年から2005年にPACEに登録された65歳以上のメディケアの患者のうち、入院に至った大腿骨近位部骨折17,198人とマッチされた85,990人のコントロールの患者

E:(過去14日以内の)ベンゾジアゼピン系薬服用患者

C:ベンゾジアゼピン系非服用患者

O:大腿骨近位部骨折のリスク

 

・デザイン:ネステッド症例対象研究

・サブ解析:長時間型or短時間型、アルプラゾラムvsロラゼパムvsゾルピデム、低用量vs中等量vs高用量、BDZの開始からの期間、アルプラゾラムロラゼパムゾルピデムの相互作用薬あり・なし・相互作用薬のみとの比較

・症例と対象はマッチされているか?:されている(1:5)

・調整された交絡因子は?:入院月にてマッチング→年齢、性別、人種、多変量解析(収入、医療の利用、併存疾患、併用薬(指標の日より3か月以内の処方))にて交絡因子を調整

・Limitation:処方データに基づいており、服用しているかどうかわからない。OTCの服用が考慮されていない。BZDに耐性のある人がいる可能性。効果を減弱させる薬剤を考慮していない。骨粗鬆症の重症度を考慮していない。

 

【結果】

1次アウトカム(ベンゾありvsベンゾなし)

E群 vs C群:調節相対リスク(RR) 1.16(1.10-1.22)

 

サブ解析(非使用が標準)(調節相対リスク)

☆作用時間別

・長時間型BDZ:1.05(0.94-1.16)

・短時間型BDZ:1.19(1.13-1.26)

※長時間型(半減期24時間以上):chlordiazepoxide, clonazepam, clorazepate, diazepam, flurazepam, halazepam, quazepam

※短時間型(半減期24時間以内):alprazolam, estazolam, lorazepam, oxazepam, temazepam, triazolam, eszopiclone, zaleplon, zolpidem

 

☆薬剤別

アルプラゾラム:1.01(0.92-1.11)

ゾルピデム:1.26(1.11-1.44)

ロラゼパム:1.29(1.19-1.40)

 

☆用量別

・低用量:1.09(1.02-1.17)

・中等量:1.21(1.11-1.31)

・高用量:1.32(1.17-1.48)

※低用量:daily dose ≤0.5 DDD、中等量:0.5DDD<daily dose≤1DDD、高用量:daily dose>1DDD

 

☆最初にBZDが処方された日

・0-14日前:2.05(1.52-2.77)

・15-30日前:1.42(1.03-1.96)

・31-60日前:1.34(1.02-1.77)

・61-90日前:1.05(0.86-1.28)

・91-180日前:1.21(0.99-1.48)

・181-270日前:1.53(1.31-1.78)

・271-360日前:1.10(1.04-1.17)

 

サブ解析(相互作用(効果を上昇させる可能性の薬剤の併用)の有無によるリスクの違い)

アルプラゾラム

 アルプラゾラムあり、相互作用薬なし:0.90(0.77-1.07)

 アルプラゾラムなし、相互作用薬あり:1.40(1.35-1.46)

 アルプラゾラムあり、相互作用薬あり:1.51(1.34-1.69)

ロラゼパム

 ロラゼパムあり、相互作用薬なし:1.32(1.18-1.48)

 ロラゼパムなし、相互作用薬あり:1.57(1.40-1.64)

 ロラゼパムあり、相互作用薬あり:1.94(1.74-2.17)

ゾルピデム

 ゾルピデムあり、相互作用薬なし:1.26(1.04-1.53)

 ゾルピデムなし、相互作用薬あり:1.44(1.38-1.50)

 ゾルピデムあり、相互作用薬あり:1.71(1.44-2.03)

 

【感想】

ベンゾジアゼピン系薬のリスクは、かなり低めのRR 1.16となりました。

薬剤別では3つの薬剤しか解析できなかったのは残念ですが。アルプラゾラムは差がなかったようで。

用量別では用量の多い方が、また最初に処方された日については処方後間もない方がリスクの高い結果に。でも用量別に関してはそれほど差がないのが意外ですね。少ないに越したことはないのでしょうが。

相互作用については、相互作用にて作用が増強する可能性のある薬剤の併用は転倒リスクにつながる可能性が示唆されております。これは十分に気をつけたいな、と。(薬剤のリストについては本文中に記載があります。)

 

 

【全体を通して】

意外とベンゾジアゼピン系薬によるリスクの上昇はそれほど多くないな、というのが率直な感想です。でもやはりリスクの上昇はあるので、できる限り減らしたり、また使わない必要性があると感じました。転倒や骨折には他のリスクも多くあるので、それらとの兼ね合いも十分に考えないといけません。逆にベンゾジアゼピン系薬には他のリスクも色々と示唆されていますので、そちらとの兼ね合いも重要かと思います。難しいですね…

私の勤務する病院ではブロチゾラム睡眠薬としてよく処方されるのでそのリスクを知りたかったのですが、wikipediaによると海外ではあまり承認されていないようで、文献を検索してもほとんど出てきませんでした…

 

【最後に】

黄川田先生がこのテーマに関するブログを遺してくださっていますので、紹介しておきます。

screamtheyellow.hatenablog.com