文献を3つ紹介していきます。
まずは、糖尿病患者に対する抗精神病薬の高血糖リスクに関して。フリーで全文読めます。
Antipsychotic drugs and hyperglycemia in older patients with diabetes.
Arch Intern Med. 2009 Jul 27;169(14):1282-9.
PMID:19636029
P:カナダのオンタリオの健康データベース内の2002年4月1日から2006年3月31日までの間に抗精神病薬による治療を受けた66歳以上の糖尿病患者13,817人
E:現在の抗精神病薬使用
C:過去(180日以上前)の抗精神病薬使用
O:高血糖による入院
デザイン:コホート内症例対象研究(10症例とマッチング)
サブ解析:抗菌薬点眼、コルチコステロイド関連など
平均追跡期間:2年
平均年齢:78歳
傾向スコアマッチングは?:年齢(±1歳)、性別、コホート参加年数、追跡期間(±30日)
交絡因子の調整は?:年齢、性別、近隣の所得、糖尿病罹病期間、Charlson併存疾患指数、コホート参加前の薬剤使用、保健サービス使用履歴
Limitation:新規に抗精神病薬を必要とする糖尿病患者は他の高血糖のリスクを有する可能性、他の医学的疾患ではなく高血糖や糖尿病による入院にアウトカムを限定したこと、重症度の調整不足の可能性
1次アウトカム(現在の抗精神病薬使用患者vs過去の使用患者での高血糖による入院リスク)
aRR(調節レート比)(95%CI) |
C群の発症率(2年間の追跡) |
E群の発症率(2年間の追跡) |
リスク差/年 |
NNH/年 |
|
全患者 |
1.50 (1.29-1.74) |
11.1% |
16.5% |
2.7% |
37 |
インスリン治療患者 |
1.40 (1.06-1.84) |
24.1% |
33.7% |
4.8% |
21 |
経口糖尿病薬治療患者 |
1.36 (1.12-1.66) |
13.1% |
17.8% |
2.4% |
42 |
糖尿病薬非使用患者 |
2.43 (1.61-3.66) |
3.8% |
9.2% |
2.7% |
37 |
※NNH:Number Needed to Harm
サブ解析
・抗菌薬点眼と高血糖による入院との関連:aRR 0.67;95%CI:0.32-1.41
・コルチコステロイド使用と高血糖による入院との関連:aRR 2.13;95%CI:1.67-2.71
【考察】
たくさんサブ解析がありましたが、気になったものだけをピックアップしています。
現在の抗精神病薬使用患者において高血糖発症リスクが高く、特にインスリン使用患者で高いようです。NNHが20~40というのは、かなり小さい数字であり、十分に注意しないといけない印象です。
また、Table2には定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬に分けた解析も載っていますが、定型抗精神病薬使用患者が少なかったようです。直接比較はされていないが、だいたい同じような結果になっているように思います。
なぜ抗菌薬点眼が取り上げられたのか分かりませんが…
次は、非糖尿病患者の高血糖リスクを。アブストラクトのみ閲覧可能です。
Am J Geriatr Psychiatry. 2011 Dec;19(12):1026-33.
PMID:22123274
pubmedからは上手く本文にリンクしないので、本文へはこちらをどうぞ。
P:カナダのオンタリオの健康データベース内の2002年4月1日から2006年3月31日の間に抗精神病薬による治療を開始した、糖尿病のない66歳以上の高齢者
E:現在の抗精神病薬使用
C:過去(180日以上前)の抗精神病薬使用
O:高血糖による病院受診(救急受診または入院)
デザイン:コホート内症例対象研究(10症例とマッチング)
2次アウトカム:非定型抗精神用薬、定型抗精神病薬別による高血糖による受診リスク
平均追跡期間:2.2年
平均年齢:78.3歳
【結果】
1次アウトカム(現在の抗精神病薬使用患者vs過去の使用患者での高血糖による受診リスク)
E群 vs C群:調節オッズ比(aOR) 1.52; 95% CI:1.07-2.17
2次アウトカム(非定型抗精神病薬、定型抗精神病薬別による高血糖による受診リスク)
・非定型抗精神病薬
E群 vs C群:aOR 1.44;95%CI:1.01-2.07
・定型抗精神病薬
E群 vs C群:aOR 2.86;95%CI:1.46-5.59
【考察】
どうやら先ほどの文献と同じコホートのようです。
非糖尿病患者においても抗精神病薬による高血糖のリスクはありそうです。非定型・定型抗精神病薬別による解析も行われているようですが、さほど差はなく、どちらもリスクにはなるのかな、という印象です。
最後に、抗精神病薬の薬剤別の高血糖リスクが検討されている文献を。全文フリーで読めます。
Atypical antipsychotics and hyperglycemic emergencies: multicentre, retrospective cohort study of administrative data.
(非定型抗精神病薬と緊急高血糖:他施設、行政データの後ろ向きコホート研究)
Schizophr Res. 2014 Apr;154(1-3):54-60.
PMID:24581419
P: 1998年4月1日から2010年3月31日の間、7つのカナダの州の行政の健康データやイギリスのClinical Practice Research Datalink(CPRD)による新規抗精神病薬使用患者725,489人(55%が66歳以上で、若年者のうち5%、高齢者のうち19%が既存の糖尿病)
E:糖尿病患者
C:非糖尿病患者
O:緊急高血糖症(高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖状態)の発症
デザイン:他施設後ろ向きコホート研究
2次アウトカム:抗精神病薬別(Other Atypicalの99%はクエチアピンとのこと)、年齢別、糖尿病の有無によるリスクの違い
追跡期間:1年間(投与開始時に試験に組み込まれた)
傾向スコアの項目(それぞれの比較において、限界治療効果を推定する傾向スコアを用いた治療重み付けの逆確率(IPTW)が用いられている):年齢、性別、コホートへの参加日、糖尿病歴、統合失調症や認知症、近隣の収入の5分位、Romano併存疾患指数、コホート参加前年の入院数や外来での家族の医者への相談数や外来での精神医学的相談数、血糖値に影響を及ぼしたり病気のマーカーとなりうる選択された薬剤の使用。CPRDでは喫煙歴、アルコール消費量、BMIも組み込まれた。
Limitation:残存交絡因子の可能性。クエチアピンの投与群は糖尿病リスクが低い可能性。コードに基づいて病名を検索しているため、取りこぼしている可能性。単独投与の結果であること。
1次アウトカム(全抗精神病薬での糖尿病、非糖尿病における高血糖緊急症発症率)
・18-65歳
全体(n=324,512):粗発生率 0.93/1000人/年(95%CI:0.82-1.04)
糖尿病(n=16,793):粗発生率 11.49/1000人/年(95%CI:9.78-13.21)
非糖尿病(n=307,724):粗発生率 0.39/1000人/年(95%CI:0.31-0.46)
・66歳以上
全体(n=400,977):粗発生率 1.92/1000人/年(95%CI:1.77-2.08)
糖尿病(n=75,970):粗発生率 6.64/1000人/年(95%CI:5.98-7.30)
非糖尿病(n=325,007):粗発生率 0.85/1000人/年(95%CI:0.74-0.97)
サブ解析(抗精神病薬別かつ年齢別の粗発生率)
サブ解析(抗精神病薬別、年齢別かつ糖尿病の有無による粗発生率)
サブ解析(リスペリドンを基準とした他の抗精神病薬の年齢、全体・糖尿病別のハザード比)
【考察】
かなり詳しく解析されている印象です。1次アウトカムによる粗発生率では、非糖尿病患者の発症率は年間1%未満と、かなり低くなっていました。高血糖に関して、添付文書には警告欄に記載されていますが、非糖尿病患者に関しては気にしすぎなくてもいいのかなと思います。一方、糖尿病患者では十分な注意が必要だと感じました。
また薬剤別では、リスペリドンに比べてクエチアピンで有利な結果となっておりました。Limitationにあるようにクエチアピンは糖尿病に禁忌のため、リスクの低い患者になっている可能性もあるとは思います。クエチアピンのリスクが低いとは言い切れませんが、少なくとも他の抗精神病薬も同様のリスクを抱えている可能性があり、特に糖尿病患者における抗精神病薬服用時には、禁忌の薬剤ではなくとも高血糖に十分な注意が必要と言えるのではないでしょうか。
【全体を通して】
文献によって発生率にやや差はありますが、特に糖尿病患者における抗精神病薬の使用時には、高血糖リスクを十分に考慮しないといけないと感じました。その際、糖尿病に禁忌であるか、定型か非定型であるかどうかはさほど重要ではない気がします。非糖尿病患者には、多少リスクはあるかもしれませんが、それほど慎重にならなくてもいいのかな、という印象です。