文献を3つピックアップしました。
The Risk of Pneumonia in Older Adults Using Nonbenzodiazepine Hypnotics.
(非ベンゾジアゼピン(BZ)系催眠薬の使用における高齢者の肺炎リスク)
J Manag Care Spec Pharm. 2016 Aug;22(8):932-8.
PMID:27459656
P:総合保健医療システム(Kaiser Permanente Southern California(KPSC) and Northern California(KPNC)地域)に登録された65歳以上で、2011年1月から2012年12月に肺炎と診断された患者と、年齢、性別、active enrollmentに基づいて1:4でマッチされたコントロールから基準を満たした肺炎51,029症例と肺炎のない188,391例
E:非BZ系催眠薬の使用
C:非BZ系催眠薬の非使用
O:肺炎リスク
デザイン:症例対象研究
サブ解析:「BZ系薬およびその薬剤別(アルプラゾラム、クロナゼパム、ロラゼパム、タマゼパム)」、「現在(30日以内)・過去(31-90日前)・遠い昔(91日から365日前)別」、「現在の使用のうち短期間の使用(90日以内)・長期間の使用(90日以上)別」
マッチング:年齢、性別、active enrollmentにてされている。
調整された共変量:1年以内の肺炎、急性心筋梗塞、喘息、COPD、上気道感染症、抗痙攣薬、抗うつ薬、抗精神病薬、BZD、気分安定剤、オピオイド、酸分泌抑制薬の既往や使用、診断コストグループ(GxCG)スコア
Limitation:交絡因子の調整不足、処方データのため使用の実態が不明、非BZDのほとんどがゾルピデムのため非BZ系薬に一般的ではない可能性、カリフォルニア州のデータのため一般化できない可能性
※BZ系薬:アルプラゾラム、クロナゼパム、ロラゼパム、タマゼパムにて全体の89%
非BZ系薬:ゾルピデムが全体の98.5%、その他ザレプロン、エスゾピクロン
【結果】(全て対象は非使用群)
1次アウトカム(非BZ系薬の肺炎リスク)
調整オッズ比(aOR) 1.14;95%CI:1.08-1.20
2次アウトカム(BZ系薬およびその薬剤別(アルプラゾラム、クロナゼパム、ロラゼパム、テマゼパム)の肺炎リスク)
BZ系薬:aOR 1.16(1.13-1.20)
クロナゼパム:aOR 0.99 (0.91-1.08)
サブ解析(現在(30日以内)・過去(31-90日前)・遠い昔(91日から365日前)別による肺炎リスク)
現在 ;非BZ系薬:aOR 1.27 (1.18-1.36) 、BZ系薬:aOR 1.28 (1.23-1.33)
過去 ;非BZ系薬:aOR 1.13 (1.00-1.29) 、BZ系薬:aOR 1.15 (1.07-1.22)
遠い昔;非BZ系薬:aOR 0.96 (0.88-1.05) 、BZ系薬:aOR 0.99 (0.94-1.04)
サブ解析(現在の使用のうち短期間の使用(90日以内)・長期間の使用(90日以上)によるリスク)
短期間;非BZ系薬:aOR 1.57 (1.39-1.77) 、BZ系薬:aOR 1.69 (1.58-1.80)
長期間;非BZ系薬:aOR 1.16 (1.06-1.25) 、BZ系薬:aOR 1.14 (1.09-1.19)
【考察】
想像していたよりもリスクは低かったです。服用が近いほど、また服用開始からの期間が短いほどリスクが上がることが示唆されております。
ただマッチングの方法についてですが、マッチングしてから除外していますが、除外してからマッチングするのが通例ではないかと。でないと、1症例当たりのマッチング数に差ができてしまいます。あと、症例群とコントロール群でベースラインの疾患などの条件が違う過ぎる気が。なので、どこまで交絡因子が調節できているのかが疑問です。
(地域のアルツハイマー病の成人間の新規BZ系薬使用に関連する肺炎リスク)
CMAJ. 2017 Apr 10;189(14):E519-E529.
PMID:28396328
P:アルツハイマー病でかつ、BZ系薬を開始した5,232人とZドラッグを開始した3,269人とそれに1:1でマッチされたAD患者、計17,002人。
E:BZ系薬またはZドラッグ使用群
C:BZ系薬およびZドラッグ非使用群
O:肺炎の発症率
デザイン:症例対照研究
サブ解析:BZ系薬とZドラッグでの別でのリスクの差、薬剤別でのリスクの差、用量別等
傾向スコアマッチング:されている。項目はTable1、2、Appendix1に記載
【結果】
1次アウトカム(E群vsC群での肺炎発症率)
E群8.10件(8.03–8.16)/100人/年vsC群6.32件(6.28–6.35) /100人/年:aHR 1.22 (95%CI:1.05–1.42)
2次アウトカム(BZ系薬、Zドラッグ別)
BZ系薬:BZ系薬群8.51件(8.43–8.60)/100人年 vs コントロール群6.57件(6.53–6.62)/100人年:aHR 1.28(1.07–1.54)
Zドラッグ:Zドラッグ群7.28件(7.17–7.39)/100人/年 vs コントロール群5.92件(5.87–5.98) /100人/年:aHR 1.10(0.84–1.44)
サブ解析(用量別)
低用量 (<1.1 DDDs):HR 1.18 (1.01-1.39)
高用量(≥1.1 DDDs):HR 2.00 (1.05-3.80)
【考察】
肺炎の症例数がやや少ない印象です。なので、95%CIの幅が広いものが多くなっている気がします。それゆえにβエラーになっているものもありそうです。
肺炎リスクは、Zドラッグ群に関しては有意差がつきませんでしたがβエラーの可能性があると思います。なので、Zドラッグの方のリスクが少ないとは言い切れないと思います。絶対リスク差は1~2%/年という結果です。さほど大きなリスクではないような気もしますが…
The Use of Benzodiazepine Receptor Agonists and the Risk of Hospitalization for Pneumonia: A Nationwide Population-Based Nested Case-Control Study.
(ベンゾジアゼピン受容体アゴニストの使用と肺炎による入院リスク:国の集団ベースのコホート内症例対象研究)
Chest. 2017 Aug 4. pii: S0012-3692(17)31326-0.
PMID: 28782528
P: 2002年から2012年の台湾の国民健康保険研究データベースにおける肺炎罹患患者12,002人とマッチされたコントロール群12,002人
E:BZ系薬の新規使用
C:BZ系薬の非使用
O:肺炎リスク(非使用vs90日以内の使用vs91-365日前の使用)
デザイン:コホート内症例対象研究
サブ解析:「BZ系抗不安薬(日中のみ、夜間のみ、日中及び夜間)、BZ系催眠薬、非BZ系催眠薬の使用」、「超短時間型(半減期5時間未満)、短時間-中間型(半減期5時間から24時間)、長時間型(半減期24時間以上)(加えてDDD別も)」、「BZ系の薬剤別リスク」、「年齢別、性別、Charlson併存疾患スコア別、呼吸器疾患の有無別」など
マッチングされているか?:疾患リスクスコアマッチングが行われた。
調節された交絡因子は?:高脂血症、慢性腎不全、悪性腫瘍、COPD、喘息、他の呼吸器疾患、痴呆、コルチコステロイド使用、利尿剤使用、脂質低下剤の使用、年間外来受診数、入院、およびCharlson併存疾患指数(条件付きロジスティック回帰モデル)
Limitation:リフィルの使用率と内服コンプライアンス率が不明。他の交絡因子の可能性。台湾ではBZ系の使用率が高く、一般化できない可能性。
【結果】(全て比較対象は非使用群)
1次アウトカム(肺炎リスク(現在(90日以内)の使用、過去(91-365日前)の使用))
現在の使用:調節オッズ比(aOR) 1.86;95%CI:1.75-1.97
過去の使用:aOR 1.04;95%CI:0.97-1.11
サブ解析(BZ系抗不安薬(日中のみの使用、夜間のみの使用、日中及び夜間の使用)、BZ系催眠薬、非BZ系催眠薬の使用)
BZ系抗不安薬:aOR 1.53(1.44-1.63)(日中:aOR 1.30(1.19-1.43)、夜間:aOR 1.53(1.40-1.67)、日中及び夜間:aOR 1.70(1.52-1.90))
BZ系催眠薬:aOR 2.42(2.16-2.71)
非BZ系催眠薬:aOR 1.60(1.46-1.76)
サブ解析(超短時間型(半減期5時間未満)、短時間-中間型(半減期5時間から24時間)、長時間型(半減期24時間以上))
超短時間型:aOR 1.93(1.76-2.10)
短時間-中間型:aOR 1.73 1.62-1.85
長時間型:aOR 1.34 1.23-1.45
(※DDD別の解析では、高い方のリスクが大きい傾向。項目が多すぎたのでこちらでは取り扱いません)
サブ解析(薬剤別)
・BZ系抗不安薬
アルプラゾラム(短時間-中間型):aOR 1.38(1.23-1.55)
ロラゼパム(短時間-中間型):aOR 2.15(1.95-2.38)
クロナゼパム(長時間型):aOR 1.54(1.34-1.77)
ジアゼパム(長時間型):aOR 1.32(1.17-1.48)
・BZ系催眠薬
ミダゾラム(超短時間型):aOR 5.77(4.31-7.73)
ブロチゾラム(超短時間型):aOR 1.75(1.05-2.90)
トリアゾラム(超短時間型):aOR 1.69(1.07-2.69)
エスタゾラム(短時間-中間型):aOR 1.67(1.43-1.94)
・非BZ系催眠薬
ゾルピデム(超短時間型):aOR 1.51 (1.36-1.67)
ゾピクロン(超短時間型):aOR 1.79 (1.41-2.29)
サブ解析(現在の使用群の年齢別リスク)
20-44歳:aOR 2.22(1.92-2.56)
45-64歳:aOR 2.15(1.93-2.40)
65-74歳:aOR 1.73(1.53-1.96)
≧75歳 :aOR1.60(1.42-1.79)
【考察】
これでもかなり端折ったのですが、解析が多すぎて、、、
「疾患リスクスコアマッチング」については調べてみましたがよく分かりませんでした。
これまでの2文献よりは全体的にややリスクが高くなっている印象です。高齢者群のみをピックアップしても高めですね。抗不安薬であろうと催眠薬であろうとリスクは高まりそうです。薬剤ではミダゾラムが突出していますが、それ以外は横並びといった印象です。このミダゾラムの内服があるのでしょうか??BZ系催眠薬のリスクが高いのは、このミダゾラムに引っ張られているような気がします。なのでミダゾラムを除くBZ系催眠薬と非BZ系催眠薬のリスクの差はあまりないかもしれません。
あと、高齢者よりも若年者のリスクのほうが高かったのが意外でした。これは、若年でBZ系薬を服用しているいうことは何かしらのリスクを抱えている可能性があること、若年者は肺炎にかかる可能性が低いのでその分リスクの上昇が大きくなるのではないかと考えます。
それにしても症例群での非使用が40%、コントロール群では50%と台湾ではかなり多くの方にBZ系薬が使用されている印象です。
【全体を通して】
BZ系薬にて肺炎リスクが上昇することが示唆されましたが、さほどリスクは高まらないように感じました。ただ、BZ薬は肺炎以外にも転倒・骨折等のリスクにもなりますので、それらを含めるとやはりリスクは大きいものになるのかなと感じました。