リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

費用効果分析もろもろ-1(ワルファリン、ダビガトランの併用によるAFのカテーテルアブレーション)

先日、費用対効果の論文の読み方に関するワークショップに参加しまして。その時のお題論文についてまとめてみました。

初めてなのであまりきれいにまとめられていませんが、これから慣れていければと。

批判的吟味の方法は、ワークショップで用いたものを参考にしています。

 

A cost-utility analysis for catheter ablation of atrial fibrillation in combination with warfarin and dabigatran based on the CHADS2 score in Japan.

(日本におけるCHADS2スコアに基づくワルファリンやダビガトランの併用によるAFのカテーテルアブレーションの費用効果分析)

J Cardiol. 2017 Jan;69(1):89-97.

PMID: 26947099

 

P:発作性心房細動の60歳の患者(対象期間:10年)

I/C:ワルファリン単独、ダビガトラン単独、ワルファリン+アブレーション、ダビガトラン+アブレーション

O:支払者(保険者)側から見てのCHADSごとの費用対効果は?

 

【批判的吟味】

・決定木は明確にされているか?:マルコフモデルを使用して示されている。(2回目のアブレーション、アブレーションの失敗による死亡、ワーファリンおよびダビガトランによる副作用等のモデルの欠如あり?→結果にそれほど影響を及ぼさない程度なのかもしれない。)

・論文では、そのサービス(医療施策・治療法)の有効性の確実な根拠が示されているか?:RE-LY試験(AF患者におけるワルファリンvsダビガトランのRCT)が使われている。

・介入の効果の特定・測定・評価は適切か?:QALYおよび円にて評価されている。

・必要な重要かつ適切な資源と、それぞれ定義された健康面での転機に伴う費用は、全て定義されているか?:概ね必要な検査料や薬剤量は含まれている。介護費用も含まれている(Stroke Care)。診察料、調剤料、機会費用などが含まれていないが、→いずれも結果に影響を与えないレベルと考えられる。(個人的にはPPIが高すぎると…) 。

・割引率が用いられているか?:用いられている。3%。

・増分分析を行っているか?:ICERが用いられている。

・感度分析は行われているか?:決定論的感度分析、確率論的感度分析のどちらも行われている。

 

【結果】

f:id:gacharinco:20180303191717p:plain

CHADSスコア0はワルファリン単独、CHADSスコア1~3はワルファリン+アブレーション、4以上はダビガトラン+アブレーションの費用対効果が良さそう。

ただし、CHADS2スコア4以上は、Table1のBase Caseを見るかぎり、やや症例数が少ないように思える。そのため、どこまで数字が信頼できるか分からない。

また、参考にしたRE-LY試験がPROBE法の試験のため、ややダビガトラン有利な試験になっている可能性がある。

 

【考察】

解釈がすごく難しいです。

一応CHADSスコア3と4で分かれましたが、それほど明確なものではないような気がします。許容できる金額は人によって違いますし、副作用のリスクも違いますし、あくまで支払い側から見た数字なのかなという印象です。また、60歳の患者で解析を行っていますので、年齢によっても考え方は変わるのではないかと思います。

感度分析の結果の使い方がよく分からなかったので触れておりません。

CHADS2スコア2以上は、半永久に抗凝固療法が必要なのかというのも気になるところです。一般的にはそういった考え方なのですかね?

 

【感想】

初めてこの手の論文を読んだのですごく難しかったです。効果・副作用だけを見るのではなく、実際にこうやって金額が入ってくると現実的になりますね。何度も読みましたが、読むたびに新しい発見があります。

また他の論文も読んでみたいです。

 

ワークショップから帰ってきて一人で読んでみると疑問点が沢山出てきたので、早々の再度の開催をお願いしますm(__)m

解釈でおかしな点があれば教えてください。

 

【参考】

せっかくなので、参考となる書籍と資料の紹介を

〈書籍〉

 『「薬剤経済」わかりません! !』 五十嵐中(著),佐條麻里(著)

すごく分かりやすく書かれていますし、初めての方にオススメです。ただ、1人で読んでも理解できない部分は多かったので、私のようにワークショップなどに参加するといいかと思います。

〈資料〉

中央社会保険医療協議会における費用対効果評価の分析ガイドライン

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000104722.pdf

こちらは実際に中医協で使用されている資料のようです。分かりやすいわけではないので、参考程度ですかね。やはり初心者には上記書籍がオススメです。