最近話題のピオグリタゾンの心血管イベントや死亡への影響に関する文献を。
まずはRCTのメタ解析から。
Pioglitazone and cardiovascular outcomes in patients with insulin resistance, pre-diabetes and type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis.
BMJ Open. 2017 Jan 5;7(1):e013927.
PMID: 28057658
【PECO】
P:インスリン抵抗性、前糖尿病、2型糖尿病患者(9試験12,206人、平均年齢61.8歳、平均追跡期間2.7年)
E:ピオグリタゾン群
C:プラセボ、グリメピリド、非ピオグリタゾン群
O:主要有害心血管イベント(MACE:非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心血管死の複合)の発生率
【批判的吟味】
デザイン:RCTのメタ解析
2次アウトカム:安全性アウトカム(心不全、骨折、総死亡、全癌、膀胱癌、浮腫、体重増加、低血糖)
評価者バイアス:2人の評価者が独立して行っている。
出版バイアス:言語の制限なし。Funnel Plotあり(本文中に記載はあるが、実物が見当たらず…)。PubMed, EMBASE, MEDLINE and Cochrane Central Register of Controlled Trialsにて検索されている。
元論文バイアス: RCTのメタ解析であるが、ITT解析されているかどうかは不明。
異質性バイアス:有効性のアウトカムはインスリン抵抗性、前糖尿病と2型糖尿病患者とを分けて解析されている。I²は比較的低いものが多い。
Limitation:IRIS試験とPROactive試験が大部分を占めていること(2つで全体の75%)。セカンダリアウトカムの文献が含まれている。MACEの定義が試験間で異なる。特にスタチンの使用頻度が異なる。ほとんどの評価項目でサンプルサイズが達成されていない。
【結果】
・インスリン抵抗性、前糖尿病患者
|
相対リスク(RR) |
95%CI |
I² |
試験数 |
参加者数 |
NNT |
MACE |
0.77 |
0.64-0.93 |
0% |
2 |
4,478 |
44 |
0.68 |
0.49-0.96 |
0% |
2 |
4,478 |
90 |
|
0.81 |
0.65-1.01 |
0% |
3 |
4,598 |
75 |
・2型糖尿病患者
相対リスク(RR) |
95%CI |
I² |
試験数 |
参加者 |
NNT |
|
MACE |
0.83 |
0.72-0.97 |
0% |
5 |
7,307 |
66 |
0.80 |
0.62-1.03 |
0% |
5 |
6,841 |
134 |
|
0.78 |
0.60-1.02 |
0% |
5 |
6,840 |
107 |
2次アウトカム(安全性アウトカム)(対象患者は全て)
有意差があったもの
・心不全:RR 1.32;95%CI:1.14-1.54;I²=0%;5試験;10,717人;NNH=61
・骨折:RR 1.52;95%CI:1.17-1.99;I²=39%;4試験;5,608人;NNH=60
・浮腫:RR 1.63;95%CI:1.52-1.75;I²=0%;7試験;11,785人;NNH=9
・体重増加:RR 1.60;95%CI:1.50-1.72;I²=64%;4試験;10,174人;NNH=10
・低血糖:RR 1.24;95%CI:1.13-1.35; I²=93%;5試験;10,702人;NNH=33
有意差がなかったもの
・総死亡:RR 0.93;95%CI:0.80-1.09;I²=0%;7試験;11,319人
・全癌:RR 0.91;95%CI:0.77-1.08;I²=0%;4試験;10,197人
・膀胱癌:RR 1.87;95%CI:0.98-3.57;I²=0%;2試験;9,114人
【考察】
1次アウトカムの有効性は示されているように思いますが、有害事象の発生率がそれを打ち消すくらいの大きさになっている気がします。
デザインは割としっかりしている印象ですが、Limitationにあるように、IRIS試験とPROactive試験が大部分を占めているのは割り引かないといけないと思います。有害事象は試験間での発生率の差が大きいですね。
同時期に同じような研究が報告されています。こちらは2次予防を対象としているようです。結果も似たようなものになっています。
Pioglitazone and the secondary prevention of cardiovascular disease. A meta-analysis of randomized-controlled trials.Cardiovasc Diabetol. 2017 Oct 16;16(1):134.PMID: 29037211
次は、死亡をアウトカムとしたコホート研究です。
Pioglitazone and cause-specific risk of mortality in patients with type 2 diabetes: extended analysis from a European multidatabase cohort study.
(ピオグリタゾンと2型糖尿病患者の死亡の原因特異的なリスク:ヨーロッパのマルチデータベースのコホート研究からの分析の延長)
BMJ Open Diabetes Res Care. 2018 Jan 20;6(1):e000481.
PMID: 29379607
【PECO】
P: フィンランド、スウェーデン、イギリスの2000年から2011年までの最初にピオグリタゾンを処方された糖尿病患者31,133人とマッチングされたピオグリタゾンを処方されたことのない31,133人の糖尿病患者
E:ピオグリタゾン群
C:ピオグリタゾン未使用群
O:死亡リスク(心血管死、非心血管死、総死亡)
【批判的吟味】
デザイン:コホート研究
2次アウトカム:累積投与量、投与期間と死亡の関連など
傾向スコアマッチング:治療ステージ、糖尿病歴、糖尿病の合併症や心血管病、コホートへの参加年
調整された交絡因子:国、年齢、性別、傾向スコアの5分位、各抗糖尿病薬の使用
平均追跡期間: E群2.60年(SD2.00)、C群2.69年(SD2.31)
Limitation:残存交絡因子の可能性(BMI、喫煙歴、HbA1c、経済状況など)
【結果】
1次アウトカム(死亡リスク)
E群 vs C群:心血管死(調節ハザード比(aHR) 0.58;95%CI:0.52-0.63)、非心血管死(aHR 0.63;95%CI:0.58-0.68)、総死亡(aHR 0.60;95%CI:0.57-0.64))
2次アウトカム(暴露期間別、累積投与量別)
|
心血管死 |
非心血管死 |
総死亡 |
|
aHR(95%CI) |
||
暴露期間別 |
|||
<12か月 |
0.56(0.50-0.63) |
0.65(0.58-0.71) |
0.61(0.56-0.66) |
12-24か月 |
0.64(0.54-0.7) |
0.61(0.53-0.71) |
0.62(0.56-0.70) |
24-48か月 |
0.59(0.49-0.71) |
0.66(0.57-0.78) |
0.63(0.56-0.71) |
48か月< |
0.44(0.32-0.61) |
0.45(0.34-0.60) |
0.44(0.36-0.55) |
累積投与量別 |
|||
1–10,500mg |
0.57(0.51-0.64) |
0.64(0.58-0.71) |
0.61(0.57-0.66) |
10,501–28,000mg |
0.63(0.54-0.73) |
0.66(0.58-0.76) |
0.64(0.58-0.71) |
28,001–40,000mg |
0.54(0.40-0.72) |
0.62(0.48-0.79) |
0.58(0.48-0.70) |
>40,000mg < |
0.48(0.36-0.66) |
0.43(0.32-0.57) |
0.45(0.37-0.55) |
【考察】
正直びっくりしました。こんなに差がつくとは。これが本当ならすごいなぁと。
調節されているようですが、明らかにピオグリタゾン群の方が不利なベースラインに見えます。非ピオグリタゾン群の方が心不全死が多いことも気になります。
観察研究であり、本文に書いてあるように探索的研究ということですので、続報を待ちたいところです。