膀胱癌のリスクについてはあまり調べたことがなくて。ある程度結果が出ていると思っていたら、最近もちょくちょく報告があるようで。
どれを読めばいいのか分からなかったので、まずは2016年末に出たFDAのレビューで取り上げられている文献を。
「NIHS 医薬品安全性情報(海外規制機関)」の「医薬品安全性情報 Vol.15 No.01(2017/01/12)」に詳しいことは書いてありますが。
Pioglitazone Use and Risk of Bladder Cancer and Other Common Cancers in Persons With Diabetes.
JAMA. 2015 Jul 21;314(3):265-77.
PMID:26197187
【PECO】
P:40歳以上の糖尿病患者193,099人(34,181人(18%)がピオグリタゾンを使用(中央値2.8年))(1,261人が膀胱癌を発症)
E:ピオグリタゾンの使用歴
C:ピオグリタゾンの非使用
O:膀胱癌および他の10種の癌のリスク
【批判的吟味】
平均追跡期間:7.2年
調節した交絡因子:コホート研究-年齢、性別、コホート参加年度、他のDM薬、喫煙、人種/民族、他の糖尿病薬、他の膀胱疾患、家計収入の中央値、うっ血性心不全、膀胱癌以外の癌、腎不全、蛋白尿検査変数(検査なし、陰性、陽性の3段階)
マッチング内容:コホート内症例対象研究-年齢、性別、コホート登録からの期間
【結果】
1次アウトカム
・膀胱癌のリスク(コホート研究)
E群 vs C群:89.8人 vs 75.9人/100,000人/年(調節ハザード比[aHR] 1.06; 95%CI:0.89-1.26)
※2次アウトカムの使用期間、使用開始からの時間、累積投与量のいずれも有意差無し
膀胱がんのリスク(コホート内症例対象研究)
E群 vs C群:調節オッズ比[aOR] 1.18; 95%CI:0.78-1.80
※2次アウトカムの使用期間、使用開始からの時間、累積投与量のいずれも有意差無し
膀胱がん以外の癌のリスク
前立腺癌:453.3人 vs 449.3人/100,000人/年;aHR 1.13;95%CI:1.02-1.26
すい臓癌:81.1人 vs 48.4人/100,000人/年;aHR 1.41;95%CI:1.16-1.71
※この2つ以外の癌は有意差なし
【考察】
こちらは有意差がなかったという結果。
症例数はこれで十分なのかな?とも思いますが、よく分かりません。
ピオグリタゾンの服用期間の中央値が2.8年というのは短いのでは?とも思います。
あと、10種類の癌について調べたようですが、一つくらいは事故で有意差がつくかなと。こちらは追われてるんですかね?
取り上げられていた文献をもう一つ。
Pioglitazone use and risk of bladder cancer: population based cohort study.
(ピオグリタゾンの使用と膀胱がんリスク:人口ベースのコホート研究)
BMJ. 2016 Mar 30;352:i1541.
PMID:27029385
【PECO】
P:イギリスの診療所のコホートに含まれた新規DM治療開始患者(689,616人/年の追跡が生まれ、622人が新たに膀胱癌と診断)
E:ピオグリタゾン服用群
C:他のDM薬群
O:膀胱がんのリスク
【批判的吟味】
デザイン:コホート研究
2次アウトカム:ロシグリタゾンvs他のDM治療薬、総服用期間・服用量との関連
調節された交絡因子:年齢、性別、コホート登録年、BMI、喫煙歴、アルコール関連障害、HbA1c、DM治療期間、以前の膀胱の状態、癌既往歴、コホート登録前1年以内の尿蛋白検査歴、チャールソン併存疾患指数。
平均追跡期間:4.7年 (SD 3.4年)
膀胱癌発生までの中央値:4.4年(4分位範囲 2.5-6.5)
【結果】
1次アウトカム(ピオグリタゾンvs他のDM薬の膀胱癌リスク)
E群 vs C群:121.0人 vs 88.9人/100,000人/年;HR 1.63,95%CI:1.22-2.19
2次アウトカム(ロシグリタゾンvs他のDM薬の膀胱癌リスク)
E群 vs C群:86.2人 vs 88.9人/100,000人/年;HR 1.10,95%CI:0.83-1.47
【考察】
こちらは有意差があるという結果です。
交絡因子として調節されているようですが、ピオグリタゾンで登録の早い人が多いのが気になりますね。あと、ピオグリタゾンの膀胱癌発生が54人というのは症例数が少ないような…
ロシグリタゾンは有意差がついていないだけに、ピオグリタゾン特有のリスクはあるのかもしれません。こちらには転記しておりませんが、総投与量や投与期間との関連も認められています。ただ、いずれも症例数が少ないので参考程度かなという印象です。
てことで、2つ文献を紹介しましたがよく分からず。このあとにも報告が相次ぎまして、いくつか読んでみましたが有意差があったりなかったりと。
そんな中、最近大規模で内容的にも良さげな報告がありましたので、それを紹介します。
Pioglitazone and bladder cancer risk: a systematic review and meta-analysis.
(ピオグリタゾンと膀胱癌リスク:システマテックレビュー&メタ解析)
Cancer Med. 2018 Feb 24.
PMID:29476615
【PECO】
P:2つのRCT(n=9,114)と20の観察研究(n=4,846,088)
E:ピオグリタゾン使用
C:ピオグリタゾン非使用
O:膀胱癌リスク
【批判的吟味】
デザイン:メタ解析(RCT、観察研究)
2次アウトカム:用量・時間依存反応、地域による違い、資金提供の有無、男女差、喫煙によるリスク差
評価者バイアス:2人の評価者が独立して行っている。
出版バイアス:言語は不明。Funnel Plotあり。問題なさそう。 PubMed, Embase, and Cochrane Central Register of Controlled Trialsにて検索されている。
元論文バイアス:RCTのメタ解析と観察研究のメタ解析
異質性バイアス:1次アウトカムについてのRCTのメタ解析のI²=0%、観察研究のメタ解析のI²=31.3%。ブロボグラムはまずまず一致している。
Limitation:異質性に注意。それぞれの研究間での条件のばらつきがある(累積投与期間・量、罹病期間、観察期間)。それぞれの研究での調節された交絡因子が異なる。
【結果】
1次アウトカム(膀胱癌リスク(RCT))
E群 vs C群:OR 1.84; 95%CI:0.99-3.42;2試験;I²=0%
1次アウトカム(膀胱癌リスク(観察研究))
E群 vs C群:OR 1.13;95%CI:1.03-1.25;20試験;I²=31.3%
2次アウトカム
・地域
ヨーロッパ:1.17 ;95%CI:1.00-1.36;8試験;I²=67.6%
アメリカ:1.03 ;95%CI:0.78-1.36;9試験;I²=0%
アジア:1.11 ;95%CI:0.92-1.34;2試験;I²=0%
・資金源
武田薬品:1.00 ;95%CI:0.85-1.19;5試験;I²=43.8%
その他:1.20 ;95%CI:1.05-1.36;14試験;I²=0%
・喫煙
喫煙(歴有?):1.28 ;95%CI:1.02, 1.61);6試験;I²=43.1%
禁煙:1.03 ;95%CI:0.98, 1.08);13試験;I²=0%
・累積投与量
10.5g以下:1.17 ;95%CI:0.99, 1.39;6試験;I²=0.2%
10.5-28g:1.27 ;95%CI:1.05, 1.54;4試験;I²=0.2%
28g以上:1.66 ;95%CI:1.32, 2.07;4試験;I²=0.2%
※「14g以下、14-40g、40g以上」の解析では有意差なし(2試験のみ)
・累積投与期間
1年以下:1.07 ;95%CI:0.92-1.23;9試験;I²=33.9%
1-2年:1.25;95%CI:1.11-1.40;7試験;I²=0.2%
2年以上:1.49;95%CI:1.21-1.84;7試験;I²=57.5%
※「1.5年以下、1.5-4年、4年以上」の解析では有意差なし(2試験のみ)
※累積期間(A)と累積投与量(B)との間の膀胱癌の用量応答関係
実線および破線は、推定オッズ比および非線形モデルの対応する95%信頼区間をそれぞれ表している。短い破線は線形モデルの推定オッズ比を表す。
【考察】
こちらはかなり大規模な解析で。RCTは少ないので信頼できないですが、、、
色んなサブ解析が出ていてすごく興味深いです。
資金源による違いはあるのかもしれませんね。
投与量と投与期間に関しては、グラフにピークがあって右肩下がりのようにも見えますので、結論付けるのは難しいようにも思います。
【全体を通しての感想】
色々読んだ結果としては、リスクはわずかに上昇する可能性があるのかなと思います。1.1倍くらいですかね。今回読んだ文献での年間発生率は約10人/10,000人/年なので、それが11人/10,000人/年に増えるくらいのわずかなリスクだとも言えると思います。
そのリスクをカバーするだけの効果が期待できれば使ってもいいのかなと思います。