リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ソーシャルキャピタルと健康もろもろ-2【社会参加によって要介護状態への移行を予防できますか?the AGES Cohort Studyより】

前回に引き続き、AGESプロジェクトに関しての論文を。(タイトルは何故かJAGESになっていますが、内容はAGESプロジェクトのものです。)

 

Social participation and the prevention of functional disability in older Japanese: the JAGES cohort study.

(高齢日本人における社会参加と要介護状態の予防:the JAGES cohort study)

PLoS One. 2014 Jun 12;9(6):e99638.

PMID: 24923270

 

【PECO】

P:AGESコホート参加の65歳以上の13,310人のうち年齢、性別の情報が欠けている359人を除いた12,951人

E:社会参加あり(参加組織1つ、2つ、3つ以上)

C:社会参加なし

O:要介護状態への移行リスク

 

【批判的吟味】

デザイン:前向きコホート研究

2次アウトカム:参加組織の種類による要介護状態移行リスクの差

追跡期間:4年

マッチング:なし

調整された因子:結果に記載

Limitation:残存交絡因子の可能性。個人の能力の差異(肺容量、心血管の健康状態など)は、より多くの組織に選択的に参加することができ、より活発な活動(スポーツなど)を選択する可能性がある。「 local community organization 」が、近所の集まり、老人クラブ消防団の3つを含むこと。各組織への参加の頻度が不明。組織への各個人の関与の強度が不明。ベースラインの招待に対して参加が46%しかなかった。

 

【結果】

1次アウトカム(社会参加あり(参加組織1つ、2つ、3つ以上)となしによる要介護移行リスク)

2次アウトカム(参加した組織の種類による要介護状態移行リスク)

 

調節ハザード比(aHR)(95%CI)

 

Model 1

Model 5

参加した組織の種類数

0

1.00

1.00

1

0.83(0.73-0.95)

0.93(0.81-1.07)

2

0.72(0.61-0.85)

0.91(0.76-1.09)

≧3

0.57(0.46-0.70)

0.78(0.63-0.96)

参加した組織の種類(reference:参加組織なし)

町内会

0.85(0.76-0.96)

0.94(0.83-1.06)

趣味

0.75(0.64-0.87)

0.85(0.73-1.00)

スポーツ

0.66(0.54-0.81)

0.73(0.59-0.90)

宗教

1.07(0.90-1.27)

1.09(0.92-1.30)

業界

1.07(0.84-1.35)

1.13(0.88-1.44)

ボランティア

0.92(0.70-1.20)

0.99(0.76-1.30)

政治

1.18(0.93-1.50)

1.21(0.97-1.58)

市民運動

1.33(0.96-1.84)

1.36(0.98-1.90)

※調節因子

Model 1:年齢、性別、年収、教育、婚姻、職業的地位、自己報告の疾患、参加した組織の種類

Model 5:Model 1 + 喫煙、アルコール消費、歩行時間、屋外に行く頻度、うつ病、情緒的サポート、手段的サポート、友人と会う頻度、IADL

 

2次アウトカム(参加組織の数別、参加組織の種類別での年間の要介護状態移行率)

「Table 2. Incident rate of functional disability for 4 years.」

f:id:gacharinco:20180313000351p:plain

 

【考察】

参加組織が多いほど要介護状態には移行しにくく、また参加組織の種類によって要介護状態への移行率が異なるという結果です。参加する組織として「スポーツ」や「趣味」はいい傾向が見られていますが、逆に「政治」や「市民活動」はよくない傾向がみられているようです。なかなかおもしろい結果です。

全体的には、交絡因子をどこまで調節すればいいのかが難しい気がします。Model5になれば有意差つかないものが多いですし、まだ残存交絡因子が隠れていそうな気がしますし。本文中の結果はModel1の結果が書かれていますが、それでいいのかな?と。

Limitationにあるように、参加だけではその頻度や強度は分かりませんし、その中での役割にもよるかもしれませんし。気にしないといけないことは多いように思います。ある程度の傾向というのを掴むのには十分なのかもしれません。

あと、気になったのが、Table2の「missing」です。「参加」、「非参加」群よりも要介護状態の年間移行率が高い傾向が見られます。全体的に5%くらいですかね。質問に答えられないということが、何かしらのサインなのかもしれません。介護認定を受けていないというのは、本当に適応がない場合と、適応があっても申請をしてないために認定を受けていないというケースがありますからね。そう考えると、組織の参加有無ではなく「missing」が一番注意すべきかもしれません。