リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ワルファリン・DOACもろもろ-1【PT-INRの検査間隔の延ばしても良いですか?】

医師から、「施設や往診の患者さんって頻回に採血ができないからWFをDOACに変えようと思うんですけどどう思いますか?」と聞かれまして。いやいやそれは短絡的過ぎるでしょ…と思いながら、文献を探してみようと。とはいうものの、上手く探せなかったので、こちらの本を参考にして探しました。

ちょっと古いのですが、ワーファリンの基本的なことが分かりやすく書いてあるのでオススメです。ワーファリンって頻出で注意事項も多いけど、意外と勉強する機会は少なかった気がしています。 

 

てことで、関連文献を3つ。

まずは一つ目。

Warfarin dose assessment every 4 weeks versus every 12 weeks in patients with stable international normalized ratios: a randomized trial.

(INRの安定した患者における4週ごとvs12週ごとのWFの用量調節:RCT)

Ann Intern Med. 2011 Nov 15;155(10):653-9, W201-3.

PMID: 22084331

 

P:最低6か月用量を調整されなかった長期間ワルファリン治療を受けている250人

E:12週ごとのWF用量調節124人

C:4週ごとのWF用量調節126人

O:TTR

 

【批判的吟味】

デザイン:RCT

副次的アウトカム:極端なINRの数、維持用量の変更、主要出血イベント、客観的に観察された血栓塞栓症、死亡

追跡期間:1年

ITT解析されているか?:されている

脱落率:9.6%(E群10人、C群14人)

※12週群も4週に1回INRの検査を行っている

 

【結果】

1次アウトカム(TTR)

E群 vs C群: 71.6%(SD;20.0%) vs 74.1%(SD;18.8%) (絶対差;2.5%,片側97.5%の信頼区間の上限;7.3%、非劣性のP値0.02(7.5%のマージン))←この意味があまり分からないのですが…

 

2次アウトカム(以下全てE群 vs C群)

・INR ≧4.5 になった人:8(6.5%) vs 15(11.9%)

・INR ≧1.5 になった人:11(8.9%) vs 12(9.5%)

・上記2つの合計 :17(13.7%) vs 27(21.4%)(絶対差7.7%(95%CI:(-1.8)-17.1))

・維持用量の変更:37.1%vs55.6%(絶対差18.5%(95%CI:6.1-30.0))

・主要出血イベント:2(1.6%) vs 1(0.8%)

・客観的に観察された血栓塞栓症:0 vs 1(0.8%)

・死亡:2(1.6%) vs 5(4%)

 

【考察】

INR安定している患者では投与調節間隔を延ばしても問題なさそうな印象です。採血間隔も広げて良さそうですが…

むしろ4週ごとに調節する方が異常値が出やすいのかなという印象で、アバウトでもいいのかなと。

INR4.5以上になった割合が多すぎる気はしますが…

 

 2つ目の文献を。

Outcomes and predictors of very stable INR control during chronic anticoagulation therapy.

(慢性的に抗凝固療法中の非常に安定したINRコントロールのアウトカムと予期因子)

Blood. 2009 Jul 30;114(5):952-6.

PMID: 19439733

 

P:WF治療の期間が90日を超える18歳以上の患者で、最低6か月間は8週間に1回INRの測定があった人6,073人

E: INRが安定していない患者(連続6ヶ月間、規定された治療基準間隔内の全てのINR値を有しない)3,569人

C:INRが安定している患者(連続6ヶ月間、規定された治療基準間隔内の全てのINR値を有する)2,504人

O:イベント発症率およびINR安定の予測因子

 

【批判的吟味】

デザイン:後ろ向き、横断的コホート研究

追跡期間:5年間

交絡因子:調整されていない

マッチング:されていない

多変量回帰分析:年齢(70歳より上or以下)、性別、INR目標(2.0,2.5,3.0又はそれ以上)、抗凝固治療の理由(AF,VT,心臓弁障害、その他)、血栓塞栓症のリスク因子(DM、高血圧、心不全、VT既往歴、出血既往歴、エストロゲン療法)

 

【結果】

主要アウトカム(イベント発症)(安定群vs対象群)

・抗凝固療法関連死:1(0.04%)vs5(0.1%)(P=0.411)

・抗凝固療法関連血栓塞栓症:10(0.4%)vs26(0.7%)(P=0.100)

・抗凝固療法関連出血:19(0.8%)vs101(2.8%)(P<0.001)

 

主要アウトカム(INR安定の予測因子)

・年齢(70歳より上vs70歳以下):オッズ比(OR) 1.54(95%CI:1.38-1.72)

・性別(女性vs男性):OR 0.98(0.88-1.10)

・INR目標(2.0vs2.5):OR 1.12(0.85-1.48)

・INR目標(3.0またはそれ以上vs2.5):OR 0.48(0.38-0.61)

・血栓塞栓症のリスク因子(DMなしvsあり):OR 1.87(1.30-2.67)

・同(高血圧):OR 1.09(0.95-1.25)

・同(心不全):OR 1.43(1.16-1.76)

・同(VT既往歴):OR 1.33(0.97-1.81)

・同(出血既往歴):OR 1.53(0.99-2.38)

・同(エストロゲン療法):OR 1.32(1.09-1.60)

・慢性疾患スコア:OR 0.96(0.94-0.98)(スコアが1Pt増加すると4%低下するという意味)

 

【考察】

マッチングがなされてないので、割り引いて解釈しないといけないデザインだとは思いますが。

出血イベントについては、INRが不安定な方で比較的大きな差となっています。5年間で絶対差2%なので、それほど大きな差ではないのかもしれません(数字としては小さすぎる気もしますが…)。

予測因子では、高齢者の方が安定しているというのが意外でした。内服アドヒアランスの影響もあるのかもしれないとは思いましたが、理由としてははっきりしないようです。

INRへの疾患の影響については色々とありそうですね。これだけで判断するのは難しい気がしますが、併存疾患は少ない方がいいようです。

E群約3,500人、C群約2,500人ということで、全体の4割くらいは半年間安定することがあるということなのかなと思います。

この文献の結論としては、「INRが安定する患者は予測可能で、そういった患者は8週間おきの検査でもいいのではないか?」ということが書かれていますが、やや乱暴な印象を受けます。一つの参考にはなるとは思いますが。

 

3つ目の文献は、先ほどの論文と同じコホートを使用した12か月INRが安定した患者を対象とした試験。

Twelve-month outcomes and predictors of very stable INR control in prevalent warfarin users.

(一般的なWF使用者におけるとても安定しているINRの12か月のアウトカムと予測因子)

J Thromb Haemost. 2010 Apr;8(4):744-9.

PMID: 20398186

 

P:WF治療の期間が90日を超える18歳以上の患者で、最低12か月間は8週間に1回INRの測定があった人3,088人

E: INRが安定していない患者(連続12ヶ月間、規定された治療基準間隔内の全てのINR値を有しない)2,555人

C:INRが安定している患者(連続12ヶ月間、規定された治療基準間隔内の全てのINR値を有する)533人

O:イベント発症率およびINR安定の予測因子

 

【批判的吟味】

デザイン:後ろ向き、横断的コホート研究

追跡期間:5年間

交絡因子:調整されていない

マッチング:されていない

多変量回帰分析:年齢(70歳より上or以下)、性別、INR目標(2.0,2.5,3.0又はそれ以上)、抗凝固治療の理由(AF,VT,心臓弁障害、その他)、血栓塞栓症のリスク因子(DM、高血圧、心不全、VT既往歴、出血既往歴、エストロゲン療法、慢性疾患スコア)

 

【結果】

主要アウトカム(イベント発症)(安定群vs対象群)

・抗凝固療法関連死:0vs2(0.1%)(P=0.005)

・抗凝固療法関連血栓塞栓症:1(0.2%)vs34(1.3%)(P=0.022)

・抗凝固療法関連出血:11(2.1%)vs101(4.1%)(P=0.026)

 

主要アウトカム(INR安定の予測因子)

・年齢(70歳より上vs70歳以下):オッズ比(OR) 1.93(95%CI:1.56-2.38)

・性別(女性vs男性):OR 1.44(1.16-1.78)

・INR目標(2.0vs2.5):OR 2.80(1.83-4.28)

・INR目標(3.0またはそれ以上vs2.5):OR 0.28(0.17-0.47)

・血栓塞栓症のリスク因子(DMなしvsあり):OR 1.69(0.93-3.08)

・同(高血圧):OR 0.98(0.77-1.24)

・同(心不全):OR 2.08(1.36-3.17)

・同(VT既往歴):OR 1.53(0.84-2.79)

・同(出血既往歴):OR 2.02(0.70-5.79)

・同(エストロゲン療法):OR 1.04(0.72-1.49)

・慢性疾患スコア:OR 0.921(0.88-0.95) (スコアが1Pt増加すると4%低下するという意味)

 

【考察】

先ほどよりもINR安定の予測因子が明確になっている印象です。12か月安定となると、ある程度患者背景に特徴が出てくるのかもしれません。対象群の血栓塞栓症が多くなっているのも少し気になります。INRが安定しているというのはすごく大切な事なのかと思います。ただやはり、両群で患者背景が大きく異なっているのが気になります。

今回はE群2,500人、C群500人ということで、1/6くらいのINRが1年間安定しているということになります。まあこんなものですかね??

 

 

【全体を通して】

これらの文献だけでは判断が難しいですが、長期間安定する患者も十分にいるようですし、そういった患者群は比較的安全に続けていけそうなので、なかなか採血ができないからという理由でDOACに変更するのはどうかな?と思います。半年くらい安定すれば2~3か月に1回の検査でいいのかなと思いますし、どうしても安定しなければDOACを導入してもいいのかなと思います。DOACを使いたくなる気持ちはよく分かりますが…