まずはRCTから。NICE-SUGAR試験というなんとも素敵な試験。この界隈では有名な試験のようで。
Intensive versus conventional glucose control in critically ill patients.
(重症患者における強化血糖コントロールと標準血糖コントロールの比較)
N Engl J Med. 2009 Mar 26;360(13):1283-97.
PMID: 19318384
NEJMの日本語アブスト→重症患者における強化血糖コントロールと標準血糖コントロールの比較 | 日本語アブストラクト | The New England Journal of Medicine(日本国内版)
【PECO】
P:集中治療室(ICU)での治療が 3 日間以上必要と予想される成人患者6,104人(平均年齢;約60歳、男性;約63%)
E:強化血糖コントロール(目標血糖値;81~108 mg/dL)群3,054人
C:標準血糖コントロール(目標血糖値;180mg/dL以下)群3,050人
O:ランダム化後90日以内の死亡
【批判的吟味】
脱落率:E群;304人(10%)、C群;225人(7.4%)、全体;529人(8.7%)
ITT解析されているか?:されている(と記載されているが、per protocol解析のような気が)
副次的アウトカム:原因別死亡(詳細は付録Cを参照)、および機械換気、腎代替療法、ICUおよび入院期間
第三次アウトカム:無作為化後28日以内の任意の原因による死亡、死亡場所(ICU、病院病棟またはその他)、新たな臓器不全の発生率、血液培養陽性、赤血球輸血の受領および輸血容積
介入の詳細
インスリン使用:E群97.2%、C群69.0%
1日平均インスリン使用単位:E群50.2±38.1 vs C群16.9±29.0
平均加重血糖値:E群115±18mg/dL vs C群144±23mg/dL
【結果】
主要アウトカム(90日以内の死亡率)
E群 vs C群:27.5% vs 24.9%;オッズ比(OR) 1.14(95%CI:1.02-1.28)、絶対リスク差2.6%(95%CI:0.4-4.8)、NNH=38
副次的アウトカム
28日以内の死亡:22.3% vs 20.8%;OR 1.09(95%CI:0.96-1.23)
重篤な低血糖(40mg/dL以下):6.8% vs 0.5%;OR 14.7(9.0-25.9)、絶対リスク差6.3%、NNH=15
※ICU入室期間、入院期間、死亡場所(ICU or その他入院 or 入院外)は有意差なし
※死因別では、心血管疾患がE群にて多めだが、有意差はなし
サブ解析(条件別死亡率)
〇手術入院or手術入院外
手術入院:OR 1.31(1.07-1.61)
手術入院外:OR 1.07(0.93-1.23)
〇重篤な敗血症の有無
有:OR 1.13(0.89-1.44)
無:OR 1.15(1.01-1.31)
〇ステロイドの有無
有:OR 0.88(0.66-1.19)
無:OR 1.20(1.06-1.36)
【考察】
強化コントロール群で90日以内の死亡率が高く、低血糖は圧倒的に多いという結果。目標血糖値を81~108 mg/dLにしたら、そりゃそうなるよな、と。今回の結果を見るかぎりでは、強化コントロールのいいところは何一つとしてない感じですので、標準コントロールで十分かなと。
次はメタ解析(システマテックレビューと書いてありますが、メタ解析されている。)
Intensive insulin therapy in hospitalized patients: a systematic review.
(入院患者における集中的なインスリン療法:システマテックレビュー)
Ann Intern Med. 2011 Feb 15;154(4):268-82.
PMID: 21320942
【PECO】
P:種々の疾患にて入院中の患者
E:集中的な血糖管理
C:集中的ではない血糖管理
O:短期間(28日以内)の死亡率、長期間(90日又は180日)の死亡率、感染症、入院期間、低血糖
【批判的吟味】
抽出した試験:31件(集中治療室:13,周術期:7,急性脳障害:11)
評価者バイアス:二人の査読者が独立して行っている。
出版バイアス:英語のみ。Funnel Plotはなし。
元論文バイアス:RCTのメタ解析。
異質性バイアス:I²はまずまず。プロボグラムも概ね問題ない。
【結果】
主要アウトカム(28日以内の死亡)
E群 vs C群:相対リスク比(RR) 1.00(95%CI:0.94-1.07)、I²=0%、21試験、14,768人
副次的アウトカム
〇90日 or 180日の死亡:RR 1.05(0.99-1.02)、I²=0%、13試験、10,948人
〇感染症
敗血症のみ:RR 0.79(0.62-1.00)、I²=53.1%、9試験、10,677人
敗血症以外(創傷感染、尿路感染、肺炎):RR 0.68(0.36-1.30)、I²=53.1%、7試験、997人
合計:RR 0.78(0.62-0.97)、I²=50.7%、16試験、11,674人
〇重篤な低血糖(40mg/dL未満):RR 6.00(4.06-8.87)、I²=57.9%、9試験、11,899人
【考察】
こちらも厳格コントロールのメリットはほとんど見当たらない結果。感染症はやや減るかもしれないが、低血糖のリスクの方がそれを上回るか?感染リスクの高い場合は、少しくらいは厳しくしてもいいのかもしれないが、そういう設定では低血糖のリスクも高そうな気が。
先に記述したNICE-SUGAR試験がこのメタ解析のn数の多くを占めており、その結果に引っ張られている可能性もある。
入院理由別だと、もしかしたら違う結果が出るかもしれない。
【全体を通して】
厳格にコントロールをする根拠は乏しいのかな、と。ゆるく、180mg/dL未満くらいを目標にして、低血糖には十分に注意してコントロールしていけばよさそう。
※糖尿病のカテゴリーに入れましたが、いずれの文献も対象患者は糖尿病に限定されているわけではないようです。