リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

インスリン分泌促進薬もろもろ-2(レパグリニドによる予後)

グリニド薬についての予後についてのRCTは探しても見つからず…

レパグリニド(とSU薬5種類)については、よく取り上げられている大規模なデンマークのコホート試験があったので、そちらを取り上げていきます。

 

Mortality and cardiovascular risk associated with different insulin secretagogues compared with metformin in type 2 diabetes, with or without a previous myocardial infarction: a nationwide study.

(心筋梗塞既往の有無による、2型糖尿病のメトホルミンと比較しての異なるインスリン分泌促進薬に関連する死亡率および心血管リスク:全国的な研究)

Eur Heart J. 2011 Aug;32(15):1900-8.

PMID: 21471135

糖尿病トライアルデータベースhttp://diabetes.ebm-library.jp/trial/detail/51225.html

 

【PECO】

P:20歳以上でDM治療をメトホルミンまたはインスリン分泌促進薬(ISs)単剤で行っているデンマーク住民107,806人(うちMI既往あり9,607人)

E:ISsによる治療

C:メトホルミンによる治療

O:総死亡率、心血管死亡、または「心筋梗塞(MI)、脳卒中、心血管死亡」の複合

 

【批判的吟味】

デザイン:コホート研究

追跡期間:中央値3.3年(最長9年)

傾向スコアマッチング:されている

調整された交絡因子:年齢、性別、総収入、糖尿病治療開始年、併存疾患、 「time-dependent adjustment for cardiovascular medical treatment during follow-up」

Limitation:残存交絡因子の可能性。メトホルミン、グリクラジド、レパグリニドは他よりも併存疾患が少ない。

 

【結果】

・MI既往なし(ハザード比(95%CI)、対象;メトホルミン群)

 

総死亡

心血管死

MI、脳卒中、心血管死

グリメピリド

1.27 (1.18– 1.36)

1.26 (1.14– 1.39)

1.29 (1.20–1.39)

グリクラジド

1.05 (0.91– 1.21)

1.15 (0.95– 1.39)

1.18 (1.02–1.36)

グリベンクラミド

1.13 (1.02– 1.25)

1.13 (0.98– 1.31)

1.16 (1.04–1.29)

グリピジド

1.16 (1.03– 1.30)

1.24 (1.06– 1.46)

1.24 (1.09–1.40)

トルブタミド

1.12 (0.99– 1.26)

1.16 (0.98– 1.36)

1.17 (1.03–1.33)

レパグリニド

1.00 (0.78– 1.29)

1.03 (0.37– 2.83)

0.87 (0.49–1.54)

・MI既往あり(ハザード比(95%CI)、対象;メトホルミン群)

 

総死亡

心血管死

MI、脳卒中、心血管死

グリメピリド

1.30 (1.08– 1.57)

1.29 (1.04– 1.60)

1.22 (1.30–1.46)

グリクラジド

0.85 (0.61– 1.17)

0.75 (0.52– 1.08)

0.71 (0.52–1.99)

グリベンクラミド

1.34 (1.03– 1.75)

1.40 (1.04– 1.88)

1.10 (0.85–1.41)

グリピジド

1.58 (1.19– 2.09)

1.53 (1.06– 2.21)

1.54 (1.12–2.10)

トルブタミド

1.46 (1.06– 2.01)

1.85 (1.67– 2.92)

1.44 (1.01–2.05)

レパグリニド

1.15 (0.68– 1.98)

1.10 (0.61– 2.00)

1.10 (0.67–1.82)

 

※イベント発生率

 

総死亡

心血管死

MI、脳卒中、心血管死

 

MI歴無

MI歴有

MI歴無

MI歴有

MI歴無

MI歴有

メトホルミン

3.6%

7.3%

1.9%

5.8%

3.8%

8.4%

グリメピリド

11.2%

18.9%

6.2%

15.2%

9.7%

19.3%

グリクラジド

7.5%

12.2%

4.3%

9.3%

7.4%

12.2%

グリベンクラミド

12.4%

22.2%

7.0%

17.7%

11.0%

22.9%

グリピジド

13.6%

21.4%

8.0%

17.4%

11.8%

23.3%

トルブタミド

14.8%

24.0%

8.6%

18.8%

12.8%

22.8%

レパグリニド

5.9%

14.0%

2.8%

11.3%

5.5%

15.1%

 

【考察】

本文中の結果はFig1の結果を示しているが、Fig3には「Propensity analyses」との記載があるので、そちらを引用。(どちらにしろさほど差はありませんが)

結果としては、グリピジド群及びレパグリニド群にてメトホルミン群と有意差がなかった。ただ気になるのはベースラインがその3群では他剤群と異なり、併存疾患が少ないこと。それがどこまで調整されているか…しかし、上記のイベント発生率ではその3剤と他剤では大きく差があるので、ベースラインが異なるだけでは語れないものもありそうな印象。糖尿病トライアルデータベースには、「SU薬のうちリスク増加を示した薬物はすべて,心臓のSU受容体に結合するものであること(心筋虚血時に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている)があげられる。心臓に作用せず,膵臓のみに作用する薬物はgliclazideのみであること,またグリニド薬は作用時間が短いことから,心臓に悪影響を及ぼさず,エンドポイント上昇に影響しなかった可能性が考えられる。」と記載してあり、それを裏付けているのかもしれない。

グリニドに関してはRCTを見てみたい気もするが…グリニド間の差も知りたいですね。やはりレパグリニドを使うのが無難か。。。

SU薬については以前にこちら(インスリン分泌促進薬もろもろ-1(SU剤まとめ))

でもまとめましたが、グリピジドが他剤よりは安全に使えるような印象を受ける。

 

【補足】

レパグリニドを使う上では、クロピドグレルとの併用には十分な注意が必要なのでしっかり覚えておきましょう!

シュアポストとプラビックス、併用注意のなぜ:日経DI Online

 こんな恐ろしい症例報告もありました…

レパグリニドとクロピドグレル併用による遷延性重症低血糖の1例