リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

COPD治療薬もろもろ-9【COPDとワクチン】

今回はCOPD患者の増悪の予防に重要といわれているインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの効果についてみていきます。

 

・インフルエンザワクチン

 

まずはインフルエンザワクチンについての論文を2つ紹介します。

Influenza vaccine for chronic obstructive pulmonary disease (COPD).

(COPDにおけるインフルエンザワクチン)

Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jun 26;6:CD002733.

PMID: 29943802

 

【PECO】

P: COPD患者180人

E:不活化インフルエンザワクチン筋注

C:プラセボ

O:接種者一人当たりの増悪の総数

 

デザイン:メタ解析(2つのRCT)

 

【結果】

1人当たりの増悪の総数:平均差(MD) -0.37;95%CI:(-0.64) to (-0.11);2つのRCT,180人;質の低いエビデンス)

 

【考察】

アブストラクトのみしか読めておりません。

COPD患者限定の試験は少ないようで、メタ解析といえども2つのRCTで180人しか含まれておりません。接種一人当たり増悪が-0.37回ということで、十分に効果があるように思います。もう少し規模の大きい試験を見たい気もしますが、接種が推奨されている状態でのRCTは難しいかと思います。

 

2つ目です

高齢者COPDの急性増悪に対するインフルエンザワクチンの効果

日呼吸会誌 46(7),2008.P511-515

(こちらの論文はPubmedにも収載されております。PMID:18700566

The efficacy of influenza vaccine for acute exacerbation of chronic obstructive lung disease in elderly patients.

Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi. 2008 Jul;46(7):511-5.)

 

【PECO】

P:COPD患者189人

E:インフルエンザワクチン接種189人(平均年齢73.5歳)

C:インフルエンザワクチン非接種100人(平均年齢75歳)

O:喘鳴による予定外通院、肺炎による入院、入院医療費削減効果

 

デザイン:前向き観察研究

マッチング:されていない

 

【結果】

喘鳴による予定外通院

・E群 vs C群:11人(5.8%) vs 23人(23.0%);相対リスク減少率(RRR) 74.7%(95%CI:0.52-0.87)

 

肺炎による入院

・E群 vs C群:8人(4.2%) vs 14人(14.0%);RRR 69.8%(95%CI:0.32-0.87)

入院コスト

f:id:gacharinco:20181007142725p:plain

※ワクチン非接種群は20人入院したが、うち3名は他の病院に入院し、コストが不明なため除外されている→その3名分を追加すると両群間の差はさらに増えると考えられる

 

【考察】

ランダム化もマッチングもされていないので、患者背景の違いが気になるところです。Table1を見る限りでは、ワクチン接種群の方にHOTが多く、年齢もやや高いことから、不利な条件のような気もしますが。

結果としては、ワクチン接種群の方が予定外通院、肺炎による入院率はかなり低い結果に。コスト的にもかなり低減していますね。そういった面からは有効なのではないかという印象です。

 

・肺炎球菌ワクチン

 

続きまして、肺炎球菌ワクチンについての文献を2つ。

まず一つ目

Pneumococcal vaccines for preventing pneumonia in chronic obstructive pulmonary disease.

(COPD患者における肺炎予防のための肺炎球菌ワクチン)

Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jan 24;1:CD001390.

PMID: 28116747

 

 【PECO】

P:COPD患者2,171人(12RCT;平均年齢66歳、男性67%)

E:肺炎球菌ワクチン接種群

C:コントロール群

O:市中肺炎(CAP)発症予防効果、死亡への影響、COPDの急性増悪への影響

 

デザイン:メタ解析

 

 【結果】(全てE群 vs C群)

CAP発症:オッズ比 (OR) 0.62,95%CI:0.43-0.89;6試験, n = 1372; GRADE: 中等度;NNTB(1件のCAP発症予防に必要な治療数):21(95%CI:15-74)

全死亡:OR 1.00, 95%CI:0.72-1.40;5試験, n = 1053; GRADE:中等度

心呼吸系による死亡:OR 1.07, 95%CI:0.69-1.66;3試験, n = 888; GRADE:中程度

入院:差なし(詳細の記載なし)

COPD増悪:OR 0.60, 95%CI:0.39-0.93;4試験, n = 446; GRADE:中等度;NNTB(1件のCOPDの増悪予防に必要な治療数):8(95%CI:5-58)

 

【考察】

アブストラクトのみしか読めておりません。結果としてはCAPの発症やCOPDの増悪は抑えられたけれど、入院や死亡には影響はなかったという結果です。ただ、CAPの発症予防もCOPDの増悪もNNTBは小さい数字となっているので、摂取は推奨されるのではないかと感じました。

 

2つ目

Clinical efficacy of anti-pneumococcal vaccination in patients with COPD.

(COPD患者における肺炎球菌ワクチンの臨床的有効性)

Thorax. 2006 Mar;61(3):189-95. Epub 2005 Oct 14.

PMID: 16227328

 

【PECO】

P:平均65.8歳(SD9.7)のCOPD患者596人

E: 23価肺炎球菌ワクチン(PPV)接種(298人)

C:非接種(298人)

O:肺炎球菌または未知の病因によるCAPの発症率への影響

 

デザイン:RCT

 

【結果】

f:id:gacharinco:20181007153540p:plain

 

【考察】

対象者が少なかったので、検出力不足ということも十分にありそうですが。

また、上述のメタ解析にも含まれてそうですが。

この試験では、特に65歳未満で、またFEV1の低い群でより効果的な結果となっておりました。この結果を見る限りでは、使用してもいいのかな、という印象です。

 

・併用

 

最後に併用についての論文を。あまりいいのが見当たらず…ちょっと古くてアブストしか読めませんが、よく引用されている文献を紹介しておきます。

The additive benefits of influenza and pneumococcal vaccinations during influenza seasons among elderly persons with chronic lung disease.

(慢性呼吸器疾患高齢患者におけるインフルエンザシーズン間の肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの追加効果)

Vaccine. 1999 Jul 30;17 Suppl 1:S91-3.

PMID:10471189

 

【PECO】

P:慢性呼吸器疾患高齢患者

E:肺炎球菌ワクチン接種、インフルエンザワクチン接種、両方接種

C:いずれも接種なし

O:3つのインフルエンザシーズン(1993-1994,1994-1995、および1995-1996)における肺炎による入院、死亡への有効性

 

デザイン:後ろ向き観察研究

マッチング:されていない

 

【結果】

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※対照は「肺炎球菌ワクチンおよびインフルエンザワクチン両方未接種」

 

【考察】

あまりにもきれいな結果がでているので、ほんまかいな??という気はしますが。観察研究ということを割り引いても、単独でも効果は期待できそうですし、併用による上乗せ効果もありそうです。

 

【全体を通して】

 今回はCOPD患者限定の論文を探して紹介しました。さほど質の高い研究がなかったのは残念ですが…

いずれのワクチンについても、何か理由がない限りは接種が推奨したほうが、患者QOLは向上するのかなと感じました。「死亡」というアウトカムに関しては、いずれの研究でも有意差は認められておらず(ブログには載せてませんが、検討していた研究もありました)、その当たりはやや引っ掛かりますが、増悪を抑えるという意味では十分に効果が期待できるのではないかと思います。