今回はワーファリンやDOACへのPPIの併用意義について2つの論文を紹介したいと思います。
まずは一つ目。
Association of Oral Anticoagulants and Proton Pump Inhibitor Cotherapy With Hospitalization for Upper Gastrointestinal Tract Bleeding.
(上部消化管出血による入院におけるPPIと経口抗凝固薬の併用療法との関連)
JAMA. 2018 Dec 4;320(21):2221-2230.
PMID: 30512099
【PECO】
P:新規経口抗凝固薬治療1,643,123人が含まれた(平均年齢:76.4(2.4)歳)、女性:651,427人/年(56.1%)、AF:870,330人/年(74.9%))
E:PPI併用(参加者の約1/4)
C:PPI非併用(参加者の約3/4)
O:上部消化管出血による入院リスク
デザイン:後ろ向きコホート研究
調整された共変量:eTable3の85項目(Supplement1に記載あり)
【結果】
主要アウトカム(PPI併用の有無による上部消化管出血による入院リスクの差)
サブ解析(GI Bleeding Risk Score 別の上部消化管出血による入院リスク)(Figure2)
【考察】
いずれの薬剤に関しても、PPIの併用にて上部消化管出血による入院のリスクが低減しておりました。またGI Bleeding Risk Score 別ではスコアが大きくなるほど出血リスクが上がり、PPIの必要性がうかがえるグラフとなっております。
ただその絶対差に目を向けてみると、ごくわずかな差のようにも見えます。全例に併用する必要はあまり感じず、それぞれの患者のリスクを勘案して併用していくべきと考えました。また、薬剤間である程度差があることは認識しておかないといけないとも思います。
2つ目の論文を。今回はワーファリンのみが対象の論文です。
Association of Proton Pump Inhibitors With Reduced Risk of Warfarin-Related Serious Upper Gastrointestinal Bleeding.
Gastroenterology. 2016 Dec;151(6):1105-1112.
PMID: 27639805
【PECO】
P:Tennessee Medicaid and the 5% National Medicare Sampleにおけるワルファリン治療を開始した患者97,430人(75,720person-years)
E:PPIの併用(参加者の約1/4)
C:PPIの非併用(参加者の約3/4)
O:上部消化管出血による入院
デザイン:後ろ向きコホート研究
調整された共変数:人口統計学的特徴、 ワルファリンの適応と治療期間、胃腸疾患、ワルファリン関連出血の危険因子、出血リスクに影響を及ぼすと考えられる医薬品、心血管合併症、アルコールの乱用、肝疾患、最近の医療利用
【結果】
主要アウトカム(上部消化管出血による入院)
サブ解析(抗血小板薬の併用有無別)(Figure1)
サブ解析(抗血小板薬の併用有無&上部消化管出血歴の有無別)(Figure2)
【考察】
1つ目の文献と似たような結果になっているように思います。こちらでも上部消化管以外の出血も検討されており、それにはPPIの有無にて有意な差はなかったようです。
また今回のサブ解析では抗血小板薬の併用有無や上部消化管出血既往歴の有無による違いが検討されていました。抗血小板薬の併用あり、上部消化管出血既往ありの時はPPIの併用をした方がリスクが低減しておりました。
今回も同様に、それぞれの患者のリスクを勘案して併用していくべきと感じました。
【全体を通して】
PPI併用によるベネフィットは、患者のリスクによって異なることが分かりました。PPIによる副作用リスクも懸念されますので、なんでもかんでも併用するのではなく、患者のリスクに合わせて併用することが必要な気がしました。