サルコペニア診療ガイドライン2017年度版には、薬剤に関して以下のような記載があります。
そこで、いくつか論文を検索してみました。
本題に入る前に、総説(?)のようなものがあったので紹介しておきます。
The Effects of Medication on Activity and Rehabilitation of Older People – Opportunities and Risks
今回は、アロプリノール、ACEIに関する論文を紹介していきます。
まずはアロプリノールから。
Allopurinol use is associated with greater functional gains in older rehabilitation patients.
(高齢リハビリ患者におけるアロプリノール使用とより大きな機能改善の関連)
Age Ageing. 2013 May;42(3):400-4.
PMID: 23542724
【PECO】
P:高齢者リハビリテーション・ユニットへの入院患者3,593人(平均年齢81歳)
E:退院時のアロプリノール服用群(102人)
C:退院時の非アロプリノール服用群(3,491人)
O:入院時および退院時の20ポイントBarthel Indexスコアの改善度の差
デザイン:前向きコホート研究
マッチング:されていない
交絡因子の調整:年齢、性別、薬剤数、入院時のBarthelスコア、並存疾患
Limitation:アロプリノール服用者が3%しかいないこと。投与量が不明なこと。腎障害患者にはアロプリノールがあまり使われていない可能性があること。
【結果】
主要アウトカム(入院時および退院時の20ポイントBarthel Indexスコアの差)
〇E群 vs C群:4.8pt(10.7→15.4) vs 3.8pt(10.3→14.0)ポイント、平均差0.94、95%CI:0.3-1.6
副次的アウトカム(自宅退院率)
〇E群 vs C群:85% vs 71%(p=0.001)
※その他の薬剤としては、ACEI/ARB、スタチン、キニーネ、PPIでは差はなかったが、抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、ジピリダモール)では服用していない群にてBarthelスコアが有意に改善した。
【感想】
試験デザインとしてはマッチングしておいてほしかったな、と。全体のうち3%しか使われてませんので、nが少なすぎるかなと。
Barthel Indexスコアの改善の差は1ptなので、これにどこまで意味があるのかは分かりませんが…
まだまだ仮説の段階だとは思いますが、大変興味深いです。
ちなみに機序については、introductionに以下のように書かれております。
「inhibition of xanthine oxidase by allopurinol might improve muscle function by reducing oxidative stress, improving endothelial function and might also result in oxygen and ATP sparing. It is possible that such improvements in muscle function may translate into improved rehabilitation outcomes.(アロプリノールによるキサンチンオキシダーゼの阻害は、酸化ストレスを減らし、内皮機能を改善することで筋肉機能を改善し、酸素とATPの節約ももたらす可能性があります。このような筋肉機能の改善は、リハビリテーションの転帰の改善につながる可能性があります。)」
※Barthel Indexスコア:整容、食事、排便、排尿、トイレの使用、起居移乗、移動、更衣、階段、入浴の10項目からなる。20点満点で採点する方法と100点満点で採点する方法とがある(https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_03.htmlより)
こちらのブログがよくまとまっていました。
次はACEI。
The perindopril in elderly people with chronic heart failure (PEP-CHF) study.
(慢性心不全の高齢患者へのペリンドプリル)(PEP-CHF試験)
Eur Heart J. 2006 Oct;27(19):2338-45.
PMID: 16963472
循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2002532.html
【PECO】
P: 70歳以上の利尿薬による治療が行われ、心エコーにて拡張機能障害が示唆され、実質的な左室収縮機能障害または弁膜症を除く心不全と診断された患者(850人)(平均75歳)
E:ペリンドプリル4mg/日群(424人)
C:プラセボ群(426人)
O:全死亡と予定外の心不全関連入院との複合
デザイン:2重盲検RCT
追跡期間:中央値2.1年
脱落率:1年後-ペリンドプリル群(28%)、プラセボ群(26%)、18ヵ月後-ペリンドプリル群40%、プラセボ群36%
Limitation:試験の終わりまでに、ペリンドプリルに割り当てられた患者の35%およびプラセボに割り当てられた37%の患者がオープンラベルでACE阻害薬を服用していた。予定していたよりイベントが発生せずに検出率が下がった。
【結論】
主要アウトカム(全死亡と予定外の心不全関連入院との複合)
〇試験期間全体:E群 vs C 群:HR 0.919;95%CI:0.700-1.208
〇1年後:HR 0.692;95%CI:0.474-1.010
副次的アウトカム
〇全死亡
試験期間全体:HR 1.09;95%CI:0.75; 1.58
1年後:HR 0.90;95%CI:0.47-1.73
〇予定外の心不全関連入院
試験期間全体:HR 0.859;95%CI:0.614-1.202
1年後:HR 0.628;95%CI:0.408-0.966
〇6分間歩行
1年後:328m(ベースラインからの変化:31m) vs 309m(ベースラインからの変化:19m) (変化の平均差 14m;95%CI:3-25)
〇NYHA分類
NYHA 1(20.3% vs 12.4%),NYHA 2(63.7% vs 70.5%),NYHA 3/4(16% vs 17.1%)
【結果】
Limitationに記載されているように、プラセボ群の患者も最終的にはACEIを服用していたとのことなので解釈が難しいように思います。
今回は6分間歩行距離の改善に焦点を当てたいと思います。
本試験では、ペリンドプリル群にて14mの有意な改善がみられました。ただ、この14mに意味があるのかと言われるとなんとも…。このような副次的な効果が期待できることも覚えておいてもいいのかもしれません。
※6分間歩行に関する参考資料:6分間歩行試験 - JHospitalist Network
またACEIに関してはこんな論文も。
Relation between use of angiotensin-converting enzyme inhibitors and muscle strength and physical function in older women: an observational study.
Lancet. 2002 Mar 16;359(9310):926-30.
PMID: 11918911
こちらはアブストラクトしか読めないので詳しいことは分からないですが、高血圧の高齢女性641人を対象とした観察研究であり、3年間の膝伸筋の筋力と歩行速度の低下を評価しております。ACEIの継続服用患者では、間欠的服用、他の降圧剤の服用、降圧剤非服用群と比較して膝伸筋の筋力と歩行速度の低下を抑制することが示唆されました。
なおRAS系とサルコペニアの関連については、「サルコペニアの成因解明研究と治療法開発update」に、「RASの活性化は、アンジオテンシンⅡによる蛋白同化ホルモンの減少や炎症性サイトカインの誘導、ミオスタ チン増加を介した筋蛋白分解亢進といった間接的な作用や、アンジオテンシンⅡタイプ1受容体を介した直接的な酸化ストレス亢進作用を介し、サルコペニアが生じると考えられている。」
との記載があります。
今回は以上になります。
次回はSARMとSSRIを取り上げます。