今回はサルコペニア診療ガイドラインに記載のあるものの中からSARM、SSRIについての論文を読んでいきます。
まずはSARMについて。
Effects of enobosarm on muscle wasting and physical function in patients with cancer: a double-blind, randomised controlled phase 2 trial.
(癌患者における筋消耗および身体機能に対するエノボサルムの効果:二重盲検無作為化対照第2相試験)
Lancet Oncol. 2013 Apr;14(4):335-45.
PMID: 23499390
【PECO】
P:肥満ではなく、過去6ヶ月間に少なくとも2%の体重減少があった男性(> 45歳)と女性(閉経後)の癌患者159人
E: enobosarm 1 mg群53人、enobosarm 3 mg群54人
C:プラセボ群52人
O:ベースラインからの総除脂肪体重の変化
【結果】
主要評価項目(ベースラインからの総除脂肪体重のベースラインからの変化)
〇プラセボ群 0.1Kg、Enobosarm 1mg群 1.5Kg、 Enobosarm 3mg 1.3Kg
(プラセボ群 vs Enobosarm 1mg群:P=0.066、 vs Enobosarm 3mg:P=0.041)
副次評価項目
〇階段を12段上るのに要した時間のベースラインからの変化
プラセボ群 0.20秒、Enobosarm 1mg群 -1.63秒、 Enobosarm 3mg -2.22秒
※Enobosarm群ではそれぞれベースラインと有意差あり
〇階段上昇力の変化(Power=(9·8 [m/s2]× stair height [m] × weight [kg])/stair climb time (s))(watts)
プラセボ群 2.21、Enobosarm 1mg群 14.26、 Enobosarm 3mg 16.81
※Enobosarm群ではそれぞれベースラインと有意差あり
【感想】
こちらはまだ発売されていないEnobosarmの第2相試験であり、現在第3相試験が進行中です(→Study Design and Rationale for the Phase 3 Clinical Development Program of Enobosarm, a Selective Androgen Receptor Modulator, for the Prevention and Treatment of Muscle Wasting in Cancer Patients (POWER Trials).(PMID: 27138015)
いわゆる「がん悪液質」という限定した患者が対象になっております。
評価項目はよく分からないのですが、有意な改善は認められております。
詳しい機序は正直本文を読んでもよく分からず…
特に男性では副作用も気になる薬効群です。
この第3相試験に期待したいと思います!
次はSSRI。
Selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) for stroke recovery.
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Nov 14;11:CD009286.
PMID: 23152272
【PECO】
P:最初の1年以内の任意の時点で脳卒中生存者(虚血性または出血性)(4059人、52試験)
E:SSRI群
C:通常のケアまたはプラセボ群
O:依存および能力障害
デザイン:RCTのメタ解析
副次的アウトカム:機能障害、うつ病、不安、生活の質、疲労、医療費、死亡、有害事象および試験の早期終了
【結果】
依存性:RR 0.81(95%CI 0.68-0.97:1試験)
能力障害スコア:SMD 0.91(95%CI:0.60-1.22;I²=87%;22試験:1343人)
神経学的障害スコア:SMD -1.00(95%CI:-1.26 to -0.75;I²=86%;29試験;2011人)
二分うつ病スコア:RR 0.43(95%CI:0.24-0.77;I²=77%;8試験;771人)
連続的なうつ病スコア:SMD -1.91(95%CI:-2.34 to -1.48;I²=95%;39試験;2728人)
不安:SMD -0.77(95%CI:-1.52 to -0.02;I²=92%;8試験;413人)
認知機能:SMD 0.32(95%CI:-0.23 to 0.86;I²=86%;7試験;425人)
死亡:RR 0.76(95%CI:0.34-1.70;I²=0%;46試験;3344人)
運動障害:SMD -0.33(95%CI:-1.22 to 0.56;2試験;145人)
試験の早期終了:RR 1.02(95%CI:0.86-1.21)
胃腸副作用:RR 1.90(95%CI:0.94-3.85;14試験;902人)
【感想】
結果に関しては直訳してみたのですが、それぞれの項目が何を意味するのか分からない項目が多くて。
SSRIなんだからそりゃ改善するでしょう、な項目も多いですし。
とりあえず、現在3試験が進行中とのことです。↓
そして、そのうちの一つのFOCUS試験の結果が出たようですので、続けて紹介しておきます。
Effects of fluoxetine on functional outcomes after acute stroke (FOCUS): a pragmatic, double-blind, randomised, controlled trial.
(急性脳梗塞後の機能的アウトカムに対するフルオキセチンの効果)
Lancet. 2019 Jan 19;393(10168):265-274.
PMID: 30528472
【PECO】
P:脳卒中発症後2日から15日の18歳以上の脳画像診断を用いて急性脳卒中の臨床診断を受けた脳内出血または虚血性脳卒の患者 (3127人)(平均71歳)
E:フルオキセチン20mg(1564人)
C:プラセボ(1563人)
O:6カ月時点での修正Rankin Scale(mRS)で測定された機能的状態
※mRSはこちらを参考に→(日本版modified Rankin Scale(mRS)判定基準書)
【結果】
主要アウトカム(6カ月時点での修正Rankin Scale(mRS)で測定された機能的状態の分布)
〇E群 vs C群:最小化変数によって調節された共通のオッズ比 0.951(95%CI:0.839-1.079)
副次的アウトカム
〇12ヶ月の機能的状態(mRS)
調整後Common OR 1.015(95%CI:0.894-1.151)
〇12か月後の死亡リスク
182人(11.6%) vs 198人(12.7%);HR 0.929(95%CI:0.756- 1.141)
〇6か月、12か月の脳卒中影響尺度(SIS)
9項目とも有意差なし
※SISはこちらを参考に→原文:https://www.strokengine.ca/pdf/sis.pdf、日本語:https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/39/3/39_215/_pdf/-char/ja
〇Vitality(SF-36)、EQ5D-5L、MHI-5
6か月後はEQ5Q-5Lのみ有意差あり。12か月後は全て有意差なし
有害事象(6か月時点)
〇骨折:45人(2.88%) vs 23人(1.47%);絶対差 1.41%(95%CI:0.38-2.43)
〇新規うつ病:210人(13.43%) vs 269人(17.21%);絶対差 –3.78%(95%CI:–6.30 to –1.26)
※脳卒中、出血イベント、低血糖・高血糖、自殺等は有意差なし
【感想】
なんとも残念な結果で。mRSには全く影響はなかったようで。
新規うつ病は減りましたが、そりゃSSRIを飲めば…むしろ骨折が増えることの方が問題な気がします。なので、うつ病予防で使うものではないと思います。
他の2つの試験の結果も待ってみますが、どうでしょうかね。。。
今回はこの辺で。
次回はスタチンを紹介します。