リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ソーシャルキャピタルと健康もろもろ‐5(近隣に飲食店があった方がいいですか?)

JAGES プロジェクトより、飲食店と家との距離に関した論文がいくつか発表されていますので、それを紹介していきます。

 

まずは死亡リスクについて

プレスリリースはこちら

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では、論文を

Neighborhood food environment and mortality among older Japanese adults: results from the JAGES cohort study.

(日本の高齢者における近隣の飲食店と死亡率)

Int J Behav Nutr Phys Act. 2018 Oct 19;15(1):101.

PMID: 30340494

【PECO】

P:2010年に実施したJAGES調査に参加した 65歳以上の高齢者のうち、性別、年齢、 死亡、近隣の食料品店の数の情報が得られており、歩行・入浴・排泄に介助が必要な人を除いた49,511名

E:近隣に新鮮な野菜や果物が手に入る商店・施設が「ある程度ある」(60.6%)、「あまりない」 (18.0%)、 「まったくない」 (5.4%)

C:同上が「たくさんある」(16.0%)

O:死亡率

 

デザイン:前向きコホート研究

サブ解析:車所有の有無による死亡率(有:n=29,676、無:n=19,835)

追跡期間:平均 2.9年(範囲:2.1–3.5年)

傾向スコアマッチング:なし

調整された交絡因子:年齢、性別、社会人口学的状況(教育、年間収入、生活状況、婚姻状況、および雇用状況)、環境ステータス(運転ステータス、公共交通機関[電車とバス]、居住地)、歩行と外出(歩行時間と外出の頻度)、栄養状態(BMI、果物/野菜および肉/魚の摂取頻度)および健康状態(がん、心臓病、脳卒中、糖尿病、呼吸器疾患、またはその他による医学的治療、うつ症状)

 

【結果】

主要アウトカム【死亡リスク(HR(95%CI))】

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サブ解析【車所有の有無による死亡率(HR(95%CI))】

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※500mと1kmで結果はほとんど同じ

※多変量解析の因子が少なければ差はみられたが、因子が増えると差が少なくなった

 

【考察】

多変量解析がいくつかのパターンでされていましたが、どれを取り上げたらいいのか分からず…プレスリリースに載っているモデル2(年齢、性別、社会人口学的状況(教育、年間収入、生活状況、婚姻状況、および雇用状況)を調整)であれば有意差がついたものがいくかありましたが…最終的に因子を増やせば、いずれも有意差はなかったです。

Limitationに記載がありましたが、飲食店の種類、買い物の責任者、因果関係の逆相関について考慮されていないことが気になりました。

 

 

次は認知症の発症率について

まずはプレスリリースから

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では、論文を

Neighborhood Food Environment and Dementia Incidence: the Japan Gerontological Evaluation Study Cohort Survey.

(近所の食料品店と認知症発症率)

Am J Prev Med. 2019 Mar;56(3):383-392.

PMID: 30777158

【PECO】

P:2010年に実施したJAGES調査に参加した 65歳以上の高齢者のうち、性別、年齢、 死亡、近隣の食料品店の数の情報が得られており、歩行・入浴・排泄に介助が必要な人を除いた49,511名

E:近隣に新鮮な野菜や果物が手に入る商店・施設が「ある程度ある」(60.6%)、「あまりない」 (18.0%)、 「まったくない」 (5.4%)

C:同上が「たくさんある」(16.0%)

O:認知症の発症率の差

 

デザイン:前向きコホート研究

追跡期間:平均 2.9年(範囲:2.1–3.5年)

調整された交絡因子:年齢、性別、社会人口学的特性(教育、年収、生活状況、婚姻状況、雇用状況)、環境状況(運転状況、公共交通機関[電車とバス]、居住地)、栄養状態(BMIおよび野菜/果物摂取の頻度)、身体活動(歩行時間と外出の頻度)、栄養状態(BMIおよび野菜/果物摂取の頻度)を調整、身体活動(歩行時間と外出頻度)、および健康状態(高血圧、糖尿病、難聴、抑うつ症状、IADL、および認知機能障害)、居住可能居住地の人口密度

 

【結果】

主要アウトカム【認知症の発症率(HR(95%CI))】

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サブ解析【店の種類別(客観的500m以内)(HR(95%CI)) 】

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【考察】

今回も調整する交絡因子によって結果が少しずつ変わっていましたが、全ての交絡因子を調整した結果を取り上げております。主要アウトカムでは、「たくさんある」に比べて他の群での認知症発症リスクの増加が示唆されております。また、飲食店の種類別をみたサブ解析では、食料品店のみで有意差がついております。これは、高齢者がレストランやコンビニをさほど使わない、ということが原因かもしれません。

全体としては、多少の関連があるのかもしれないと思いました。

Limitationとしては、認知症の定義が「『認知症高齢者の日常生活自立度』のランクⅡ以上」であること(過小評価されている可能性がある)、買い物の責任者、宅配の食事が考慮されていないことなどが挙げられておりましたが、たしかにそれは重要なことかと思います。

 

 

次の論文は今までとは対象集団が異なる研究ですが、肥満との関連についての論文です。

まずはプレスリリースから

 

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では論文を

Residential relocation and obesity after a natural disaster: A natural experiment from the 2011 Japan Earthquake and Tsunami.

(自然災害後の住宅移転と肥満:2011年の東日本大震災からの自然実験)

Sci Rep. 2019 Jan 23;9(1):374.

PMID: 30675013

【PECO】

P:宮城県岩沼市の65歳以上の3,594人

E:移転(208人)

C:移転せず(3,386人)

O:震災後2.5年後の飲食店との距離の肥満への影響

 

【結果】

【業種別での距離が1km近くなったことによるBMIへの影響(調節オッズ比(95%CI))】

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 【考察】

これはなかなか興味深い研究で。スーパー、バー、ファストフードにてBMI25以上のリスクの上昇が認められました。新しい環境に移転してきたということで様々な因子の影響が考えられそうではありますが、そのうちの一つの要因なのかもしれません。65歳以上なので、今後のフレイル等を考えるとある程度肥満でもいいのかなとも思いますが。高齢者を中心とした町のあり方を考える上でも重要な研究かもしれません。

 

 

最後にもう一つ。プレスリリースと論文の紹介のみしておきます。

生鮮食品摂取との関連です。

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Comparison of Objective and Perceived Access to Food Stores Associated with Intake Frequencies of Vegetables/Fruits and Meat/Fish among Community-Dwelling Older Japanese.

(地域在住の高齢日本人における野菜/果物および肉/魚の摂取頻度に関連する食品店への客観的および認識されたアクセスの比較)

Int J Environ Res Public Health. 2019 Mar 3;16(5).

PMID: 30832455

 

 

【全体を通して】

高齢者にとって買い物、食事というのは非常に重要な部分だと思います。飲食店が近くにあり、それが自由にできることは、そうじゃないよりは何かしらの予後に関連してきそうですし、外出することでコミュニケーションが生まれることも重要かと思います。

全体としては、交絡因子の調整や被験者の情報等がまだまだ不十分と思われる試験が多かったのでこの結果を全て鵜呑みにはできませんが、飲食店や食料品店ができるだけ近くにあった方がいいとは思いますし、そういった町のデザインを考えていかないといけないのかもしれません。