「日本ヘリコバクター学会 H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2016改訂版Q&A 」には以下のような記載がなされております。
Q11:高度腎機能障害や透析患者に対する除菌治療はどうすると良いですか?
A11:高度腎機能障害の場合には薬物の用量を減じるなどの調整が必要となることがあります。AMPCを含むレジメンの投与により腎機能が増悪したとする報告があります1)。一方で、PPIとCAM、MNZの組み合わせは腎機能に影響なかったと報告されています1)。除菌薬の内服によって腎機能を悪化させる可能性がないわけではないため、除菌療法の適応について十分な検討が必要です。その上で、薬物の用量の調整が必要です。特に、AMPCの用量は1/2から1/3に減じる必要があると考えます2)。
透析例では、PPI は1回投与、AMPCも250mgの1日1カプセルを1回投与、CAMは200 mgを一回投与、透析日は透析後に投与します。透析例では薬物の血中濃度が高くなるため、副作用リスクが高まるからです。一方で、透析性のある薬物を透析前に投与すると、透析にてぬけてしまいますので、用量を減じた上で透析後に投与します。
1) Sheu BS, Huang JJ, Yang HB, Huang AH, Wu JJ. The selection of triple therapy for Helicobacter pylori eradication in chronic renal insufficiency. Aliment Pharmacol Ther 2003;17:1283-90.
2) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会. H. pylori感染の診断と治療のガイドライン 2016改訂版. 先端医学社 2016.
実際のところが気になったので、文献を検索しました。意外と少なくて…
以下にそれぞれのレジメンと除菌率をまとめました。
citation |
Digestion. 2018;97(2):163-169. |
Ren Fail. 2007;29(1):97-102. |
Clin Exp Nephrol. 2010 Oct;14(5):469-73. |
||
PMID |
29310119 | ||||
レジメン (1日用量) |
EPZ40mg CAM400mg AMPC1500mg |
EPZ40mg CAM400mg AMPC500mg |
LPZ60mg CAM400mg AMPC750mg |
LPZ60mg CAM400mg |
OPZ40mg CAM500mg AMPC500mg |
除菌率 (PP解析) |
77.8%(14/18) |
88.9%(16/18) |
72.7% (9/11?)※ |
33.3% (3/9) |
83.4% (10/12) |
備考 |
有害事象 通常用量群:22.2%(4/18) 低用量群:11.1%(2/18) |
両群に重篤な有害事象なし |
両群に重篤な有害事象なし |
※本文中には72.7%との記載と11人中9人除菌成功との記載あり
【全体を通して】
ガイドラインのQ&AにはPPIとCAMは半量に減量との記載がありますが、報告されている論文では、そのいずれもが減量されておりませんでした。有害事象は症例数が少ないので判断が難しいですが、高用量による有害事象はさほど気にしなくてもいいように思います。たしかに血中濃度は高まりそうですが。
問題はAMPCかと思いますが、文献によって投与量にばらつきがありますね。血中濃度は間違いなく増加すると思いますし、500mg/日でも十分に効果はありそうかなという印象です。