リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

便秘薬もろもろ‐3(5-HT4アゴニスト)

今回は5-HT4アゴニストの便秘への効果について取り上げます。

「慢性便秘症診療ガイドライン2017」を参考に、文献を2つ取り上げます。

 

Systematic review with meta-analysis: highly selective 5-HT4 agonists (prucalopride, velusetrag or naronapride) in chronic constipation.

(慢性便秘に対する高選択性5-HT4アゴニスト(prucalopride, velusetrag, naronapride))

Aliment Pharmacol Ther. 2014 Feb;39(3):239-53.
PMID: 24308797

 

【PECO】

P:慢性便秘症患者

E:高選択性5-HT4アゴニスト群

C:コントロール群

O:排便回数、患者評価の便秘QOL(PAC-QOL)、患者評価の症状(PAC-SYM)および有害事象

 

デザイン:ITT解析されたRCT(13試験(prucalopride;11件、velusetrag;1件、naronapride;1件))のメタ解析

評価者バイアス:二人の評価者が独立して行っている

出版バイアス:言語制限なし。Funnel Plotあるが、ネガティブデータが少ない?研究数が少なく判断が難しい。

元論文バイアス:RCTのメタ解析。ITT解析されている。

異質性バイアス:I²は90%前後のものがほとんどであり高め。ブロモグラフは概ね一致している。

 

Limitation:ほとんどの試験がprucalopride。高齢者1件のみ、ほとんどが若年&女性。

 

【結果】

〇平均3回/日以上の自発的完全排便(SCBM)(RR;95%CI)

E群 vs C群:708/2,574(27.5%) vs 234/1,362(17.2%);RR 1.85;95%CI 1.23-2.79;11試験;I²=89%;n=3,936

〇主要アウトカム【ベースラインのSCBMを平均週1回以上上回る】

E群 vs C群:1,201/2,574(46.7%) vs 419/1,362(30.8%);RR 1.57;95%CI 1.19-2.06;11試験;I²=89%;n=3,936

〇有害事象【12試験】

 全体:RR 1.25;95%CI:1.14–1.38

 頭痛:21.1% vs 13.0%;RR 1.77;95%CI:1.40–2.25

 下痢:13.35 vs 4.4%;RR 3.08;95%CI:2.31–4.09

 悪心:16.0% vs 7.0%;RR 2.19;95%CI:1.76–2.74

 腹痛:13.7% vs 9.5%;RR 1.41;95%CI:1.10–1.81

 

【考察】

 主要アウトカムはE群で改善が認められましたが、その差は10%とそんなに大きくない印象です。また、有害事象がやや多いような気がします。

本研究で含まれている5-HT4アゴニストは全て日本では発売されていないもので、その多くはprucaloprideでした。日本で発売されているモサプリドについての研究を探してみましたが、あまり質の高い研究はなく…一つだけ紹介します。

 

The effect of mosapride citrate on constipation in patients with diabetes.

(糖尿病患者の便秘に対するモサプリドの効果)

Diabetes Res Clin Pract. 2010 Jan;87(1):27-32.
PMID: 19889470

【PECO】

P:便秘の糖尿病患者

E:モサプリド(15mg/日、n=20)

C:ドンペリドン(30mg/日、n=12)(コントロール群)

O:排便の頻度、胃腸症状評価尺度(GSRS)

 

【結果】

・モサプリドの投与により、4週間および8週間の投与後に排便の頻度が増加したが、対照群では変化が見られなかった。

・モサプリドは、GSRSによって評価された逆流(性食道炎?)と便秘を改善した。

・血糖コントロールも改善された。

 

【考察】

アブストラクトのみしか読めないため、詳細が不明ではありますが、モサプリドは糖尿病患者の便秘を改善したようです。ただ、この試験ともう一つパーキンソン病患者への投与試験(PMID:15719424)がpubmed検索では見つかりましたがそれ以外の試験は見つからず、いずれも試験規模は小さく、あまり注目されてはいないのかなという印象です。

 

【全体を通して】

この分野の薬剤は日本で承認されているのはモサプリドだけですし、もちろん便秘の適応もありませんし、便秘の試験もほとんどないので、あまり注目されていない印象です。

モサプリドの適応のある消化器症状を合併した便秘であれば使用を考慮してもいいのではないかと思いますが、漫然投与は劇症肝炎に代表されるような肝障害のリスクと言われておりますので、使いどころが悩ましいです。今のところ、便秘改善目的に使用することはほとんどなさそうです。