今回はSSRIと出血リスクについて、個別の観察研究にてそれぞれの出血リスクの程度を考えたいと思います。
まずは消化管出血について
Use of SSRI, But Not SNRI, Increased Upper and Lower Gastrointestinal Bleeding: A Nationwide Population-Based Cohort Study in Taiwan.
(上部および下部消化管出血をSSRIは増やすがSNRIは増やさない)
Medicine (Baltimore). 2015 Nov;94(46):e2022.
PMID: 26579809
【PECO】
P:台湾の国民健康保険研究データベースに登録された人
E:セロトニン再取り込み阻害薬を服用している9753人の被験者(SSRIが8809人、SNRIが944人)
C:セロトニン再取り込み阻害薬を服用していない1:4の比率でマッチングされた39,012人
O:上部消化管および下部消化管リスク
デザイン:後ろ向きコホート研究
傾向スコアマッチングされているか:年齢、性別、登録日
調整された交絡因子:年齢、性別、基礎疾患、併用薬(NSAID、抗血小板薬、抗凝固薬を含む)
追跡期間の中央値: UGIB 5.06年(0.01–11.01年); LGIB 5.08年(0.01– 11.01年)
イベント発生率 |
対照群 |
SSRI群 |
SNRI群 |
上部消化管出血 |
1.72% |
2.22% |
1.06% |
下部消化管出血 |
1.02% |
1.83% |
0.42% |
【結果】
主要アウトカム(上部消化管および下部消化管リスク)
〇SSRI群 vs C群
上部消化管出血:HR 1.97;95%CI:1.67-2.31
下部消化管出血:HR 2.96;95%CI:2.46-3.57
〇SNRI vs C群
有意差なし(ハザード比の記載なし)
サブ解析
〇SSRI使用者における多変量解析(上部消化管出血リスク)
アスピリン併用 vs 併用なし:HR 1.66;95%CI:1.18-2.33
NSAID併用 vs 併用なし:HR 1.61;95%CI:1.19-2.17
〇SSRIの累積投与量別(DDD:defined daily doses)(HR(95%CI))
|
上部消化管出血 |
下部消化管出血 |
28-140 DDD vs control |
2.39(1.68-3.39) |
3.77(2.55-5.57) |
141-280 DDD vs control |
2.39(1.82-3.13) |
3.18(2.30-4.40) |
>280 DDD vs control |
1.71(1.39-2.10) |
2.71(2.15-3.41) |
※累積投与量別での差はなかったとのこと
【感想】
様々な解析の結果を載せましたが、サブ解析はおいといて…
主要アウトカムの上部消化管出血と下部消化管出血はリスクがSSRI群でリスクが高まりそうですがSNRI群はそうではなさそうです(SNRI群は症例が少なすぎる気もしますが)。
ただし、イベント発生率は平均5年間の追跡で1~2%とかなり低く、このリスクの上昇は気にしすぎなくてもいいように思います。
次は頭蓋内出血について
Association of Selective Serotonin Reuptake Inhibitors With the Risk for Spontaneous Intracranial Hemorrhage.
(SSRIと自然発生的頭蓋内出血リスクとの関連)
JAMA Neurol. 2017 Feb 1;74(2):173-180.
PMID: 27918771
【PECO】
P:イギリスの人口ベースのコホートのうち自然発生的頭蓋内出血を発症した3,036人と最大30人マッチングされた89,702人(平均66.6歳、男性39.6%)
E:SSRIの使用者
C:三環系抗うつ薬(TCA)の使用
O:自然発生的頭蓋内出血(ICH)の発症率
デザイン:コホート内症例対照研究(1:30でマッチング)
マッチング:年齢、性別、コホートへの登録年、フォローアップ期間
調整された交絡因子:Table1の各項目(並存疾患、BMI、喫煙歴、アルコール乱用、通院回数、抗凝固・抗血小板・NSAID・抗精神病薬の使用、疼痛)
平均追跡期間:5.8年
発生率:年間1万人当たり3.8(95%CI:3.7-3.9)
【結果】
主要アウトカム(自然発生的な頭蓋内出血(ICH)の発症率)
E群 vs C群:RR 1.17; 95%CI:1.02-1.35;絶対差:6.7人/10万人/年(95%CI:0.2-13.2)
サブ解析
〇投与開始からの期間(SSRI vs TCA)
30日以内:RR 1.44;95%CI:1.04-1.99
31-90日:RR 1.27;95%CI:0.93-1.72
>90日:RR 1.23;95%CI:0.96-1.58
〇セロトニン再取り込み阻害作用の強度別
Strong vs Weak:RR 1.25;95%CI:1.01-1.54;絶対差:9.5人/10万人/年(95%CI:(-0.5)-19.6)
Intermediate vs Weak:RR 1.13;95%CI:0.93-1.37
〇投与開始からの期間(セロトニン再取り込み阻害作用の強度別)
30日以内:RR 1.68;95%CI:0.90-3.12
31-90日:RR 1.14;95%CI:0.66-1.97
>90日:RR 1.12;95%CI:0.72-1.73
【感想】
本試験はTCAとの比較ですが、、、SSRI群で有意に頭蓋内出血が上昇しました。
しかし、本試験での発生率は年間1万人当たり3.8件ということで非常に低く、SSRIとTCAの絶対差も6.7人/10万人/年(95%CI:0.2-13.2)と低かったことから、そのリスクはあまり高くないように思いました。
また、セロトニン再取り込み阻害作用の強度別によるリスクも示唆されましたが、これも微々たるものなのかもしれません。
マッチングが1:30とかなり多いように思いますが、イベントの発生率が低いということでしょうか。
【全体を通して】
SSRIの使用にて消化管出血や頭蓋内出血のリスクは高まりそうですが、決して発生率が高くないので、それほど気にしなくていいように思います。
むしろ、SSRI単独で使われる時よりも抗凝固薬・抗血小板薬などの出血リスクのある薬剤との併用時に問題となってくるように思うので、次回はその辺りを調べたいと思います。