リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

【CQ】腎障害患者へのSGLT-2阻害薬投与は血糖コントロールを改善しますか?

腎機能障害のある患者へのSGLT-2阻害薬は、その作用機序から血糖降下作用が不十分と言われております。が、時々そのような患者への処方を見かけます。

さて、効果はあるのでしょうか…

今回は、それぞれの薬剤の腎障害患者を対象とした臨床試験の論文を読んでいきます。

(主要アウトカムとしてはHbA1cへの効果を、副次的アウトカムとしては、体重および収縮期血圧の変化をピックアップしました。)

 

まずはカナグリフロジン

Efficacy and Safety of Canagliflozin in Subjects With Type 2 Diabetes and Chronic Kidney Disease

(2型糖尿病&CKD患者へのカナグリフロジンの有効性と安全性)

Diabetes Obes Metab . 2013 May;15(5):463-73.

PMID: 23464594

 

【PECO】

P:2型糖尿病かつステージ3(30≦eGFR(mL/min/1.73m2<50))の慢性腎臓病患者(n=269)

E:カナグリフロジン100mg(n=90)または300mg(n=89)

C:プラセボ(n=90)

O:主要アウトカムー26週目におけるHbA1cの変化

   副次的アウトカムー体重、収縮期血圧の変化

 

デザイン:2重盲検RCT

ITT解析されているか?:mITT解析

脱落率:100mg群-17%、300mg群-8%、プラセボ群-14%

平均ベースライン:HbA1c-8.0%、年齢-68.5歳(男性-60%)、BMI-33、eGFR-39mL/min/1.73m2

 

【結果】

主要アウトカム【26週目におけるHbA1cの変化】

CANA100mg vs プラセボ:-0.30%;95%CI:-0.5 to -0.1

CANA300mg vs プラセボ:-0.40%;95%CI:-0.6 to -0.2

 

副次的アウトカム

〇体重

CANA100mg vs プラセボ:-1.4kg;95%CI:-2.1 to -0.7

CANA300mg vs プラセボ:-1.6kg;95%CI:-2.3 to -0.9

 

〇収縮期血圧

CANA100mg vs プラセボ:-5.7mmHg;95%CI:-9.5 to -1.9

CANA300mg vs プラセボ:-6.1mmHg;95%CI:-10.0 to -2.3

 

【考察】

HbA1cに関してはやや減少しているようですが、効果はそれほど大きくないようです。

 

 

次はダパグリフロジン

 

Long-term Study of Patients With Type 2 Diabetes and Moderate Renal Impairment Shows That Dapagliflozin Reduces Weight and Blood Pressure but Does Not Improve Glycemic Control 

(2型糖尿病および中等度の腎障害を有する患者を対象とした長期試験で、ダパグリフロジンは体重と血圧を低下させるが、血糖コントロールは改善しないことが示された)

Kidney Int . 2014 Apr;85(4):962-71.

PMID: 24067431

 

【PECO】

P:コントロールが不十分な2型糖尿病かつ中等度の腎機能障害(30≦eGFR(mL/min/1.73m2<60))を有する252例

E:ダパグリフロジン5mg(n=83)または10mg(n=85)

C:プラセボ(n=84)

O:主要アウトカムー24週後のHbA1cの平均変化量

   副次的アウトカムー体重変化、血圧変化

 

デザイン:2重盲検RCT

ITT解析されているか:FAS

脱落率:5mg群-14%、10mg-19%、プラセボ群-26%

平均ベースライン:年齢-67歳(男性-65%)、 HbA1c-5mg群8.3%,10mg群8.2%,プラセボ群8.5%、体重-5mg群95.2kg,10mg群93.2kg,プラセボ群89.6kg、平均eGFR-44mL/min/1.73m2

 

【結果】

主要アウトカム【24週後のHbA1cの平均変化量】

DAPA5mg vs プラセボ:-0.08%(±0.14);P=0.561

DAPA10mg vs プラセボ:-0.11%(±0.15);P=0.435

 

副次的アウトカム

〇ベースラインからの体重の変化量(24週後)

DAPA5mg:-1.34kg(±0.43)、DAPA:-1.72kg(±0.44)、プラセボ:+0.68kg(±0.45)

 

〇ベースラインからの収縮期血圧の変化(104週後)

DAPA5mg:-0.25mmHg(±18.30)、DAPA10mg:-2.51mmHg(±16.33)、プラセボ:+4.14mmHg(±14.07)

 

 なお、この研究では腎機能をeGFR45以上と未満で分けた解析も行われていました。↓

数値は各群のベースラインからの変化量です。

f:id:gacharinco:20200626193352p:plain

 

【考察】

ダパグリフロジンでは、中等度腎障害の患者におけるHbA1cへの効果は確認されませんでした。サブ解析では、eGFR≧45であれば効果は確認されたようです。逆に45未満ではベースラインとほとんど変わりがなかったようです。

 

 

続きまして、エンパレグフロジン

 

Efficacy and Safety of Empagliflozin Added to Existing Antidiabetes Treatment in Patients With Type 2 Diabetes and Chronic Kidney Disease: A Randomised, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial 

(2型糖尿病と慢性腎臓病患者における既存の糖尿病治療に追加されたエンパグリフロジンの有効性と安全性。無作為化二重盲検プラセボ対照試験)

Lancet Diabetes Endocrinol . 2014 May;2(5):369-84.

PMID: 24795251

 

【PECO】

P:2型糖尿病かつ、

①ステージ2のCKD患者(60≦eGFR(mL/min/1.73m2<90)(n=290)

ステージ3のCKD患者(30≦eGFR(mL/min/1.73m2<60)(n=374)

ステージ4のCKD患者(15≦eGFR(mL/min/1.73m2<30)(n=74)

E/C:

①エンパレグフロジン10mg(n=98),エンパレグフロジン25mg(n=97),プラセボ(n=95)

②エンパレグフロジン25mg(n=187),プラセボ(n=187)

③エンパレグフロジン25mg(n=37),プラセボ(n=37)

O:

主要アウトカムー24週目のHbA1cのベースラインからの変化

副次的アウトカムー体重変化、血圧変化、有害事象

 

デザイン:2重盲検RCT

ITT解析されているか?:FAS

脱落率(52週):①EMPA10mg-10%、EMPA8人-8%、プラセボ-8%、②EMPA25mg-12%、プラセボ-11%、③EMPA25mg-32%、プラセボ-30%

 

ベースライン

①体重88.7kg,BMI31.5,HbA1c8.0,年齢62歳,男61%,eGFR72mL/min/1.73m2

②体重82.9kg,BMI30.2,HbA1c8.0,年齢65歳,男57%,eGFR45mL/min/1.73m2

③体重81.0kg,BMI30.4,HbA1c8.1,年齢64歳,男54%,eGFR23mL/min/1.73m2

 

【結果】

主要アウトカム【24週目のHbA1cのベースラインからの変化】

①EMPA10mg vs プラセボ:-0.52%(-0.72 to -0.32)

 EMPA25mg vs プラセボ:-0.68%(-0.88 to -0.49)

②EMPA25mg vs プラセボ:-0.42%(-0.56 to -0.28)

③EMPA25mg vs プラセボ:+0.22%(有意差なし)(95%CIの記載なし)

 

副次的アウトカム

 

〇体重変化

①EMPA10mg vs プラセボ:-1.43kg(-2.09 to -0.77)

 EMPA25mg vs プラセボ:-2.00kg(-2.66 to -1.34)

②EMPA25mg vs プラセボ:-0.91kg(-1.41 to -0.41)

③EMPA25mg vs プラセボ:-1.3kg(95%CIの記載なし)

 

〇収縮期血圧

①EMPA10mg vs プラセボ:-3.6mmHg(-6.9 to -0.3)

 EMPA25mg vs プラセボ:-5.1mmHg(-8.4 to -1.8)

②EMPA25mg vs プラセボ:-4.3mmHg(-7.0 to -1.5)

③EMPA25mg vs プラセボ:-8.6mmHg(95%CIの記載なし)

 

 【考察】

この研究はステージ4のCKD患者(15≦eGFR(mL/min/1.73m2<30)に対しても投与され、評価されておりました。(①,②の結果はIFにも載っています。③は載っておらず、論文を取り寄せました。)

さて結果は、②のステージ3のCKD患者ではエンパレグフロジン投与にてプラセボと比較しての有意なHbA1cの減少が認められました。一方、③のステージ4の患者では減少は認められませんでした。脱落が多いのが試験デザインとしては気になるところですが。

 

 

日本では現在のところ他に、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、ルセオグリフロジンが発売されていますが、ややマイナー(失礼かもしれませんが)なので、それらの腎障害患者への効果は、IFを貼り付けておきます。試験デザイン等はIFをご確認ください。

(3剤とも対象は中等度腎機能低下者(30≦eGFR(mL/min/1.73m2<60)

イプラグリフロジン

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トホグリフロジン

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ルセオグリフロジン

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【全体を通して】

やはり腎障害のある患者では、SGLT-2阻害剤のHbA1cへの効果はさほど期待できないという印象です。eGFRが低下すればするほど効果は出にくいように感じました。薬剤によって多少結果が違いますので、もしかすると薬剤間に差があるのかもしれません。

腎障害患者では内服の薬剤の選択肢が少ないですね。。。