今回は【アスピリン】と【NSAID】についての論文を。
抗炎症作用による認知症予防効果が期待されていたようですが果たして…
まずは最新のコクランレビューを。
Aspirin and Other Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs for the Prevention of Dementia
(認知症の予防のためのアスピリンおよび他の非ステロイド性抗炎症薬の服用)
Cochrane Database Syst Rev . 2020 Apr 30;4(4):CD011459.
PMID: 32352165
→認知症の一次予防または二次予防を目的とした、アスピリンまたは他のNSAIDsとプラセボを比較した以下の4件のRCT(アスピリン1件、その他のNSAIDs3件)が含まれたが、条件の違いにてメタ解析はなされず。
- 認知症、心血管疾患、身体障害の既往歴のない70歳以上の高齢者を対象に、低用量アスピリン(100mg 1日1回)とプラセボを比較し、認知症予防効果を検証した試験(n=19,114)
- アルツハイマー病(AD)の家族歴を持つ認知機能の正常な健康な高齢者を対象に、COX-2阻害薬であるセレコキシブ(200mg 1日2回)と非選択的NSAIDであるナプロキセン(220mg 1日2回)の認知症予防効果を検証した試験(n=2,528)
- 軽度の加齢性記憶障害を有するが記憶力スコアは正常な40~81歳の参加者を対象に、認知機能の低下を遅らせるセレコキシブ(1日200mgまたは400mg)の有効性を検証した試験(n=88)
- MCIを有する参加者におけるCOX-2阻害薬ロフェコキシブ(25mg 1日1回)のADの診断の遅延または予防に対する有効性を検証した試験(n=1,457)
⇒n数の少ない③を除いた3件をこれから紹介していきます。
まずは【アスピリン】について。
Randomized Placebo-Controlled Trial of the Effects of Aspirin on Dementia and Cognitive Decline
(アスピリンの認知症および認知機能低下に対する効果のプラセボ対照RCT)
Neurology. 2020 Mar 25. pii: 10.1212/WNL.0000000000009277.
PMID: 32213642
【PECO】
P:米国とオーストラリアの、70歳以上(米国の少数民族は65歳以上)の地域居住者19,114人(心血管疾患、身体障害、認知症患者は除外)
E:アスピリン100mg
C:プラセボ
O:全ての認知症、アルツハイマー病(AD)、軽度認知障害(MCI)の発症
デザイン:2重盲検RCT
追跡期間の中央値:4.7年
【結果】
全ての認知症:ハザード比[HR] 1.03;95%CI:0.91-1.17
AD(疑い):HR 0.96;95%CI:0.74-1.24
MCI:HR 1.12;95%CI:0.92-1.37
※575人が認知症と診断され、そのうち41%がADの可能性が高いと診断された。
(参考)先のコクランレビューに記載があった事項
大出血の発生率:RR 1.37;95%CI:1.17-1.60
死亡率:RR 1.14;95%CI:1.01-1.28
【考察】
アブストラクトのみしか読めず。
認知症発症に関する全ての評価項目において両群に差は認められず。
また、コクランレビューには大出血の発生率および死亡率にてアスピリン群で有意に高かったとの記載あり。
有害事象のリスクが高まる恐れもあるようなので、認知症発症抑制目的での使用は推奨されない。
次は【NSAID】についての1つ目
※こちらでは上記で紹介した②のフォローアップ試験を取り上げます。
Results of a Follow-Up Study to the Randomized Alzheimer's Disease Anti-inflammatory Prevention Trial (ADAPT)
(無作為化アルツハイマー病抗炎症予防試験(ADAPT)のフォローアップ試験の結果)
Alzheimers Dement . 2013 Nov;9(6):714-23.
PMID: 23562431
【PECO】
P:アルツハイマー病の家族歴のある70歳以上の男女(n=2,528)
E:セレコキシブ(200mgを1日2回)(n=726)、ナプロキセンナトリウム(220mgを1日2回)(n=719)
C:プラセボ(n=1,083)
O: 認知症の発症率
デザイン:ランダム化二重盲検化学予防(chemoprevention;薬剤を積極的に摂取する ことにより癌を予防すること)試験
ITT解析されているか?:FAS
脱落率:セレコキシブ群41%、ナプロキセン群38%、プラセボ群39%
追跡期間:約7年
ベースライン:平均年齢74歳、アスピリン使用56%
追跡期間(服薬中止の中央値):セレコキシブ群546日、ナプロキセン群520日、プラセボ群544日←フォローアップ前の試験(PMID: 18474729)より
Limitation:NSAIDの投与期間が短い、脱落が多い、約1割が登録前にNSAIDを服用していた
【結果】
主要アウトカム【認知症発症率】
それぞれの薬剤群の認知症発症率
→セレコキシブ48件(6.6%)、ナプロキセン43件(6.0%)、プラセボ70件(6.5%)
セレコキシブ vs プラセボ:aHR 1.03;95%CI:0.72-1.50
ナプロキセン vs プラセボ:aHR 0.92;95%CI:0.62-1.35
副次的アウトカム
〇死亡率
それぞれの薬剤群の死亡率
→セレコキシブ110例(15.2%)、ナプロキセン96例(13.4%)、プラセボ143例(13.2%)
セレコキシブ vs プラセボ:aHR 1.15;95%CI:0.90-1.48
ナプロキセン vs プラセボ:aHR 0.99;95%CI:0.76-1.28
【考察】
イベント数が少なく、やや95%CIが広くなっておりますが、NSAID服用による認知症リスクの低下は認められず。Limitationにあるように薬剤の服用期間は短いですが、長くしても有害事象が増えるだけな気がするので、検討しなくてもいいのではないかと。
最後に【NSAID】のもう一つの試験を
A Randomized, Double-Blind, Study of Rofecoxib in Patients With Mild Cognitive Impairment
(軽度認知障害患者を対象としたロフェコキシブの無作為化二重盲検試験)
Neuropsychopharmacology . 2005 Jun;30(6):1204-15.
PMID: 15742005
【PECO】
P:65歳以上の軽度認知機能障害(MCI)患者(n=1,457)
E:ロフェコキシブ25mg(n=725)
C:プラセボ(n=732)
O:ADの臨床診断を受けた患者の割合
デザイン:2重盲検化ランダム化比較試験
ITT解析されているか?:されている
脱落率:ロフェコキシブ群45%、プラセボ群40%
追跡期間(試験参加期間の中央値):ロフェコキシブ群115週、プラセボ群130週、最長4年
追跡期間(患者が試験薬を服用した期間の中央値):ロフェコキシブ群94週間、プラセボ群105週間
ベースライン:平均年齢75歳、女性30%
Limitation:客観的なMCIの診断基準が確立していない事
【結果】
主要アウトカム【ADの臨床診断を受けた患者の割合】
ロフェコキシブ群 vs プラセボ群:6.4% vs 4.5%;HR 1.46;95%CI:1.09-1.94
副次的アウトカム
〇ADAS-Cog、CDR等の各スコア、有害事象にはほとんど差はなし
【考察】
ロフェコキシブ群にてむしろ認知症は増える傾向に。残念ながら予防効果は示されず…
【全体を通して】
アスピリンおよびNSAIDによる認知症予防効果は示されず…
それぞれLimitationはあると思いますが、さすがにこれだけ揃うと期待薄かなという気がします。有害事象のリスクもありますので。