今回は黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤の脳梗塞等のリスクについての論文をみていきたいと思います。
前回分(前兆のある偏頭痛患者への黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤の使用について-1)はこちらからどうぞ↓
前兆のある偏頭痛患者への黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤の投与禁忌理由について、各薬剤の添付文書で参考とされているのは以下の2つです。
①MacGregor EA, et al. Br J Fam Plann. 1998; 24: 55-60.(PMID: 9719712)
②Becker WJ, Neurology. 1999; 53: S19-S25.(PMID: 10487509)
これらはさすがに古すぎるので、私の独断と偏見で選んだできるだけ新しくて有益そうな論文を5つ紹介していきます。
まずはコクランレビューを2つ。
コクランレビュー1つ目(心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク)
Combined oral contraceptives: the risk of myocardial infarction and ischemic stroke
(複合経口避妊薬:心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク)
Cochrane Database Syst Rev . 2015 Aug 27;2015(8):CD011054.
PMID: 26310586
【PECO】
P:18~50歳の女性
E:複合経口避妊薬(COC)の服用
C:COCの非服用
O:心筋梗塞および虚血性脳卒中のリスク
デザイン:観察研究のメタ解析(24研究,28報)
評価者バイアス:2名の独立したレビュワーで抽出
出版バイアス:言語制限なし。Funnel Plotあり、問題なし
元論文バイアス:観察研究のメタ解析
異質性バイアス:メインの結果のI2=78.3%。薬剤がそれぞれで異なるためか?
【結果】
主要アウトカム
心筋梗塞または虚血性脳卒中:相対リスク(RR) 1.6;95%CI 1.3-1.9;I2=78.3%;27試験
心筋梗塞:RR 1.6;95%CI:1.2-2.1
虚血性脳卒中:RR 1.7;95%CI:1.5-1.9
卵胞ホルモンの世代別(vs未使用)(心筋梗塞または虚血性脳卒中のリスク)
第一世代:RR 1.2;95%CI:0.8-1.9;I2=69.4%;7試験
第二世代:RR 1.1;95%CI:0.8-1.7;I2=82.0%;8試験
第三世代:RR 1.1;95%CI:0.7-1.7;I2=79.9%;6試験
エストロゲンの用量別(vs 未使用)(心筋梗塞または虚血性脳卒中のリスク)
20μg:RR 1.6;95%CI:1.4-1.8;I2=0%;2試験
30-40μg:RR 2.0;95%CI:1.4-3.0;I2=50.4%;2試験
50μg以上:RR 2.4;95%CI:1.8-3.3;I2=29.6%;7試験
【考察】
COCの服用にて心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスク上昇が認められました。
卵胞ホルモンの世代別による差は認められなかったですが、エストロゲンの用量は多いほうが心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスクが高まる傾向が認められました。
コクランレビュー2つ目(静脈血栓症のリスク)
Combined oral contraceptives: venous thrombosis
【PECO】
P:COCを服用している健康な女性および服用していない女性
E:COCの服用
C:COCの非服用
O:静脈血栓症(VT)(深部静脈血栓症および肺塞栓症)のリスク
デザイン:観察研究のネットワークメタ解析(25研究,26報)
評価者バイアス:2名の独立したレビュワーで抽出
出版バイアス:言語制限なし。Funnel Plotは作成できず(それぞれの研究の条件にばらつきがあったため)
【結果】
主要アウトカム(C群 vs E群)(メタ解析)
経口避妊薬の使用によるリスク上昇:RR 3.5;95%CI:2.9-4.3;15試験
※COC未使用者の静脈血栓発症頻度:0.19人/1000人年および0.37人/1000人年(2つの報告より)
世代別のリスク(ネットワークメタ解析)
1世代 vs 未使用:RR 3.2;95%CI:2.0-5.1
2世代 vs 未使用:RR 2.8;95%CI:2.0-4.1
3世代 vs 未使用:RR 3.8;95%CI:2.7-5.4
1世代 vs 2世代:RR 0.9;95%CI:0.6-1.4
1世代 vs 3世代:RR 1.2;95%CI:0.8-1.9
2世代 vs 3世代:RR 1.3;95%CI:1.0-1.8
薬剤別(vs 未使用)(ネットワークメタ解析より)
【考察】
COCの使用により静脈血栓症のリスクは2-3倍に高まりそうです。しかし、そもそも発症率が低く、そこまで影響はないのかもしれません。
世代による差はあまりないか、3世代でわずかにリスクは高い可能性がありそうです。
次に有名ジャーナルのコホート研究2つを見ていきます。
まずはNEJMから
Thrombotic stroke and myocardial infarction with hormonal contraception
【PECO】
P:デンマークの心血管疾患やがんの既往のない15歳から49歳の非妊婦(n=1,626,158、14,251,063人年)
E:エチニルエストラジオールを30〜40μgおよび20μgを含む経口避妊薬の現在の使用
C:非使用
O:血栓性脳卒中と心筋梗塞のリスク
デザイン:後ろ向きコホート研究
調整された交絡因子:年齢、教育レベル、暦年、リスク因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症、不整脈、喫煙)
【結果】
主要アウトカム(エチニルエストラジオールの用量別の血栓性脳卒中および心筋梗塞リスク)(E群 vs C群)(※イベントが20件以上発生した成分のみピックアップ)
服用期間別
デンマークの1995-2009年にかけての血栓性脳卒中と心筋梗塞の発生率
【考察】
卵胞ホルモンであるエチニルエストラジオールが含まれる経口避妊薬の服用にて有意に血栓性脳卒中や心筋梗塞のリスクが増加し、さらに高用量の方がリスクは高まる傾向にあるようです。
服用期間による差はあまりないような印象です。
またデンマークの血栓性脳卒中や心筋梗塞の発症リスクも紹介されておりましたが、年齢が上がるにつれて発症率が上昇することが見てとれました。若い世代での発症率はかなり低いといえそうです。
次はBMJから
(フランス人女性500万人における低用量エストロゲン含有経口避妊薬と肺塞栓症、脳卒中、心筋梗塞のリスク:コホート研究)
P:低用量エストロゲン含有経口避妊薬処方歴のあるフランス人女性(5,443,916人年のコホート)
E:低用量エストロゲン(20μg)処方
C:低用量エストロゲン(30-40μg)処方
O:肺塞栓症、脳卒中、心筋梗塞のリスク
デザイン:後ろ向きコホート
除外:がん、肺塞栓症、虚血性脳卒中、心筋梗塞による入院歴あり
平均年齢:28歳
調整した交絡因子:年齢、国民健康保険の補完、医学的危険因子、前年度の婦人科受診、黄体ホルモンの種類(エストロゲンの投与量)、黄体ホルモンの投与量(黄体ホルモンの種類)
Limitation:使用期間不明、新規の使用者はより新しい薬を使用している可能性
【結果】
主要アウトカム(肺塞栓症、脳卒中、心筋梗塞のリスク)(E群 vs C群)
黄体ホルモンの種類別のリスク
【結果】
肺塞栓症、脳卒中、心筋梗塞のリスクは卵胞ホルモンの用量の少ないほうが有意に低くなっておりました。黄体ホルモンの種類別では、特に肺塞栓において2世代のレボノルゲステルより3世代のデゾゲストレルやゲストデンの方が、リスクが高くなっておりました。
最後に、偏頭痛の前兆の有無と経口避妊薬の有無における脳卒中リスクを検討したコホート内症例対照研究を見ていきます。
Use of combined hormonal contraceptives among women with migraines and risk of ischemic stroke
(片頭痛を有する女性における経口避妊薬の使用と虚血性脳卒中のリスク)
P: 2006年から2012年に初発の脳卒中を発症した15-49歳の女性
E:①経口避妊薬あり+前兆のある偏頭痛
②経口避妊薬あり+前兆のない偏頭痛
③経口避妊薬なし+前兆のある偏頭痛
④経口避妊薬なし+前兆のない偏頭痛
C:経口避妊薬&偏頭痛なし
O:虚血性脳卒中のリスク
デザイン:コホート内症例対象研究(1:4)
マッチング:年齢、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、虚血性心疾患、心臓弁膜症
【結果】
主要アウトカム【経口避妊薬の服用および偏頭痛の前兆有無別の虚血性脳卒中のリスク】
その他のリスク因子の解析
前兆のある偏頭痛(vs 偏頭痛なし):aOR 2.89;95%CI:2.16-3.88
前兆のない偏頭痛(vs 偏頭痛なし):aOR 2.08;95%CI:1.75-2.48
経口避妊薬の使用(vs 使用なし,過去の使用) :aOR 1.34;95%CI:1.13-1.59
肥満:aOR 1.30;95%CI:1.08-1.58
喫煙:aOR 2.59;95%CI:2.05-3.25
高血圧:aOR 2.63;95%CI:2.31-3.01
糖尿病:aOR 2.78;95%CI:2.30-3.35
虚血性心疾患:5.49;95%CI:3.97-7.59
【考察】
偏頭痛の前兆の有無および経口避妊薬の服用有無を考慮すると、やはりいずれもがある場合に虚血性脳卒中のリスクが増加することが分かりました(95%信頼区間の幅が広いので解釈に注意が必要です)。またその他のリスク因子として、肥満、喫煙、高血圧、糖尿病、虚血系心疾患も有意に虚血性脳卒中のリスクが高くなっておりました。
【全体を通して】
全体的に研究の質はさほど高くない印象もありますが、概ねのことを理解するには十分なように思います。
黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤の服用者では非服用者と比較して脳卒中等のリスクは高まりそうですし、偏頭痛があることもリスクを高めそうです。また、偏頭痛は前兆がある方がリスクを高めそうです。そして黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤の使用かつ前兆のある偏頭痛の場合はさらにリスクが高まりそうです。
しかし、そのリスクは卵胞ホルモンであるエチニルエストラジオールの配合量が少なくかつ黄体ホルモンとして1,2世代を含むものであればそのリスクは最小限に抑えられそうです。
また年齢が若ければその発症リスクはかなり低いですし、肥満、喫煙、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患の有無も関連しそうです。
前兆のある偏頭痛患者に黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤が禁忌であることが前提ではありますが、処方が必要な方もいらっしゃるかと思います。脳梗塞等の発症リスクが低い患者においてはリスクを伝えた上で使用を考慮してもよいかもしれません。