先日こんな疑義照会がありました。
「黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤が処方された患者さんなのですが、前兆のある偏頭痛があり、時々トリプタン製剤を使用されております。この薬剤は前兆のある偏頭痛に禁忌なのですが…」
知らなかった!
ルナベル配合錠の添付文書より
前兆(閃輝暗点、星型閃光等)を伴う片頭痛の患者[前兆を伴う片頭痛の患者は前兆を伴わない患者に比べ脳血管障害(脳卒中等)が発生しやすくなるとの報告がある。]
ということで少し調べてみました。
どうやら、
①前兆のある偏頭痛患者は脳血管疾患のリスクを高める
②黄体ホルモン製剤は脳血管疾患のリスクを高める
⇒前兆のある偏頭痛患者への黄体ホルモン製剤の使用は脳血管疾患のリスクをさらに高める
ということのようです。
「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」に「前兆のある偏頭痛の有病率」の記載があります。(なお、慢性頭痛の診療ガイドラインは2021年版が発表されておりますが、フリーで読めないため2013年版を引用しております。)
一般的に前兆はあるものだと思っていたので、意外と少ないんだなと感じました。
また、同ガイドラインのCQ「偏頭痛は脳梗塞の危険因子か?」には以下のような記載があります。
さらに、CQ「偏頭痛患者における低用量経口避妊薬の使用は安全か」には以下のように記載されております。
以下に現在、月経困難症に保険適応のある代表的な薬剤をまとめます。
※黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤には保険適応のない経口避妊薬もありますが、今回は割愛します。
さて、これからいくつか論文を紹介していきます。
まずは偏頭痛と脳心血管イベントとの関連を検討したコホート研究のメタ解析をみていきます。
(偏頭痛と心血管および脳血管イベントのリスク:1,152,407人を含む16のコホート研究のメタ解析)
BMJ Open . 2018 Mar 27;8(3):e020498.
PMID: 29593023
【PECO】
P:それぞれの研究に含まれた偏頭痛患者および非偏頭痛患者
E:偏頭痛患者394,942名
C:非偏頭痛患者757,465名
O:主要心血管・脳血管イベント(MACCE)、脳梗塞(虚血性、出血性、非特定)、心筋梗塞、全死因死亡率
デザイン:観察研究のメタ解析
評価者バイアス:2つの独立したグループで抽出
出版バイアス:言語制限なし。Funnel Plotあり、特に問題なさそうだが研究数が少ないアウトカムもあり
元論文バイアス:観察研究のメタ解析
異質性バイアス:アウトカムによってはI2が大きくなっているものもチラホラあり
【結果】
主要アウトカム(C群 vs E群)
MACCE:aHR 1.42;95%CI:1.26-1.60;I2=40%;4試験
脳梗塞:aHR 1.42;95%CI:1.25-1.61;I2=71.6%;13試験
心筋梗塞:aHR 1.23;95%CI:1.03-1.43;I2=59%;7試験
総死亡:aHR 0.93;95%CI:0.78-1.10;I2=91.2%;6試験
前兆の有無による各アウトカムのリスク
脳梗塞(前兆のある偏頭痛):aHR 1.56;95%CI:1.30-1.87;I2=39.1%;6試験
脳梗塞(前兆のない偏頭痛):aHR 1.11;95%CI:0.94-1.31;I2=26.6%;5試験
総死亡(前兆のある偏頭痛):aHR 1.20;95%CI:1.12-1.30;I2=0%;2試験
総死亡(前兆のない偏頭痛):aHR 0.96;95%CI:0.86-1.07;I2=53.2%;2試験
【考察】
主要アウトカムではMACCEおよび脳梗塞、心筋梗塞のリスクが高くなっておりました。また、前兆の有無別では脳梗塞及び総死亡で前兆のある偏頭痛のみ有意差がついております。
総死亡は試験数が少ないので明確ではないかもしれませんが、脳梗塞に関してはブロモグラムも概ね一致しているので、この程度のリスクの差はあるのかなという印象です。
今回はここまで。
続き(前兆のある偏頭痛患者への黄体ホルモン/卵胞ホルモン配合製剤の使用について-2)は以下からどうぞ↓