先日、日本環境感染学会から医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版が発行されました。
いくつかの改訂ポイントがありましたが、その中の一つとして「帯状疱疹ワクチン」が追加となりました。
現在本邦で承認されている帯状疱疹ワクチンは以下の2種類です。
①乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」
②乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(不活化ワクチン)「シングリックス筋注用」
①は一般的な水痘ワクチンと同じです。
②のシングリックスは比較的最近の2018年に承認されましたね。
接種の対象は、「50歳以上の成人」となっております。
帯状疱疹ワクチンについては一度論文を読まないといけないと思っておりましたので、この機会に読んでみることとしました。
その前に、帯状疱疹の本邦における疫学を前述のガイドラインより引用して紹介します。
わが国における帯状疱疹の頻度は、宮崎県での調査(1997~2011 年)によれば、全世代での罹患率は 4.38/千人・年で、年齢別の罹患率は 50 歳未満では 3.0/千人・年以下だが、50 代以降は上昇し 70 代でピーク(男女ともに約 8.0/千人・年)となった。 50 歳以上の成人を対象とした香川県の島における調査(2009~2012 年)では、罹患率は 10.9/千人・ 年であった。同調査での再発率については、登録時に帯状疱疹罹患歴が確認された 50 歳以上の者 1,018 名のうち、31 名(3.0%)が観察調査期間中(中央値 3.09 年)に帯状疱疹を発症した。
また医療関係者がワクチンを接種することの意義は、患者の「帯状疱疹」を介して「水痘」を感染させるリスクがあるためですが、それについては以下のように記載されております。
帯状疱疹の患者は、皮疹が出現してから痂皮とな るまでの期間は感染源となる。帯状疱疹患者は、水痘患者と比べて周囲への感染力は弱いとされる。 感受性のある家族内接触者への感染を検討した調査があり、水痘患者からは 71.5% の頻度で感染が報告されたのに対して、帯状疱疹患者からは 15.5% の頻度であった。一方、わが国の水痘入院例の全数サー ベイランス報告(2014 年第 38 週~2017 年第 52 週)では、326 例(報告数全体の 29.9%)で推定感染源 が報告され、そのうち 104 例(31.9%)は帯状疱疹 患者であった。すなわち、帯状疱疹患者も水痘の感染源として十分な注意が必要と考えられる。オース トラリアでは、水痘ワクチン定期接種導入後に水痘の流行抑制に伴い帯状疱疹患者の増加が報告されており、帯状疱疹は今後さらに注意すべき感染源である。
それでは帯状疱疹ワクチンの効果を検討した論文を紹介していきます。
今回は4つ選びました。
まずは「生ワクチンの効果」について
A vaccine to prevent herpes zoster and postherpetic neuralgia in older adults
P:60歳以上の成人38,546人
E:Oka/Merck VZV 弱毒化生ワクチン(帯状疱疹ワクチン)投与(n=19,270)
C:プラセボ投与(n=19,276)
O:帯状疱疹による疾病負荷(関連する疼痛や不快感の発生率,重症度,および持続期間の影響を受けるもの)
※帯状疱疹の確定診断を受けた患者計 957 例(ワクチン群 315 例,プラセボ群 642 例)および帯状疱疹後神経痛患者 107 例(ワクチン群 27 例,プラセボ群 80 例)を有効性解析に組み入れた
副次的アウトカム:帯状疱疹後神経痛、帯状疱疹
デザイン:二重盲検プラセボ対象RCT
ITT解析されているか?: modified ITT解析
脱落率:E群4.7%、C群4.8%
追跡期間の中央値:3.12年
主要アウトカム(帯状疱疹による疾病負荷:BOI score)
2.21 vs 5.68;VE(Vaccine Efficacy)BOI 61.1%(95%CI:51.1–69.1)←BOI score61.1%減
〇年齢別
60-69歳:1.50 vs 4.33;VEBOI 65.5%(95%CI:51.5–75.5)
70歳以上:3.47 vs 7.78;VEBOI 55.4%(95%CI:39.9-66.9)
副次的アウトカム(1000人/年あたりの帯状疱疹後神経痛の発生率)
E群 vs C群:0.46 vs 1.38;VEPHN 66.5%(95%CI:47.5-79.2)
〇年齢別
60-69歳:0.26 vs 0.74;VEPHN 65.7%(95%CI:20.4-86.7)
70歳以上:0.71 vs 2.13;VEPHN 66.8%(95%CI:43.3-81.3)
副次的アウトカム(1000人/年あたりの帯状疱疹発症率)
E群 vs C群: 5.42 vs 11.12;VEHZ 51.3%(95%CI:44.2-57.6)
→NNT:175
有害事象(E群 vs C群;リスク差(95%CI))
〇1つ以上の重篤な有害事象:1.9% vs 1.3%;0.7(0.1-1.3)
〇1つ以上の有害事象:58.1% vs 34.4%;23.7%(21.3-26.0)
〇1つ以上の全身性有害事象:24.7% vs 23.6%;1.0%(-1.0 to 3.1)
〇一つ以上の注射部位反応:48.3% vs 16.6%;31.7%(28.3-32.6)
【感想】
プラセボと比較すると生ワクチン効果は十分に期待できそうです。
BOIscoreについてはうまく理解できませんでしたので、気になった方は本文をご確認ください。
有害事象はある程度発生しそうですが、許容できるの範囲なのかということですね。
次は「不活化ワクチン」についての論文を。
Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults
P:50歳以上の高齢者15,411人(年齢(50~59歳,60~69歳,70歳以上)で層別化)
E:帯状疱疹不活化ワクチン(HZ/su)を2ヵ月間隔で2回筋注(n=7,698)
C:プラセボを2か月間隔で2回筋注(n=7,713)
O:帯状疱疹発症
デザイン:二重盲検RCT
平均追跡期間:3.2年
ITT解析されているか?:modified ITT解析
脱落率:E群4.7%、C群3.8%
【結果】【E群 vs C群】
主要アウトカム(1000人/年あたりの帯状疱疹発症)
全患者:0.3 vs 9.1;有効率 97.2%(95%CI:93.7-99.0)
→NNT:113
50-59歳:0.3 vs 7.8;有効率 96.6%(95%CI:89.6-99.3)
60-69歳:0.3 vs 10.8;有効率 97.4%(95%CI:90.1-99.7)
70-79歳:0.2 vs 9.4;有効率 97.9%(95%CI:87.9-100.0)
有害事象
〇ワクチン接種後7日以内の非自発報告または自発報告:84.4%(83.3-85.5) vs 37.8%(36.4-39.3)
〇同グレード3:17.0%(15.9-18.2) vs 3.2%(2.7-3.8)
〇注射部位反応の自発報告:81.5%(80.3-82.6) vs 11.9%(11.0-12.9)
痛み(79.1% vs 11.2%)、発赤(38.0% vs 1.3%)、腫れ(26.3 vs 1.1%)、グレード3:9.5% vs 0.4%)
〇全身性副作用の自発報告:66.1%(64.7-67.6) vs 29.5%(28.2-30.9)
筋肉痛(46.3% vs 12.1%)、倦怠感(45.9% vs 16.6%)、頭痛(39.2% vs 16.0%)、震え:28.2% vs 5.9%)、発熱(21.5% vs 3.0%)、グレード3(11.4% vs 2.4%)
【考察】
90%以上の帯状疱疹発症抑制効果が認められております。かなり高い効果ですね。
気になるのは有害事象ですが、多くのケースで発生が認められております。グレード3もそれなりの数で認められているように思います。
もう一つ「不活化ワクチン」の論文を。こちらは、先ほどの70歳以上での効果を検討した論文です。
Efficacy of the Herpes Zoster Subunit Vaccine in Adults 70 Years of Age or Older
P:70歳以上の成人(n=13,900)
E:帯状疱疹不活化ワクチン(HZ/su)を2ヵ月間隔で2回筋注(n=6,950)
C:プラセボを2か月間隔で2回筋注(n=6,950)
O:帯状疱疹発症
デザイン:二重盲検RCT
平均追跡期間:3.7年
ITT解析されているか?:modified ITT解析
脱落率:E群5.9%、C群4.7%
主要アウトカム【1000人/年あたりの帯状疱疹発症】
全体:0.9 vs 9.2;ワクチン有効率 89.8%(84.2%-93.7%)
→NNT:120
70-79歳:0.9 vs 8.8;ワクチン有効率 90.0%(83.5%-94.4%)
80歳以上:1.2 vs 11.0;ワクチン有効率 89.1%(74.6%-96.2%)
ワクチン接種後の7日以内の有害事象
〇注射部位反応および全身反応に関する非自発的な報告: 79.0%(75.2–82.5) vs 29.5%(25.6–33.7)
グレード3:11.9%(9.2–15.0) vs 2.0%(1.0–3.6)
〇注射部位反応:74.1%(70.0–77.8) vs 9.9%(7.4–12.8)
痛み(68.7% vs 8.5%)、発赤(39.2% vs 1.0%)、腫れ(22.6% vs 0.4%)、グレード3(8.5% vs 0.2%)
〇全身反応:53.0%(48.5–57.4) vs 25.1%(21.4–29.2)
倦怠感(32.9% vs 15.2%)、筋肉痛(31.2% vs 8.1%)、頭痛(24.6% vs 10.9%)、震え:14.9% vs 4.4%)、発熱(12.3% vs 2.6%)、グレード3(6.0% vs 2.0%)
【考察】
有効率はおおよそ90%となっております。年齢による差はさほどなさそうな印象です。
やはり有害事象はある程度致し方ないのでしょうか。
さて、この論文にはZOE-70試験の結果だけでなく、前述のZOE-50試験と、このZOE-70試験の結果とを合わせた解析も記載されていますので、以下でそれを紹介していきます。
【PECO】(ZOE-70試験+ ZOE-50試験)
P:50歳以上の高齢者(n=15,411)(ZOE-50試験)+70歳以上の成人(n=13,900)(ZOE-70試験)
E:帯状疱疹不活化ワクチン(HZ/su)を2ヵ月間隔で2回筋注(ZOE-50試験:n=7,698,ZOE-70試験n=6,950)
C:プラセボを2か月間隔で2回筋注(ZOE-70試験:n=7,713,ZOE-70試験:n=6,950)
O:帯状疱疹発症
副次的アウトカム:帯状疱疹後神経痛
デザイン:二重盲検RCT
平均追跡期間:3.7年
ITT解析されているか?:modified ITT解析
脱落率:E群5.9%、C群4.7%
【結果】【E群 vs C群】
主要アウトカム【1000人/年あたりの帯状疱疹発症】
全体:0.8 vs 9.3;ワクチン有効率 91.3%(86.8% vs 94.5%)
→NNT:119
70-79歳:0.8 vs 8.9;ワクチン有効率 91.3%(86.0% vs 94.9%)
80歳以上:1.0 vs 11.1;ワクチン有効率 91.4%(80.2% vs 97.0%)
副次的アウトカム【1000人/年あたりの帯状疱疹後神経痛】
50-59歳:0.0 vs 0.6;ワクチン有効率 100%(40.8% vs 100%)
60-69歳:0.0 vs 0.2;ワクチン有効率 100%(-442.9% vs 100%)
70-79歳:0.1 vs 1.2;ワクチン有効率 93.0%(72.4% vs 99.2%)
80歳以上:0.3 vs 1.1;ワクチン有効率 71.2%(-51.6% vs 97.1%)
【考察】
これまでの結果からも想定されたように帯状疱疹発症への有効率は90%程度となりました。また帯状疱疹後神経痛についても検討されており、発症数が少なく参考程度ではありますが、こちらも大幅な減少が認められたようです。
有効性については十分に期待できるのではないでしょうか。
最後に、生ワクチンと不活化ワクチン、プラセボに関するネットワークメタ解析を紹介します。
Efficacy, effectiveness, and safety of herpes zoster vaccines in adults aged 50 and older: systematic review and network meta-analysis
P:50歳以上の成人
E/C:帯状疱疹弱毒化生ワクチン(HZ/su)、帯状疱疹不活化ワクチン(ZVL)、プラセボの接種、非ワクチン
O:帯状疱疹の発生
副次的アウトカム:眼部帯状疱疹、帯状疱疹後神経痛、QOL、有害事象、死亡
デザイン:ネットワークメタ解析(204万4,504例のデータを含む27試験(RCTは22試験)と18の関連試験報告(companion report))
評価者バイアス:7人が独立して行った
出版バイアス:言語制限なし。Funnel Plotあり→やや外れているものが多いような…
元論文バイアス:RCTのメタ解析の項目もあり
異質性バイアス:ブロモグラムなし。I²の記載なし。
閉じた環:なし(プラセボ vs 生ワクチン、プラセボ vs 不活化ワクチンの論文のみで、生ワクチン vs 不活化ワクチンの論文はないようで…)
【結果】
※下の表はRCTのみの解析結果
※「HZ/su vs ZVL」は間接比較、「HZ/su vs placebo」および「ZVL vs placebo」は直接比較
※()内は95%CI
【考察】
ネットワークメタ解析による間接比較にて、帯状疱疹の発症に関しては生ワクチンよりも不活化ワクチンの方が効果的であることが示唆されました。その差は比較的大きいと感じます。直接比較の試験がないので信頼できる数字なのかどうかは分かりません。