NSAIDによる塩分・体液貯留→心不全のリスクはよく言われるところであり、 「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」においてNSAIDは心不全の増悪因子として以下のように記載されております。
さて、そのリスクはどの程度か?ということに疑問を持ったため、文献検索を行いました。
今回は私が独断と偏見で選択した4つの文献を紹介します。
まず1つ目はヨーロッパのコホート内症例対象研究。
Non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of heart failure in four European countries: nested case-control study
(欧州4か国でのNSAIDと心不全リスク:コホート内症例対象研究)
P:2000~10年にNSAID治療(27種類のNSAID(従来型NSAIDs23種類と選択的COX2阻害薬4種類を含む))を開始したヨーロッパ4か国の成人とマッチされた成人(年齢≧18歳)
E:current users(心不全群:16081人(17.4%)、マッチング群:1193537人(14.4%))
C:past users
O:心不全による入院
※current users:NSAIDの服用の可能性が14日前以内
recent users: NSAIDの服用の可能性が15-183日前
past users: NSAIDの服用の可能性が184日以上前
デザイン:コホート内症例対照研究
マッチング:されている(年齢、性別、登録日)(最大100人とマッチング)
調整された交絡因子:調整されているようだが、項目はよく分からず…(Table2?)
ベースライン:平均年齢-心不全群:77歳、マッチング群:76歳、男性45%
Limitation:市販のNSAIDは対象外、処方データであり内服したかどうかは不明、1日用量が正確に把握できていなかった可能性、残存交絡因子の可能性、それぞれのデータベースから得られる情報に差があった
【結果】【心不全による入院;E群 vs C群】
※27種類のNSAIDのうち9つで有意に上昇。日本で発売されている薬剤のみ記載
その他解析【エンドポイントは全て心不全入院】
☆recent users vs past users:OR 1.00(0.99~1.02)
☆心不全既往なし群 vs 心不全既往群:それぞれの薬剤で有意差なし
☆男性 vs 女性:それぞれの薬剤で有意差なし
☆1日用量別↓
※Low:DDD≦0.8、Medium:DDD:0.9-1.2、High:DDD:1.3-1.9、Very high:DDD≧2Non-steroidal anti-inflammatory drugs and risk of heart failure exacerbation: A systematic review and meta-analysis
P:心不全既往患者
E:NSAIDの使用
C:NSAIDの非使用
O:心不全増悪(従来のNSAIDs、celecoxib、rofecoxib)
デザイン:6件の観察研究のメタ解析
従来のNSAIDs:RR 1.39;95%CI 1.20-1.62
セレコキシブ:RR 1.34;95%CI:0.98-1.85
ロフェコキシブ:RR 2.04;95%CI:1.68-2.48
※ロフェコキシブのRRは、従来のNSAIDsよりも有意に高かった(p=0.02)
【考察】
こちらはアブストラクトのみしか読めませんでした。
Nonsteroidal Anti-inflammatory Drugs and Risk of Incident Heart Failure: A Systematic Review and Meta-analysis of Observational Studies
P:症例対照研究4件、コホート研究3件の合計7研究の参加者7,543,805人
E:NSAID服用
C:NSAID非服用
O:心不全発症
デザイン:症例対照研究4件、コホート研究3件のメタ解析(7,543,805人)
評価者バイアス:2人の評価者が独立して抽出している
出版バイアス:言語制限は不明。Funnel Plotなし
元論文バイアス:メタ解析の観察研究
異質性バイアス:I²はばらつきあり。
Limitation:処方データであり内服したかどうかは不明、市販薬の情報がない、入院に至った心不全症例のみであること、NSAID暴露の定義が研究間で異なる
主要アウトカム【全てのNSAIDの心不全発症リスク】
〇症例対照研究:RR 1.27;95%CI:0.97-1.66;I²=71%;4試験
〇観察研究:RR 1.05;95%CI:0.93-1.17;I²=0%;3試験
〇合計:RR 1.17;95%CI:1.01-1.36 ;I²=53%;7試験
副次的アウトカム【従来のNSAIDの心不全発症リスク】
〇症例対照研究:RR 1.43;95%CI:1.20-1.71;I²=0%;3試験
〇観察研究:RR 1.05;95%CI:0.80-1.51;I²=0%;2試験
〇合計:RR 1.35;95%CI:1.15-1.57 ;I²=0%;5試験
副次的アウトカム【COX-2選択性の心不全発症リスク】
〇合計:RR 1.03;95%CI:0.92-1.16;I²=0%;2試験
【考察】
こちらでは心不全の新規発症の増加が示唆されました。
症例対象研究と観察研究とで結果が異なるので、解釈には注意が必要かもしれません。
4つ目はRCTのメタ解析(心不全入院リスクは副次的アウトカム)。
Vascular and upper gastrointestinal effects of non-steroidal anti-inflammatory drugs: meta-analyses of individual participant data from randomised trials
(NSAIDの血管および上部消化管効果:RCTのメタ解析)
P:NSAIDs vs プラセボの280試験(124,513人、68,342人/年)と、NSAID vs 他のNSAIDの474試験(229,296人、165,456人/年)
E:NSAID服用
C:プラセボまたは他のNSAID服用
O:主要血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または血管死)、主要冠動脈イベント(非致死的心筋梗塞または血管死)、脳卒中、死亡率、心不全による入院、および上部消化管合併症(穿孔、閉塞、または出血)
デザイン:RCTのメタ解析
評価者バイアス:2人の評価者が独立して抽出している
出版バイアス:Funnel Plotなし。言語制限不明
元論文バイアス:RCTのメタ解析
異質性バイアス:P値にて記載。大きな異質性はなさそう
【結果】
COX-2阻害剤の種類別
〇主要血管イベント
セレコキシブ:1.36(0.91-2.02)
ロフェコキシブ:1.38(0.99-1.94)
〇上部消化管複合イベント
セレコキシブ:1.31(0.73-2.37)
ロフェコキシブ:2.43(1.42-4.16)
※用量、服用期間に関する解析もあったが、イベント数が少なく、ここでは特に取り上げません。
【結果】
NSAIDにて心不全による入院のリスクは高まる傾向でした。
こちらは観察研究のメタ解析よりはリスクがやや高めになっている印象です。
また上部消化管複合イベントは、やはりCOX-2阻害剤の方でリスクが低いようです。
【全体を通して】
NSAIDによる心不全のリスクは高まりそうな印象です。未発症でもリスクは十分にありそうです。ただ、今回の論文ではNNHが十分に把握できませんでした(それぞれの個別の研究を読めばいいだけかもしれませんが…)。「心不全」はそれほど頻度の高い疾患ではないと思いますが、特に既往患者ではより注意が必要なのではないかと思います。
COX-2選択性かどうかはあまり関係なさそうですので、どちらでもよければより上部消化管イベントの低いCOX-2阻害型を選んだ方がいいのではないかと思いました。
投与期間、投与量については不明確な点が多いですが、いずれも最小限で使用するのが望ましいかと思います。
今回は以上になります!
参考になれば嬉しいです!