リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

COPD治療薬もろもろ-6【吸入薬のリスク(LAMA,LABA編)】

前回はICSのリスクについてみましたので、今回はLAMAの尿閉リスクとLABAの心血管イベントリスクをみていきます。

 

LAMA(というよりは、吸入抗コリン薬全体になりましたが)の尿閉リスクについては、知り合いにこちらのシステマテックレビュー(PMID:25083248)を教えてもらいましたので、この中にある2つの文献についてみていきます。

 

Inhaled anticholinergic drugs and risk of acute urinary retention.

(吸入抗コリン薬と急性尿閉リスク)

BJU Int. 2011 Apr;107(8):1265-72.

PMID:20880196

 

P:12か月以上の歴のある45歳以上のCOPD患者全員

E:吸入抗コリン薬投与

C:吸入抗コリン薬非投与

O:急性尿閉リスク

 

デザイン:a nested case-control study within a cohort

マッチング:年齢、性別、指標の日、COPDの重症度、不動状態、経口ステロイド、吸入β2刺激薬

 

結果(対照は未使用患者)

現在の使用:調節後OR 1.40;95%CI:0.99-1.98

チオトロピウム:調節後OR 1.55;95%CI:0.80–3.00

イプラトロピウム:調節後OR 1.37;95%CI:0.96–1.98

※チオトロピウム群とイプラトロピウム群間での差はなしとの記載あり

使用開始2週間未満:調節後OR 3.11;95%CI:1.21–7.98

使用開始2週間以上:調節後OR 1.33;95%CI:0.94–1.90

ネブライザー:調節後OR 2.92;95%CI:1.17–7.31

【BPHあり】

現在の使用:調節後OR 4.67;95%CI:1.56–14.0

チオトロピウム:調節後OR 4.02;95%CI:0.66–24.6

イプラトロピウム:調節後OR 4.73;95%CI:1.53–14.6

【男性のみ】

現在の使用:調節後OR 1.73 (1.20–2.51)

チオトロピウム:調節後OR 1.65 (0.80–3.42)

イプラトロピウム:調節後OR 1.75 (1.19–2.57)

 

感想

特に使用開始直後と、前立腺肥大患者には注意が必要なようです。ただ、SABAのイプラトロピウムの使用が圧倒的に多いのは、現状とそぐわないのではないかと思います。成分間でのアウトカムへの差はなかったようですが。あとは、サンプル数の不足もあるように思います。チオトロピウム、イプラトロピウムの「現在の使用」は未使用と比較して有意差が付いていませんが、その辺がどうなのかと思います。

 

 次の文献はアブストラクトのみしか読めませんでしたが。

Inhaled anticholinergic drug therapy and the risk of acute urinary retention in chronic obstructive pulmonary disease: a population-based study.

(COPD患者の吸入抗コリン薬治療と急性尿閉のリスク)

Arch Intern Med. 2011 May 23;171(10):914-20.

PMID:21606096

 

P:66歳以上のCOPD患者

E:吸入抗コリン薬使用

C:吸入抗コリン薬非使用

O:急性尿閉リスク

 

デザイン:A nested case-control study

 

結果

【男性COPD患者の急性尿閉リスク(抗コリン薬非使用者が対照)】

新規使用:調整オッズ比1.42 (1.20-1.68)

【男性良性前立腺肥大患者における尿閉リスク】

新規使用:調整オッズ比1.81 (1.46-2.24)

 

感想

やはり最近の使用開始や前立腺肥大がリスク因子となりそうです。

(フリーでは読めないと書きましたが、実はPDFが落ちてたので読めたのですが、)記載されていたNNHから考慮すると、最近の使用開始+前立腺肥大の患者には十分に注意した方がよい印象です。

 

 

 

次はLABAの心血管イベントについてみていきます。

まずはRCTから。

Cardiovascular events in patients with COPD: TORCH study results.

(COPD患者の心血管イベント)

Thorax. 2010 Aug;65(8):719-25.

PMID:20685748

 

P:40歳~80歳(平均65歳)の喫煙者または元喫煙者の中等度から重度COPD患者。

E:1日2回のサルメテロール50mg+フルチカゾン500mg(SFC)、それぞれの単独

C:プラセボ投与

O:心血管イベントの発生率

 

デザイン:RCTの事後解析

脱落率:プラセボ群44%、サルメテロール群37%、フルチカゾン群39%、SFC群34%

 

結果

3年の心血管有害事象の発生率:プラセボ群24.2%、サルメテロール群22.7%、フルチカゾン群24.3%、SFC群20.8%

 

感想

脱落が多いのが気になりますが、差はなかったようです。3年で各群20%強というのは多いようにも思いますので、ハイリスク患者が多かったのかなと思います。SABA使用者が60%だったとの記載もあり、その影響もあるかもしれませんが。

ちなみに、インダカテロールの研究(PMID:22003293)もありましたが、こちらも差はなかったようです。ただ、症例数が少ないようです。また、心血管イベントの発現率が他の研究と比べるとかなり少ないです。

 

次は観察研究を。

Cardiovascular safety of inhaled long-acting bronchodilators in individuals with chronic obstructive pulmonary disease.

(COPD患者へのLABAの心血管への安全性)

JAMA Intern Med. 2013 Jul 8;173(13):1175-85. 

PMID:23689820

 

P:健康行政データに基づき、COPDの有効な症例定義に合致し、2003/9/1~2009/3/31までの間にCOPDの治療を受けた66歳以上全員

E:LABAまたはLAMAの新規使用

C:LABA、LAMA非投与

O:心血管イベントによる救急受診または入院

 

デザイン:a nested case-control analysis of a retrospective cohort study

傾向スコアマッチング:それぞれの症例について、年齢(±1歳)、性別、COPDの罹病期間、心不全および急性冠動脈疾患、心不全心筋梗塞不整脈、急性呼吸器疾患(COPDの急性増悪、肺炎、インフルエンザ、急性気管支炎)による入院歴にて1症例がランダムに選択された。

 

結果

【入院+救急受診】

新規LABA vs 非使用患者:調整オッズ比 1.31;95%CI:1.12-1.52

新規LAMA vs 非使用患者:調整オッズ比1.14;95%CI:1.01-1.28

新規LABA vs新規LAMA :調整オッズ比 1.15;95%CI:0.95-1.38

 

感想

LABA、LAMAとも有意差がついています。しかもそれなりにインパクトのあるオッズ比のように思います。Figを見る限りでは、開始初期の方の発現率が高いようです。「limitation」には、未知の交絡因子やCOPDの誤分類等の記載がありました。

RCTでは差は付きませんでしたが、信頼性はそれほど高くないようにも思いますし、まだあまり研究が出ていないようなので今後を待ちたいと思いますが、ひとまずは注意が必要といえそうです。

 

次回は吸入デバイスを。