今回はデバイスに関する文献を。
まずは某メーカーの製品説明会で紹介された、吸入のアドヒアランスと死亡率の関連についての文献を。RCTのサブ解析ではありますが。
Adherence to inhaled therapy, mortality and hospital admission in COPD.
Thorax. 2009 Nov;64(11):939-43.
PMID:19703830
P:中等度から重度のCOPD患者6112人
E:アドヒアランス良好(80%以上の使用と定義)(4880人、79.8%)
C:アドヒアランス不良(1232人、20.2%)
O:全死亡および入院
デザイン:RCT(TORCH study)のコホート内観察研究
追跡期間:3年
交絡因子の調整:多変量解析がなされている(死亡-地域・年齢・性別・喫煙状態・FEV1・BMI・MRC呼吸困難スコア・吸入コルチコステロイド使用歴・心筋梗塞既往歴および治療、入院-地域・年齢・性別・喫煙状態・FEV1・BMI・増悪歴および治療)
結果(SAL:サルメテロール、FP:フルチカゾンプロピオン酸、SFC:サルメテロール/フルチカゾンプロピオン酸)
・3年間の死亡率-E群 vs C群:11.3% vs 26.4%(調節ハザード比0.40;95%CI:0.35-0.46)
※E群の使用薬剤別死亡率:SAL-10.7%,FP-12.9%, SFC-9.5%,placebo-12.0%
※C群の使用薬剤別死亡率:SAL-2.52%,FP-28.7%, SFC-24.9%,placebo-26.7%
・増悪による入院の1年1患者あたり回数:E群0.15回vs C群0.27回
※E群の使用薬剤別1年1患者あたりの入院率:SAL-0.14回,FP-0.15回, SFC-0.14回,placebo-0.16回
※C群の使用薬剤別1年1患者あたりの入院率:SAL-0.26回,FP-0.26回, SFC-0.25回,placebo-0.36回
・入院率-E群 vs C群:調節リスク比0.56;95%CI:0.48-0.65
感想
この結果を説明会で聴いて驚いたのですが、実際に読んでもインパクトがありました。アドヒアランスはかなり重要なのかなと思います。ただ、アドヒアランス良好ということで、病識が高いなどの交絡因子は存在するのではないかと思います。実際に、プラセボにおいてもE群とC群では死亡、入院ともに大きな差がついています。なかなか興味深い所です。
次はGOLDガイドラインにも出てきた文献。GOLDガイドラインでの引用文献171。
Inhaler mishandling remains common in real life and is associated with reduced disease control.
(吸入器の誤った取り扱いは、実生活では依然として一般的であり、疾患管理の低減と関連している。)
Respir Med. 2011 Jun;105(6):930-8.
PMID:21367593
P:吸入器を使用した平均62歳の1664人(COPD52%、喘息42%)。使用したデバイスは、MDI:843人、DPI:1113人(Aerolizer:82人、Diskus:467人、HandiHaler:505人、Turbuhaler:361人)。計2288件の吸入技術の記録があった。
E:MDIの使用
C:DPIの使用
O:デバイス間での誤使用率の差、誤使用の関連因子や影響
デザイン:他施設(24施設)横断的観察研究
2次アウトカム:クリティカルエラーと入院リスクの増加, 救急受診,経口ステロイドの使用,抗菌薬の使用との関連、それぞれのデバイスによる各操作におけるエラー率
傾向スコアマッチング:されていない
交絡因子の調整:されていない(2次アウトカムは吸入デバイス、診断(喘息、COPD)で調整されている)
結果
1次アウトカム(デバイス別のクリティカルエラー率)
MDI 12%、Diskus 35%、HandiHaler/ Aerolizer 35%、Turbuhaler 44%
2次アウトカム(吸入器の誤使用による影響)
入院リスク:OR 1.47±SE 0.17
救急受診:OR 1.62±SE0.20
経口ステロイド使用:OR 1.50±SE0.15
抗菌薬の使用増加:OR 1.54±SE0.16
2次アウトカム(吸入器誤使用のリスク因子)
年齢(p = 0.008)
低学歴(p = 0.001)
医療従事者からの吸入技術の指導不足 (OR 2.28±0.05; p <0.001)←比較対象がよく分からず…
(35%は吸入指導のフォローがなく、24%が1回、20%が2回以上のフォローがあり、フォローがあった方が誤使用が低減した(OR 0.70±0.07; p = 0.0001))
感想
GOLDガイドラインではこの文献について、「不十分な吸入器の使用と症状のコントロールの有意な関連が同定された」と記載されていますが、上記の結果からそれは理解できました。ただ、それぞれのデバイスのチェックシートのcritical errorsとして選択されている項目に少し引っかかります。DPI群の方が厳しいような気がします。また、pMDIは平均年齢が51歳と若い喘息群に多く、DPIは平均年齢が70歳のCOPD群に多かったので、DPIには不利な結果になっていると思います。交絡因子の調整もイマイチですし。
以下2つの文献はアブストラクトのみしか読めませんでしたが、気になったので取り上げていきます。
Assessment of the factors affecting the failure to use inhaler devices before and after training.
(訓練の前後の吸入デバイスの使用の際の失敗に影響を与える要因の調査)
Respir Med. 2015 Apr;109(4):451-8.
PMID:25771037
P:吸入器を連続使用している患者342人
E:pMDIおよびDPIにおける正確な使用
C:pMDIおよびDPIにおける不正確な使用
O:正しい使用に影響を及ぼすパラメータ、トレーニングの寄与、トレーニング後も誤って吸入器を使用要因
結果
・各デバイスの訓練前と訓練後の正確な使用の割合
DPI:訓練前58.9%→訓練後92.6%
pMDI:訓練前31.1%→訓練後45.2%
・正しい使用に影響を及ぼすパラメータ:教育状況、性別、農村部での生活、罹病期間、呼吸器の専門家による診断およびフォローアップ
・トレーニング後も誤って吸入器を使用する要因:高齢者、pMDI
感想
DPIよりもpMDIの方が誤使用の割合が明らかに高かったですが、これは先ほど取り上げた文献も同じでした。ただ、先の文献ではcritical errorsに限ればDPIの方が多かったというものでした。今回はどういったチェックシートを使ったのかが不明ですが、おそらくpMDIは細かいミスが多いのかなと思います。
高齢者はトレーニング後も誤って使用する要因というのは、まあ実体験から良く知っていることではありますが、、、
Chronic obstructive pulmonary disease exacerbation and inhaler device handling: real-life assessment of 2935 patients.
(COPDの増悪と吸入デバイスの取り扱い:2935人の実態調査)
Eur Respir J. 2017 Feb 15;49(2). pii: 1601794.
PMID:28182569
P:COPDにて吸入器を使用している患者2935人、計3393個(Breezhaler(n = 876)、Diskus(n = 452)、Handihaler (n= 598)、pMDI(n = 422)、Respimat(n = 625)、Turbuhaler(n = 420))
E:吸入器の正確な使用
C:吸入器の不正確な使用
O:COPDの増悪
結果
COPDの増悪(過去3か月の入院および救急受診):エラーなし群3.3%(95%CI 2.0-4.5)vs クリティカルエラーあり群6.9%(95%CI 5.3-8.5)(OR 1.86,95%CI 1.14-3.04)
各デバイス使用者のクリティカルエラー率:Breezhaler(15.4%)、Diskus(21.2%)、Handihaler(29.3%)、pMDI(43.8%)、Respimat(46.9%)、Turbuhaler(32.1%)
※クリティカルエラー以外を含めると、全てのデバイスで50%以上の誤りがあった。
感想
クリティカルエラーと増悪との関連が示唆されました。想像以上に差が出ている印象です。クリティカルエラー率は今までの文献と比べるとデバイス間で異なります。今回は操作の評価法が不明なので、他の文献とただ単純に比べることは難しいのではないかと思います。
全体を通して
COPDの増悪と吸入デバイスの不正確な使用(特にクリティカルエラー)には関連がありそうな感じです。ただ、そのエラーの差というのは文献間で比べるのは難しいと感じました。それぞれで異なるチェックシートを使っている可能性もありますし、評価者も異なりますし。またデバイス間の比較に関しても、同様の理由やそれぞれの操作の重要度等も異なると思いますので。
また高齢者で操作の不備が多かったようですが、それはそうですよね。特にCOPDは高齢者が多いので、できるだけ使用しやすいデバイスを選択するとともに、頻繁に操作のチェックをする必要があると感じました。また、高齢者が全ての手技をパーフェクトにこなすのはなかなか難しいと思います。いわゆるクリティカルエラーを起こさないようなデバイスの選択や指導が重要になってくるのではないかと思います。ここ最近でたくさんのデバイスが発売されたので、より適切なものを選んでいきたいです。