リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

COPD治療薬もろもろ-4【去痰剤およびPDE4阻害剤】

今回は、吸入薬以外のCOPD治療薬についての続きです。前回は抗菌薬の予防的投与を取り上げましたが、今日は去痰剤とPDE4阻害剤についてです。

いずれもコクランのシステマテックレビューをみていきます。

まずは去痰剤から。

 

Mucolytic agents versus placebo for chronic bronchitis or chronic obstructive pulmonary disease.

(慢性気管支炎およびCOPDに対する粘液用解薬vsプラセボ)

Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jul 29;(7):CD001287.

PMID:26222376

 

P:成人の慢性気管支炎やCOPD患者(喘息、嚢胞性線維症患者は除外されている)

E:粘液溶解薬投与

C:プラセボ投与

O:増悪の頻度や障害の日数を減らすかどうか

 

デザイン:(最低2か月の粘液溶解薬とプラセボを比較した)RCTのメタ解析。それぞれのRCTはITT解析またはper protocol解析で行われている(?)

1次アウトカム:Oに記載

2次アウトカム:肺機能やQOLの改善、有害事象

 

評価者バイアス:「For earlier versions, one review author extracted data,which were rechecked in subsequent updates. In later versions, review authors double-checked extracted data and then entered data into RevMan for analysis.」との記載あり。

出版バイアス:「Search methods for identification of studies」および「Data collection and analysis」に記載あり。また、Funnel Plotが使用されており、それほど偏りはなさそう。

元論文バイアス:RCTのメタ解析であるが、ITT解析とper protocol解析のものがある。

異質性バイアス:いずれのアウトカムの解析結果も、I²が小さくはない。プロボグラムの結果は概ね一致しているように見える。

 

結果

1次アウトカム

・追跡期間中の増悪なし割合(E群vs C群):Peto OR 1.75,95%CI:1.57-1.94,I²=63%(26試験、6223人)※「より最近の研究は、このレビューでの古い研究の報告よりも治療の利点が少ないことを示す」との記載あり。

・平均10か月、参加者が増悪しない状態を維持する追加の有益なアウトカムのために粘液溶解薬による治療必要数(NTB):8 (95%CI:7-10)

・1患者1か月あたりの増悪の平均差(MD): MD -0.03回(=-0.36回/年or-1回/3年) 95%CI:(-0.04)-(-0.03),I²=85%(28試験、7164人)

・1患者1か月あたりの障害の日数の平均差:MD -0.43日(95%CI(-0.56)-(-0.30),I²=61%(13研究)

・1回以上の入院者数:Peto OR 0.68,95%CI:0.52-0.89;I²=58%(4研究、1788人)※「(それぞれの)研究結果は一致しなかった」との記載あり。

2次アウトカム

・SGRQスコア:MD -2.64,95%CI:(-5.21)-(-0.08);I²=51%(5研究、2231人)※最小限臨床的に重要な差の4Ptに届かず

・有害事象:Peto OR 1.03,95%CI:0.52-2.03;I²=0%(8研究、2931人)

 

感想

まず全体として「より過去の試験で示された増悪への効果の方が、より最近の試験にて報告されたより大きかったという真実によって、私たちの結果に対する信頼は減少した。おそらく過去の試験は選択バイアスや出版バイアスのリスクがより大きいため、治療の効果は以前のエビデンスで示唆されている大きさと同じではないかもしれない。」との記載があります。これはこのレビューを理解する上でとても重要なことかと思います。。

さて結果についてですが、このレビューで取り上げられている文献の多くがNアセチルシステインプラセボの比較であることを十分に考慮しなければなりません。本邦で、去痰の目的でNアセチルシステインの内服が使われることはありませんので。このレビュー内でカルボシステインの効果については、1患者1か月辺りの増悪の変化についてのみメタ解析にて検討されております(MD -0.03, 95%CI(-0.04)-(-0.02),I²=82%(4試験、1340人))。上述したこのレビューでの去痰薬全体の結果を類似しています。他のアウトカムも検討して欲しかったですが。。。これだけを見れば、約3年に1回増悪を減らすだけなので、効果は微妙かもしれません。ただ、33人が1か月服用すれば、そのうち1人の増悪が抑えられると考えると、効果はあるのかなと思います。アンブロキソールも複数の報告があるようですが、メタ解析はされていませんでした。

全体的に有害事象は少ない薬効群だとは思いますし、薬価は安いですので、症状があれば積極的に使えばいいのではないかと感じています。

 

続いてはPDE4阻害剤について。PDE4阻害剤は本邦ではまだ発売されておりませんが、マクロライド系抗菌薬同様、GOLDガイドラインのグループDでの追加が考慮される薬剤となっています。ガイドライン上では、roflumilastが記載されています。ということで、PDE4阻害剤のコクランレビューをみていきます。

 

文献157

Phosphodiesterase 4 inhibitors for chronic obstructive pulmonary disease.

(COPDへのPDE4阻害剤)

Cochrane Database Syst Rev. 2013 Nov 4;(11):CD002309.

PMID:24190161

 

P:安定したCOPD患者(平均64歳の中等度〜非常に重度のCOPD(GOLDグレードII〜IV)の国際的な研究施設の患者)

E:PDE4阻害剤の投与

C:プラセボの投与

O:一秒量(FEV1)、努力性肺活量 (FVC)、ピークフロー(PEF)を含む肺機能のベースラインからの変化およびQOL(SGRQスコアを用いて)の変化の差

 

デザイン:RCTのメタ解析(それぞれのRCTは、一部を除いてITT解析されている。また、1次アウトカムに関しては、per protocolよりもITT解析を優先しているとの記載あり)

1次アウトカム:Oに記載

2次アウトカム:COPD増悪の発生率、症状(様々なスコアが使用されている)、6分間歩行テスト、有害事象、重篤な有害事象及び死亡

 

評価者バイアス:「One review author extracted data and a second review author checked the data, before entry into The Cochrane Collaboration software program (RevMan version 5.2).」との記載あり。

出版バイアス:「Search methods for identification of studies」および「Data collection and analysis」に記載あり。また、Funnel Plotは使用されているが、少しばらついている印象で幅は広い。

元論文バイアス:RCTのメタ解析(それぞれのRCTは、一部を除いてITT解析されている。)

異質性バイアス:それぞれのアウトカムの異質性は平均すると中等度というところか。プロボグラムは概ね一致しているように見える。

 

結果

1次アウトカム

・一秒量(FEV1):MD 45.60 mL; 95%CI:39.45-51.75,I²=46%(15,670人、22試験、中等度の異質性と報告バイアスのリスクにより、中等度の質のエビデンス)

・努力性肺活量 (FVC):MD 84.66 mL; 95%CI:68.33-100.99,I²=19%(10,861人、13試験)

ピークフロー(PEF):MD 6.54L/min;95%CI:3.95-9.13,I²=74%(4,245人、6試験)

RCTのメタ解析

QOL(SGRQスコア):MD -1.04; 95%CI:-1.66-0.41,I²=50% (7,618人、10試験、中等度の異質性と報告バイアスのリスクにより、中等度の質のエビデンス)

2次アウトカム

・1回以上のCOPD増悪の発生人数:OR 0.77; 95% CI:0.71-0.83,I²=7% (15,035人、20試験、高い質のエビデンス)

・試験期間中の100人当たりの喘息増悪を来さないための治療必要数NNTB:20;95%CI:16-27

・症状(様々なスコアが使用されている):やや改善傾向であるが、ほとんど変わらず

・6分間歩行テスト:MD 1.92;95%CI:(-7.58)-11.41,I²=48% (1,948人、4試験)

・有害事象発現率:OR 1.27;95%CI:1.19-1.36,I²=59%(16,048人、23試験)

・有害事象による脱落率:OR 1.84;95%CI:1.66-2.03,I²=25% (16,056人、24試験)

・非致死的な重篤な有害事象:OR 1.01;95%CI:1.91-1.11,I²=58% (14,375人、21試験)

・死亡:OR 0.92;95%CI:0.69-1.22,I²=0% (15,030人、20試験)

 

感想

まだまだ十分な検討ができていないという事だと思いますが、1次アウトカムがソフトエンドポイントで、よく分からないです(それぞれの指標のこともあまり理解できていおりません。)。2次アウトカムの増悪関連をみるとそれなりに効果はありそうですが、何せ有害事象が多いですね。レビューではもう少し詳しく解析してありますが、消化器症状が多いようです。有害事象による脱落も多いですね。作用機序や有害事象の症状からみて、テオフィリンと同じようなイメージかなと思います。

有害事象に十分な注意をした上で使用するのであればよいのではないかと思います。

 

 

次回は、吸入薬の副作用についてみていく予定です。