前回はエスゾピクロンに的を絞りましたが、今回はゾルピデムのリスクをみていきたいと思います。世界的に使用量が多いのか、単独でのリスクが多く検討されているようです。
まずは転倒リスクから。
Zolpidem is independently associated with increased risk of inpatient falls.
(ゾルピデムは入院患者の転倒リスクの増加と独立して関連している)
J Hosp Med. 2013 Jan;8(1):1-6.
PMID:23165956
P:入院中にゾルピデムを処方された患者16,320人
E:ゾルピデム服用患者4,962人
C:ゾルピデム非服用患者11,358人
O:転倒リスクの違い
デザイン:後ろ向きコホート研究
サブ解析:ゾルピデム服用以外の転倒リスク因子
傾向スコアマッチング:されていない
交絡因子の調整:多変量解析にて、年齢、性別、不眠症、せん妄状態、ゾルピデムの投与量、Charlsonの併存疾患指数、Hendrichの転倒リスクスコア、認知症/認知障害が調整されている。(単変量解析で有意差のなかった入院期間、視力障害の存在、歩行異常は含まれていない)
Limitation:他の交絡因子の可能性。観察研究であること
【結果】
1次アウトカム(ゾルピデム服用群の転倒リスク)
E群 vs C群:3.04/100患者 vs 0.71/ 100患者;オッズ比[OR] 4.37,95%CI:3.33–5.74(NNH:43)
※多変量解析後 調整後OR 6.39;95%CI:3.07-14.49
サブ解析 (ゾルピデム服用以外の転倒リスク)(多変量解析後)
リスク因子 | 調整後オッズ比 (95%CI) |
男性 | 1.24(0.93-1.67) |
不眠症 | 1.6(1.17-2.17) |
せん妄 | 2.62(1.73-3.88) |
認知機能障害 | 1.47(0.33-4.53) |
年齢(1歳の上昇) | 1.04(1.03-1.05) |
Hendrich’s転倒リスクスコア (1単位の増加) |
1.3(1.23-1.36) |
Charlson併存疾患スコア (1単位の増加) |
1.33(1.29-1.36) |
用量(1mgの増加) | 0.94(0.82-1.06) |
サブ解析(転倒率)
ゾルピデム1回使用当たりの転倒回数:0.007回(151 / 21,354)→142回服用で1回
※入院1日あたりの転倒回数(ベースライン):0.0028回(672 / 240,015)→357日で1回
【感想】
ちょっと高すぎるのでは?というオッズ比になっています。他の転倒リスクも検討されていますが、用量と差がなかったのが意外です。
あと、サブ解析の転倒率。ゾルピデム服用群では142回の服用で1回の転倒と、なかなか高い頻度のように思います。
転倒リスクは、転倒の定義が難しいようであまり検討されてないようですが。今回もそれは一つ、問題になるところかと思います。
次は骨折リスクについての文献を2つ。
まずは全文を読めないですが、一番新しそうなメタ解析を。
Zolpidem use and risk of fractures: a systematic review and meta-analysis.
(ゾルピデムの使用と骨折リスク)
Osteoporos Int. 2016 Oct;27(10):2935-44.
PMID:27105645
P:9つの研究(4つのコホート研究、4つの症例対象研究、1つのケースクロスオーバー研究)からの合計1,092,925人の参加者(129,148の骨折症例)
E:ゾルピデムの使用
C:ゾルピデムの非使用
O:骨折リスク
【結果】
1次アウトカム(骨折リスク)
E群 vs C群:相対リスク(RR) 1.92;95%CI:1.65-2.24;I²=50.9%
※質の高いサブグループ:1.94-2.76、質の低いサブグループ:1.55-1.79
サブ解析(骨折部位によるリスクの違い)
大腿骨近位部骨折:RR 2.80;95%CI:2.19-3.58
いずれか部位の骨折:RR 1.84;1.67-2.03
【感想】
そりゃあリスク高まりますよね。部位による違いがあるのは興味深い所ではあります。全文読めれば、もう少し色々考察できそうですが。。。
2つ目は全文読める文献(ケースクロスオーバー試験)を。
Zolpidem use and risk of fracture in elderly insomnia patients.
J Prev Med Public Health. 2012 Jul;45(4):219-26.
PMID:22880153
P:2005年1月から2006年6月までの韓国の高齢者全体の健康保険審査・評価サービスのデータベースから抽出された骨折1,508症例
E:骨折1日前のおよび骨折5,10,15,20週前のゾルピデム服用
O:骨折リスク
デザイン:ケースクロスオーバー試験(コントロール期間:骨折の5,10,15,20週前)
2次アウトカム:ベンゾジアゼピン系薬およびベンゾジアゼピン系薬の薬剤別によるリスク
サブ解析:年齢別によるリスク
Limitation:処方されたが服用したかどうかは分からない→実際のリスクはもっと大きい可能性がある。骨折が眠剤由来かどうかわからない。
【結果】
1次アウトカム(ゾルピデムの転倒リスク)(調整された因子:併用薬(抗精神病薬、カルシウムチャンネルブロッカー、抗コリン作用薬、抗てんかん薬、鎮痛薬))
E群 vs C群:調整オッズ比 [aOR] 1.72;95%CI:1.37-2.16
2次アウトカム(ベンゾジアゼピン系薬またはそれら個別の転倒リスク)
ベンゾ全体:aOR 1.00 (0.83, 1.21)
※これ以外はnが少ないため、こちらでは取り上げず。
サブ解析(年齢別)
ゾルピデム:65-69歳、70-74歳、75-79歳、80-84歳は全体とほとんど同じ。85歳以上で他の年代より高め(aOR 4.48 (2.00, 10.04))(ただし、他の群よりもnが少ない)
ベンゾ:どの年齢層も有意差なし。
【感想】
ゾルピデム群のみで骨折リスクが増加して、ベンゾ全体で増加していないというのは、腑に落ちない気もしますが。
ゾルピデム群の85歳以上で骨折リスクが高くなったのは気になるところです。
【全体を通して】
ゾルピデムと転倒・骨折リスクとの関連はありそうな感じですね。他の薬剤とのリスクの違いをもっと知りたいところ。
【最後に】
黄川田先生の遺されたブログにも同じような検討の記事がありましたので、ご紹介しておきます。